都立多摩高校にて課外授業

昨日は地元多摩高校の課外授業でした。

「青梅の仕事人」と題して、地元でカフェをされている方、林業をされている方などが自身の仕事について語ってきたこの授業。

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私は自身の職業を紹介する代わり、「どんな仕事に就く上でも必要になるコミュニケーション能力を身につけよう」というテーマで、アナログゲームを使ったワークショップを行いました。

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写真でプレイしているのはヒットマンガ


基本ルールはカルタと同じですが、札には読み上げるべきセリフが書いておらず、描かれている人物や情景の様子から、自分でセリフを考えるというゲームです。
 
他の人にとって伝わりやすい表現はなにか?このゲームをプレイしながら学んでもらっています。

写真がなくてすみませんが、今回ヒットマンガ以上に生徒さんの興味を引いたのがワンナイト人狼。

村人の中身に紛れ込んだ狼を、わずかな手がかりをもとに話し合いで突き止めていきます。プレイヤーの誰が人間のふりをした狼なのか、疑心暗鬼のコミュニケーションが新鮮だったようです。

プレイ後、大人しめだった生徒さんから「誰かが怪しいとおもったら、もっと積極的に発言しないと勝てないことがわかった」などの声が聞かれ、自身のコミュニケーションについて考えるきっかけになったようです。

また今回は人数の関係で先生方も参加。教え子と同じ立場でゲームに参加していただく中で、大人しく内面にこもりがちだと思っていた生徒が、実は意外と周りを見て行動していたことなどがわかり、「生徒たちの新たな側面が見えた」とおっしゃっていただけました。

アナログゲーム療育、決して発達障害のある人だけに向けたものではないと思いました。

さらにたくさんの人たちにアナログゲームをつかったコミュニケーション力を高めるきっかけを掴んでもらえるよう、今後色々な仕掛けを考えて行きたいと思います。

他者の動きに注意を払う「ウィーウィルロックユー」

他者の動きに注意を払う

発達障害のあるお子さんが共通して難しいのが、刻々と変わる周囲の状況を見て、臨機応変な対応をすることです。

AD/HDのあるお子さんは、集中の困難さゆえ、他のことに気をとられ、重要なことを聞き逃したり、大事なことを見逃してしまうことがしばしばあります。ASDのあるお子さんの場合、自身の興味に集中してそれ以外のことが見えにくいことが多くあります。

今回ご紹介する「ウィーウィルロックユー」では、周囲に合わせて一定のリズムに載って決められたポーズを取る経験を通じて、「他者の動きに注意を払う」習慣を身につけてもらうことを狙っています。

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「ウィーウィルロックユー」のルールは以下のとおりです。

1. 様々なポーズが描かれた絵が一人一枚ずつ配られます。それがその人のポーズです。

2. 全員が「ドン・ドン・パン」と、ロックンロールの名曲”We will rock you”のリズムにのって、膝と手をたたきます。

3. 自分の番の人は、リズムにあわせてまず自分のポーズをとり、次に他の誰かのポーズをとります。

4. 直前にポーズをとられた人に順番がうつります。同じく1回目で自分のポーズ、2回目で他の人のポーズをとり次の人に回していきます。

5. うっかりポーズをとることを忘れたり、自分のポーズを間違えたり、リズムを崩してしまったらその人が負けです。10回プレイし、一番失敗した回数が少ない人が勝ちです。

ゲームをプレイ中の動画がこちらのページに上がっていますので御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=O1hPZm83X6k#t=13

失敗したことがすぐ気づけるのが良い

似通ったポーズもあり、間違えないよう注意する必要がある。

似通ったポーズもあり、間違えないよう注意する必要がある。

「ウィーウィルロックユー」プレイヤーはリズムにあわせて膝や手をたたきつつ、今誰がポーズをとっているのか、いつ自分のポーズが出るか、目をそらさず注意し続ける必要があります。

 他のことに気をとられたり、ボーっとしていると、すぐに「誰の番だっけ・・?あっ自分だ!」となって失敗してしまいます。

日常生活ではなかなかこうはいきません。
たとえば、先生に「宿題です。明日までにこのプリントをやってくるように」と言われたのを聞き逃してしまったとします。お子さんがそのことに気づくのは、翌日宿題を提出するときです。

そのときに「昨日、プリントやってくるようにいったでしょ!ちゃんと話を聞きなさい!」と叱られても、すでに過ぎたことをもう一度思い起こして気をつけることは大変困難なのです。

 「ウィーウィルロックユー」が注意力の訓練ツールとして優れているのは、相手が自分のポーズをとったのを見逃すと、次の瞬間には失敗が明らかになることです。

注意を怠った瞬間に失敗するため、お子さんは「今他の事に気をとられていたな」「さっき自分はボーっとしていたな」と自覚しやすく、また指導員も「今よそみをしていたね。残念!」「ちょっと今ボーっとしてたんじゃない?」と言葉がけがしやすいのです。

このゲームを通じて、お子さんに「他の人の動きを注目していないと負ける」という体験、続いて「しっかり注目したら勝てた」という体験を短時間のうちに繰り返してもらうことで、必要な場面では周囲を注目する習慣をつけてもらうことができます。

「褒めない・叱らない」「勇気づける」子育てとは?~アドラー心理学について~

教育・子育て分野で注目が集まる「アドラー心理学」

昨今、「褒めない・叱らない子育て」または「勇気づける子育て」と題した書籍やセミナーの案内を目にすることが多くなりました。

例えば、

といったものがあります。

この「褒めない・叱らない」「勇気づける」子育ての源流になっているのが、アドラー心理学です。

この心理学が我が国で注目されるようになったきっかけは、数年前、そのエッセンスを詰め込んだ書籍「嫌われる勇気」が大ベストセラーになったことです。

かくいう私も、この本を読んだことがきっかけでアドラー心理学を学び、療育者として大きく成長できた、という実感を持っています。

 

「褒めない・叱らない」の理由は?

アドラー心理学を紹介するときに使われる「褒めない・叱らない」あるいは「勇気づける」といったキーワード。

「叱らない」は叱られる側の気持ちを思えばまだしも理解できそうですが、「褒めない」となるとすぐさま納得できる人は少ないのではないでしょうか。さらに「褒める」のではなく「勇気づける」のだと言われてしまえば、前者と後者にどんな違いがあるのか、さらにわからなくなってしまいます。

一つ一つ解説していきましょう。

アドラー心理学は明快に「叱るのも褒めるのもダメ」と言っています。なぜなら叱るのも褒めるのも、それをする側に相手の優位に立って思い通りに操ろうとする意図があり、結果として両者の間に対等でない関係を生み出すからです。

そのことを示す面白い例えが上記「嫌われる勇気」の中で紹介されています。

小さな子どもが皿洗いを手伝ったとき、母親が「お皿洗いして偉いわね」と褒めることがあります。しかし、同じことを夫に言えるでしょうか。中々言えないと思います。もし言ったら夫は「馬鹿にするな!」と怒る可能性が高い。

なぜ夫に言えないことが子どもに言えるのでしょうか。そこにはすでに「大人と子ども」という対等でない関係があるからです。そして、「偉いわね」という褒め言葉はこの非対等な関係を強化してしまうのです。

その結果、子どもは褒められたいがために、母親の指示ばかりを気にし、なぜお皿を洗う必要があるのか自分の頭で考えなくなります。そして、母親の目がないところでは積極的に自分の役割を果たそうとしなくなるでしょう。

どうすればよかったのか。母親は「お皿を洗ってくれたのね。ありがとう。助かったわ」と言えばよかったのです。

こうした言葉がけであれば、子どもは自分が家族の一員として対等に扱われていることを知り、家族に貢献できた自分に自信を持つことができます。その自信は、子どもの中に家族の一員としての責任感を生み出します。その子は、たとえ親の注目がない場面においても、家族の一員として自らの責任を果たすことでしょう。

ここでの「ありがとう。助かったわ」というのが、アドラー心理学でいう「勇気づけ」の言葉がけになります。

勇気付け=braveではない

余談ですが、この「勇気づけ」という言葉も、やや誤解を招きそうです。しばしばBraveという訳語が充てられますが、そうなると「勇気」というより「勇敢」といったニュアンスが強く、我が国の気候変動に多大なる影響を及ぼす元テニス選手の方のように、ひたすら「頑張れ!諦めるな!」と連呼するイメージを思い浮かべてしまいがちです。

注:これはアドラー心理学の「勇気づけ」ではありません。

 

アドラー心理学の「勇気づけ」は、いわゆる「励まし」ではなく、あくまで対等な立場から本人の意志や主体性を尊重しつつ、先に紹介した「ありがとう」の例のように望ましい行動に好意的な言葉をかけたり、本人が望む方向に進めるようアドバイスしたり、明らかに間違った方向に進もうとしたとき望ましくない帰結を示してあげることなのです。

 

作業ができたら報告する「メイクンブレイク」

積み木課題をゲーム化

メイクンブレイクは、提示された見本どおりに積み木を積み上げ、時間内により多くの課題を完成させた人が勝ちとなるゲームです。

見本通りに積み木を積み上げることは、眼と手の協調性を高める目的で、発達障害のあるお子さんに最もよく用いられる療育課題の一つです。

メイクンブレイクは、その積み木課題にゲーム要素を取り入れ、よりお子さんが楽しめるように工夫されています。

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自分でタイマーをセットする

メイクンブレイクは、最初にお子さんがサイコロをふり、出た数字にあわせたタイマーを自分でセットします。

そしてスタートボタンを押し、積み木を組み立て始めます。見本通り完成したら「できました」と報告します。

指導者は、完成した積み木が見本通りであれば、次の課題を提示します。タイマーが切れるまで全部でいくつの課題ができたのかを競います。

実際のプレイの様子はすごろくやさん製作の動画を御覧ください。

 

お子さんの自主性を育む

メイクンブレイクを用いたトレーニングでは、指導者はできるだけお子さんにアドバイスしないようにすることが大切です。

「サイコロを振り、出た数字に合わせてタイマーをセットする。心の準備ができたらスタートボタンを押し、出された課題通りに積み木を組む。完成したら『できました』と報告する」

という一連の流れを、指示がなくとも自律してスピーディにできるようになることがこの課題の目標だからです。

自閉症のあるお子さんの中には、視覚認知に優れ、目で見たものを正確に描いたり、細かいパズルを素早く作れる子がいますが、そうした子の場合、メイクンブレイクで大人も驚くようなスピードで積み木を組み立てることができます。

ところが完成を報告する段階で、つまづいてしまうことが多々あります。

ほぼ見本通りにできているのに、積み木の位置や向きの些細なズレを修正することにこだわりすぎ、いつまで経っても「できました」と報告せず、そのまま時間切れになってしまうことが多いのです。

 

職場で現れるこだわりの強さ

この「ささいなことにこだわりすぎて作業が進まない」という問題は、自閉症のある大人の人が職場で働くときにしばしば見受けられることです。

以前、企業の人事担当者の方から、

「自閉症のある青年を雇って工場のラインで作業させているのだが、ほんのちょっとでも異常があるとすぐに緊急停止ボタンを押してしまう。そのため一日に何度も生産が止まってしまい、効率が悪くなって困っている」

というお話を聞いたことがあります。

異常があったらすぐにラインを停めないといけないのは確かなのですが、その自閉症のある青年の判断基準が厳密すぎるため、、結果的に生産効率が犠牲になってしまっているのです。

ちょうどメイクンブレイクで正しい積み方に厳密になりすぎ、得点の機会を逃してしまうのと同じ形です。

 

状況に応じた適切な判定を、「メイクンブレイク」で学ぶ

大切なことは、自分の基準で判定してしまうのではなく、その場で求められている基準を見て、そこにあわせて判定できるようになることです。

「メイクンブレイク」でその部分を指導することができます。

具体的には、ゲームを進めて行く上で、チェックが厳密すぎるお子さんがいた場合、その子順番を最後に回します。

その上で、他の子が課題を完成させるのを見せ、指導員が「これはちょっとズレすぎてるよ。やりなおし。」あるいは「うーんちょっとズレてるけどこれぐらいならOK」などと判定している場面に注目させます。

その際「さっきのはダメだけど、今くらいのズレならOKみたいだよ。」とアドバイスし、どのくらいの厳密さで組み立てれば良いのか、具体的にイメージを掴ませてあげます

こうした指導により、チェックが厳しすぎたお子さんはその基準を緩め、ほどほどのところで「できました」と報告できるようになります。その結果得点が増え、順位も上がってきます。

こうした経験をくりかえすことで自分独自の基準にこだわるお子さんに、その場その場で求められる基準があり、そこに合わせることで高いパフォーマンスが上げられるという意識をつけてもらうことができます。

その意識は、その子が将来働くときに必要になります。

協力して一つのゴールを目指す 「禁断の砂漠」

協力ゲームでコミュニケーション力を高める

ゲームというと勝敗や順位を競うものばかりと思われがちですが、プレイヤー同士が協力して一つのゴールを目指す 「協力ゲーム」と呼ばれるタイプのゲームがあります。

こうしたゲームは、対戦型のゲームとちがってお互いの思惑や手の内を隠す必要がないため、闊達なコミュニケーションを促せるのが利点です。

今回は「協力ゲーム」の一つ、「禁断の砂漠」をご紹介します。

古代文明が残した飛行機械を発掘し、砂漠を脱出せよ!

冒険者のチームが、古代の砂漠都市を発掘し、太陽光で動くと噂される伝説の飛行機械を修復する任務に送り込まれました。しかし、目的地に着く少し前、予想外の砂嵐に襲われてヘリコプターが墜落してしまいます。

素早く都市を発掘して飛行機械の部品を発見し、脱出のために修理することが唯一の生き残る希望なのです。(説明書より)

「禁断の砂漠」の目的は、砂漠に埋もれた古代都市を発掘し、失われた文明の飛行機械の部品を集めて脱出すること。

まるで映画のようなストーリーを背景に、ドラマチックな展開が次から次へと起こるエキサイティングなゲームです。

古代文明のテーマにした美しいアートワークが子どもたちの冒険心をかきたてる。

砂漠に眠る古代文明テーマにした美しいコンポーネントが、プレイヤーたちの冒険心をかきたてる。

 

しかし、部品を集めるまえにフィールドが砂に埋もれてしまったり、持っている水筒の水が尽きてしまうとゲームオーバー。そうならないために、プレイヤーたちは協力しあって砂を除去したりオアシスで水を補給しつつ、部品探しを続けなければなりません。

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ゲーム開始時の配置。「禁断の砂漠」では、ボードの代わりにカードがフィールドを構成する。砂嵐が吹き荒れるごとにこのカードがどんどん動いて、冒険者たちは思いもよらぬところに運ばれてしまう。また、フィールドの上に置かれた十字型のカードは降り積もる砂を表し、ゲーム中どんどん積み上がってプレイヤーたちの動きを制限する。

 

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精巧に作られた飛行機械のミニチュア。エンジンや羅針盤など各部のパーツは、最初散らばった状態で砂漠に埋もれている。これらを手に入れて飛行機械を完成させ、砂漠から脱出することがゲームの目的だ。


協力ゲームで総合的なコミュニケーション力を高める

これまでご紹介してきたゲームは「わかりやすく伝える」「質問する力を身につける」など、指導の狙いとなる何らかのコミュニケーションスキルがありましたが、「禁断の砂漠」では、特定のスキルを高めるというよりは、総合的なコミュニケーション能力を高めることを主眼においています。

このゲームでは、参加者同士が自由にアドバイスし合ってゲームを進められるので、各参加者のコミュニケーション上の課題が顕著に現れます。そこを捉えて指導します。

典型的なのは、目立たがり屋だったり、ゲームに勝ちたい気持ちが強すぎるお子さんが、一方的に他の子の行動を指示し、他の子はその言いなりになってしまうことです。

特にADHDタイプのお子さんが他の子のプレイを黙って見ていられず、「違うよ!こうやるんだよ!」「そんなことしたらうまくいかないよ!」などと、キツイ言い方で口を出してしまい、相手の子がじっくりと考えたり、みんなで相談しあう機会がなくなってしまうことがあります。

こうなってしまうと、全員のコミュニケーションの練習になりませんし、楽しい時間にもなりません。

指導者の問いかけで適切なコミュニケーションを促す

このような場面で重要になってくるのが、司会役を務める指導者の問いかけです。

仮に目立ちたがりのAちゃんと、おとなしいB君がいたとします。
Aちゃんが勝手にゲームを仕切りだし、他の子のプレイに過剰に口を出すような場合、指導者は

「Aちゃんはこういっているけど、他にもっと良い方法はあるかな?
たとえばB君はどう思う?」

と問いかけることで、目立ちたがりのAちゃんを否定することなく、大人しいBくんにも自分の考えを主張する場面を作ってあげることができます。

また、Aちゃんのように他者に口を出したがる子に対しては、

「Aちゃん、Bくんをよく見てごらん。今、一生懸命考えているよね。まだアドバイスしないほうが良いと思わない?」

「Aちゃん、そのアドバイスの言い方厳しすぎない?そんな言い方されたらB君は困っちゃうよ。ちょっとやわらかい伝え方はないかな?」

といった言葉がけで、
他人にアドバイスするときのタイミングや言葉遣いを指導することができます。

このように指導員の適切な問いかけや言葉がけにより、お子さんは協力ゲームをプレイする過程で、自然に望ましいコミュニケーションを身に付けることができるのです。

役割の違いが活発なコミュニケーションを促す

参加者同士のコミュニケーションを促すうえで、「禁断の砂漠」が優れているのは、プレイヤーごとに異なる役割が割り当てられていることです。

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「給水士」「探検家」「案内人」「考古学者」「気象学者」「登山家」の6つの役割があり、それぞれの強味をもっている。この役割の違いが、プレイヤー同士の助け合いを促す。

たとえば、「登山家」は砂が降り積もって侵入できない場所も乗り越えていける、「給水士」は大型の水筒を持っており他のプレイヤーに水を分けられる、といったようにそれぞれの強味があります。

こうした役割の違いにより、

「Aくん、その砂山を乗り越えて向こうの部品を取ってきて」

「わかった。でも、そろそろ水筒の水が足りなくなってるから、給水士のBさんは後で水を分けてくれない?

と言った具合に、それぞれの役割を意識した積極的なコミュニケーションが生まれ、お互いに「協力しあっている」という実感を持つことができます。

多様な年齢のお子さんが遊べる「協力」ゲーム

「禁断の砂漠」の対象年齢は10歳からとなっていますが、療育では6~7歳くらいのお子さんも参加してもらっています。

先に書いたように、プレイヤーごとの役割の違いがあるので、時として年少の子がチームの危機を救うような場面もしばしばあります。お兄さん、お姉さんに混じってチームの一員として活躍できた、という経験は、その子にとっては大きな自信につながります。

逆に、年長の子どもたちは小さな子をどうやってサポートしていけばよいか、考える練習になります。このように、異なる年齢の子どもたちが協力しあってお互いの関係を深められるのが「協力ゲーム」の良いところです。

 

発達障害児療育に新規参入した方に伝えたいこと

おかげさまで・・・

独立から3ヶ月、「フリーランスの療育アドバイザー」などという仕事が果たして成立するのか半信半疑でしたが(汗)、おかげさまで複数の事業所様からワークショップや研修のご依頼を頂いております。

特に、設立間もない放課後等デイサービスの経営者やスタッフの方から、多くご依頼をいただきます。そうした方々の多くは、「療育の質を高めたい」「スタッフの専門性を高めたい」という思いを強く持っておられます。

その背景には、放課後等デイサービスが各地で急速な勢いで設立され、質の高いサービスが提供できなければ他の事業所との競争の中で淘汰されてしまう、という危機感があるようです。

先生方は熱心だった。それだけにかえって「これだけでよいのか?」という疑問が募った。

急速に拡がる放課後等デイサービス市場。向こう数年以内に飽和し、淘汰の時代が始まるだろう。ビジネス畑から新規参入してきた経営者の多くは、それを見越して質の高い療育サービスを目指している。

 

「発達障害の特性とその対処」だけでは足りない

放課後等デイサービスの経営者やスタッフの中には、畑違いの分野から、発達障害児療育の世界に飛び込んだ方が多くいらっしゃいます。そうした方々は、当然ながら書籍や研修会などでこの障害について熱心に学ばれています。それでも、療育とは何を目指すものなのか、どうすれば質の高い療育ができるのか、今ひとつハッキリしないことが多いようです。

実際にお話を伺うと、こうした方々の多くは「発達障害の特性とその対処」だけを学んだケースが多いと感じます。それゆえ、日々の実践が必ずしもお子さんの成長に繋がっていないようなのです。

他方、療育アドバイザーである私は「お子さんの発達段階に合わせた課題設定」ができることが療育者の最低限の条件だと考えています。

双方の見方の差を下の表にまとめました。

 

  「障害特性とその対処」だけを学んできた人が重視する点 療育アドバイザー(松本)が重視する点

療育の専門性

こだわりや多動性、読み書き困難など、各障害の特性に対する知識があること 子どもがどんな段階を経て発達するか知っていること
スタッフが備えるべき専門性 子どもの障害特性にあわせた支援ができること 子どもの発達段階にあわせた課題設定ができること
教室が備えるべき条件

障害児のストレスにならない環境設定

(視覚支援・構造化など)

各発達段階に対応できる豊富な教材・遊具

 

「障害特性」か「発達段階」か

新たに療育に関わった方は障害特性を重視していることが多いようです。それに対し、療育アドバイザーである私は、発達段階をより重視しています。

上記の表の二つ目、「スタッフが備えるべき専門性」でいえば、療育の世界に新たに入ってきた方の多くは、ASD・ADHD・LDなどの障害特性に対する特別な対応をたくさん知っていることを「専門性の高さ」だと考えている場合が多いです。

例えば、

  • ASD(自閉症スペクトラム障害)の子に言葉ではなく絵カードで指示する
  • ADHDのある子には、一つの作業を細かく区切って、適度に休憩させながら取り組ませる
  • 読みのLDのある子には読むべき場所以外を隠せるフィルターを使わせる

といった工夫を多く知っていることが、「専門家」の条件として評価される傾向にあるようです。

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絵カードの一例。ASDのある子への代表的な支援だ。

 

それに対し、私が療育における専門性として重視するのは「発達段階にあわせた課題設定ができること」です。

たとえば、キャッチボールをやらせて上手く投げられないお子さんがいたら、上投げではなく下投げからやらせてみる。それでもダメならキャッチボールはやめてボーリングにし、ボールを転がさせます。

逆に上投げのキャッチボールが最初から上手にできてしまうなら、ワンランク上の課題として、狙った場所に投げられるようストラックアウトを導入する、といった具合です。

このように、お子さんの発達段階に対応できる”課題の引き出し”を数多く持ちあわせていることが、療育の専門家として最も重要な条件であると、私は考えています。

 

「発達段階に合わせた課題設定」は「障害特性への配慮」に優先する

もちろん、ASD・ADHD・LDなどの各障害特性への配慮は重要です。しかし、発達段階に合わせた課題設定ができるほうが、より優先度が高いと考えます。

なぜなら、お子さんの発達段階にあわない課題を設定してしまうと、たとえ障害特性への配慮があったとしても、お子さんは課題に取り組まず、そればかりか問題行動を起こしてしまうからです。

上記のキャッチボールの例で言えば、肩関節をうまく使いこなせずスムーズな上投げができない子に、上からボールを投げる絵カードを提示した所で、投げられるようにはなりません。

無理にでも投げさせようとすれば、お子さんは怒って課題に取組むことを拒否するか、パニックを起こしてしまいます。

それよりも、この子はまだ上投げはできないなと見たら、まずは下投げから、それもダメならボーリングにするといった課題の引き出しを多く持っていることの方が、効果的かつストレスの少ない療育をする上では重要なのです。

逆に言えば、発達段階にあわせた課題設定さえできれば、大抵の場合お子さんは意欲的に課題に取り組んでくれるので、たとえ障害特性への理解や配慮が不十分だったとしても、その逆であるよりは、問題がおきにくいのです。

 

発達段階が見えると、その子の成長も見えてくる

発達段階に合わせた課題設定ができると、お子さんの成長についても把握できるようになります。

たとえば、ボーリングでボールを転がすだけだった子が、何度か指導して下投げのキャッチボールができるようになった。一年後には上投げのキャッチボールが出来るようになっていた。といった風に、お子さんの成長を達成できた課題レベルの向上を通して測れるようになります。

その結果、スタッフは自身の仕事の成果を実感できるともに、その成果を保護者に報告して信頼と評価を得られます。

これは障害特性とその対処法を学んだだけでは、できないことです。たとえば絵カードを用いたことでお子さんへの指示が通りやすくなったとしても、それだけではお子さんを成長させたことにはなりません。

障害特性とその対処だけを学んだ人が、今ひとつ「療育をした」という実感を持てないのは、この辺りに理由がありそうです。

 

アナログゲーム療育の優位性は「発達段階にあわせた豊富な課題を用意できること」

これまで述べてきたように、発達段階に合わせた課題設定ができることは療育の最優先事項です。

しかし、特に放課後等デイサービスは、対象年齢が小学生から高校生までと幅広いため、各発達段階に合わせた課題を一朝一夕に用意することは困難です。

実はこの点において、本サイトがご紹介しているアナログゲーム療育が一つの解決策になりえます。

下は2歳くらいから上は大人まで、様々な年齢に合わせたゲームが、1000種類以上市場に出回っており、その多くがコミュニケーション療育の課題に成り得るからです。

アナログゲームを導入することで、自分たちでゼロから課題を作らなくても、お子さんの発達段階に合わせたきめ細かい療育が可能になるのです。

多様な発達段階のお子さんに合わせた療育を行うのが難しいと感じている療育関係の方々には、ぜひ導入を検討していただきたいとおもいます。

アナログゲームでお子さんの発達段階にあわせた療育を行なった例は、前回のブログ「アナログゲームを通じた発達支援の実例」にまとめていますので、ぜひ一度ご覧ください。