【2月】発達ナビ掲載記事のまとめ

発達障害のポータルサイト「LITALICO発達ナビ」

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

1月に立ち上がった発達障害のある人のためのポータルサイト「LITALICO発達ナビ」。日々日々大量のQ&Aとコラムが掲載されており、発達障害に関わる人にとって早くも欠かせない情報源になった感があります。

私も、これまで4本の記事を執筆させていただきました。

以下、発達ナビで掲載した記事を、簡単な解説とともにご紹介します。

 

ルール理解に最適!アナログゲームのススメ[2~6歳向け]

幼児から大人まで幅広く遊べる定番中の定番ゲーム、「スティッキー」の紹介です。お子さんのコミュニケーション力形成のためにゲームが果たす役割についても解説しています。

 

かんしゃくの原因、見落としてない?

ゲームに負けた時にお子さんがかんしゃくを起してしまうことについて、原因と対策をまとめました。かんしゃくで困っている方は多いらしく、1万view近い閲覧数を獲得しました。

 

ゲームで「他者への関心」を育もう

身の回りにあるカタログ的な物がなんでもゲームになってしまう「かたろーぐ」を紹介しました。他者理解を深めるのに適したゲームで、発達障害児への実践が新聞に取り上げられた経歴もあるゲームです。

 

自然な会話が生まれる!質問力が身につくカードゲームのすすめ

質問するという行動を繰り返し体験できる「わたしはだあれ」というゲームを紹介しました。ソーシャルスキルトレーニングの教材としてアナログゲームを用いた典型的な事例です。異年齢集団の関わりの重要性にも言及しました。

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

客観的思考が可能になる「具体的操作期」の子どもたち

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

今回は、ピアジェの認知発達段階論の第3段階にあたる「具体的操作期」(7歳~12歳)に差し掛かった子どもたちへのアナログゲーム療育をご紹介します。

この時期のお子さんの特徴を説明する前に、まずその一つ前の段階である前操作期(2~6歳)のお子さんの特徴を復習しましょう。

以前の記事で、前操作期の子どもは、「見た目に惑わされやすい」という話をしました。

たとえば、下の写真のように「間隔を拡げて置いた5つの宝石」と「間隔を詰めて置いた6つの宝石」を並べ、「上と下、どっちが多い?」と聞くと、6歳以前の前操作期のお子さんはたいてい「上」と誤って答えてしまいます。実際の個数よりも、見た目の大きさ(長さ)に惑わされてしまうのです。

_DSC0394

7歳以降、具体的操作期に入ると、そのような間違いはなくなり、きちんと数を数えて多い方を指すことができるようになります。このときお子さんは、「上が5で下が6」「5と6では6のほうが多い」といったふうに、数という「目に見えないシンボル」を頭の中で操作・比較して正しい結論が出せるようになっています。

このように自身の主観(見た目)に惑わされず、数のように客観的な基準に基いて思考できるようになるのが具体的操作期の特徴です。

客観的思考ができるようになることで、お子さんの行動の幅は大きく拡がります。

たとえば、それまで大人言われたことに従って行動していただけだったのが、集団の目的を理解して周囲のために自分が何をすればよいのか考え、自発的に動けるようになってきます。

コミュニケーション面では、他者の視点に立てるようになることが大きな進歩です。それまでは自分の気持ちのままにうごいていたのが、相手の気持ちや立場を推し量ることができるようになり、たとえばケンカをして一時感情的になっても、落ち着いてから事実に基づいて話し合うことで仲直りできるようになります。

具体的操作期への移行は、7歳から12歳にかけて徐々になされていきますが、これまでお子さんと関わってきた経験では、知的障害、そして発達障害のあるお子さんには、しばしば移行の遅れが見られます。またこうした認知能力の遅れが理由で、学業や集団遊びで他の子についていけず自己肯定感の低下や問題行動に繋がっているケースも少なくないように思います。

療育を通じて、認知能力をしっかり底上げしてあげたいところです。

 

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

今回ご紹介する「パカパカお馬」は、具体的操作期に差し掛かろうとするお子さんに、この時期の重要な発達課題である、「客観的思考」を身につけてもらうために用いているゲームです。

_DSC0265

ドイツHABA社らしい、カラフルで優しいデザイン。子どもたちの興味を惹きつける。

・プレイヤーにはひづめ・袋・バケツ・にんじんの4種の道具をはめ込むためのボードが渡されます

・プレイヤーは1~3までの数字がかかれたサイコロと、4種(ひづめ・袋・バケツ・にんじん)の道具がそろったサイコロを同時にふります。

・2つのサイコロの出た目をみて、馬を進めるか、道具をもらうかをプレイヤーが選択します。

・馬が厩舎にゴールし、なおかつ道具を全て揃えた人が優勝です。

ゴールするためには「馬を厩舎まで進ませる」「道具を全て揃える」という二つのゴールをどちらも達成する必要があります。これが「パカパカお馬」のポイントです。

プレイヤーは二つのサイコロの出目を見比べて、馬を進めるか、道具をもらうかを選択するのです。この「選択する」という行為が、お子さんが客観的思考を身につける最初のきっかけとなります。

IMG_4822

馬を進めるか、道具をもらうか、同時に振った二つのサイコロの出目をみて決める。選択するという行為が、客観的思考を身に付けるきっかけとなる。

 

療育現場での実践

今回も、東京青梅市の放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」での実践をもとに指導の解説をします。登場するのは、7~8歳の男の子3人。通常学級在籍のお子さんが1人と、固定級にかよっているお子さんが2人です。

パカパカお馬 (1)

写真からも雰囲気が伝わって来ると思いますが、この発達段階のになると「順番にサイコロを振り、出た目の数だけコマを進める」といったルールは守ることにはさほど困難はなく、大人の助けがなくともゲームを進められるようになってきます(ただし、発達特性によっては個別のケアが必要になる子もいます)。

この段階から、いよいよ、お子さんの思考と判断の領域へと働きかけていきます。

偏った戦略を採る子どもたち

ゲームを進めていくうち、子どもたちの判断にある偏りが出てきました。「馬を進める」か、「道具をもらう」かを選ぶとき、子どもたちはみな「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

IMG_4823

子どもたちは道具を集めるのに必死で、ボード上の馬を進めるのは後回し。

ゲームに勝つことを考えたとき、これは効率の良いやり方ではありません。馬を進めるサイコロに1~3の目が振られています。それに対し、道具のサイコロはどの目がでても道具は1つしかもらえません。従って、最適な戦略は馬を進めるサイコロの出目について「3だったら効率が良いので馬を進める、1だったら効率が悪いので道具を選ぶ。2は状況次第」というのが最も効率よくゴールに近づけます。

しかし、子どもたちは道具ばかり選んでしまう。ただし、すでに手に入れた道具の目がでたときは代わりに馬を進められるので、ルールを理解していないわけではありません。あくまで自身の意志で道具ばかり選んでいるのです。

道具ばかりを取る・・・なぜ?

実はこの現象、今回に限ったことではありません。この発達段階のお子さんに「パカパカお馬」をプレイさせた場合、ほとんどの子どもが「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

お子さんが馬を進めず道具ばかり選ぶ理由は、客観的思考が未成熟なため、効率のよい戦略を考えることができていないことにあります。

そのため、道具のコマがもらえたり、それをボードにはめる行為の視覚的・触覚的な刺激といった主観的な興味が優先しているのです。これは「見かけに惑わされる」という前操作期のお子さんの特徴が抜けきっていないことを表しています。

こうした偏った選択のため、一度目のプレイでは、どの子どもたちも道具を全て揃えてから次に馬を進めるという、効率の悪い形になってしまいました。そこで、二度目のプレイに先立ち、私は子どもたちに「さっきは道具ばかり集めてけど、お馬さんも進めたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてみました。すると今度は、馬ばかり進めて道具を集めようとしないのです。

一人のお子さんに「気付き」が・・・

感覚的な興味にとらわれて道具ばかり集めるのも、私のアドバイスに引っ張られて馬ばかり進めることも、子どもたちの中に客観的思考がまだ形成されていないことを意味します。「どうやったら一番速くゴールに達することができるか?」ということをルールと照らしあわせて考えることがまだできていないのです。

しかし、2回めのゲーム中盤、変化が起きました。馬ばかり進めていた子どもたちの中の一人が、ついに道具を得ることを選択したのです。

私はすかさず「今どうして道具を選んだの?」と聞きました。その子は「だって、1しか進めないのは遅いから」と答えました。

実は、このときお子さんの頭の中に客観的思考が芽生えています。それまでは見た目や触感の刺激などの主観的な印象に基いて判断したり、大人の言うことに従うだけだったお子さんが、「馬を進めるのと道具をもらうのとどちらがいいか」と自分の頭で考え、結論をだしたのです。

このとき、お子さんの頭の中では「馬を進める」という選択と「道具を集める」という選択という二つの「シンボル(概念)」を比較し、より価値の高い選択肢を実行するという「操作」を行っています。

こうした抽象的な概念同士の「操作」が可能になるということが、「具体的操作期」への移行、ひいては客観的思考の芽生えを意味しているのです。

 

「具体的操作期」の療育は「集団」と「問いかけ」が鍵

この出来事のあとは、最初の気付きを得たお子さんだけでなく、他の子たちも、馬の進み具合と道具の集まり具合が一方に偏らないバランスの取れた判断を下せるようになりました。

他の子たちは、最初のお子さんの判断と私の問いかけから、より望ましい戦略を学んだのです。

このように「具体的操作期」の療育は、それまでの指導者がマンツーマンでついてわかりやすくお子さんに指示してあげるような形から、集団で子どもたちがお互いの様子を観察しながら学び合う形へと、変化していきます。

パカパカお馬 (1)

具体的操作期のお子さんの療育では「集団」が大きな意味を持ってくる。

指導者の役割も、お子さんにいちいち指示をだすのではなく、一歩引いたスタンスで、何か気付きを得た子に「なぜそうしたの?」と問いかけてあげることで、本人の気付きを確かなものとするともに、他の子がその気付きを共有するのを助けることに変わってきます。

お子さんが判断に迷っていると、つい教えてあげたくなってしまいますが、そこで正しいやり方を教え、お子さんがその通り動いたとしても、それは単に大人の言うことに従っただけに過ぎず、「自分で考える」という習慣を身につけた事にはなりません。あくまで本人の気付きを促す関わりが大切です。

一気に拡がるアナログゲーム療育の世界

「パカパカお馬」という一つのゲームで上手な判断できたからといって、それがすぐに「客観的思考」の獲得に繋がるわけではありません。

状況にあわせた的確な判断が求められるよゲームを他にいくつもプレイしてもらうことで、様々な状況で「客観的思考」を使えるようになることが次の目標です。

次回は、「具体的操作期」に入ったお子さんの療育のさらなる展開をご紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【3/27品川】ギフターラボ「オンリーワン体験スクール」に出ます。

魅力的なワークショップがたくさん!

3/27(日)品川にて開催される、NPO法人ギフターラボの「オンリーワン体験スクール2016夏」にギフターの一人として、アナログゲームを使ったワークショップを開催します。

topimage

このイベント、かなりすごいです。

・日頃から子どもたちも大人と変わらず、忙しい時間を過ごしていませんか?
・人と関わることが少し苦手だけど、せっかくのキラッ!と光る個性を表現したい!

という子たちを対象に、様々な企業・団体で活躍するその道のプロたちが「ギフター」となって様々なワークショップを開催します。たとえばアニメのアフレコ体験、電子工作、マイコンカーのプログラミングなど・・・。

しかも、一度のワークショップの参加人数を絞っているため、発達に偏りのお子さんの特性にあわせてきめ細かく、伸び伸びと未知の体験を楽しむことができます。

私はというと、参加するお子さん同士のコミュニケーションを促すようなゲームをたくさん用意して、他者との関わりに不安のあるお子さんでも一歩踏み出し、コミュニケーションの成功体験を詰めるようなワークショップにしたいと思っています。

参加申込は以下のリンクから。締め切りは3月6日(日)です。みなさんの参加をお待ちしています!

「オンリーワン体験スクール2016夏」

 

療育に欠かせない、ピアジェの認知発達理論

アナログゲームを用いた療育について、これまで、放課後等デイサービス「オルオルハウス」さんでの実践をご紹介してきました。

これらの記事を読んでいただくと、私がお子さんの認知能力の発達にスポットあてて療育していることが理解いただけるのではないかと思います。

次のステップに進む前に、いったん認知能力とは何なのか整理しておきましょう。

子どもは『小さな大人』ではない

人間の認知能力について研究し、その発達過程を明らかにしたのが、スイスの心理学者ジャン・ピアジェ( 1896 – 1980)です。

Jean_Piaget_in_Ann_Arbor

20世紀において最も影響力の大きかった心理学者の一人ジャン・ピアジェ。教員資格試験や保育士試験などを受けたことがあるなら、その名前を耳にしたことがあるはず。

「子どもは『小さな大人』ではない」とピアジェは言いました。

多数の実験により、彼は子どもが、大人とは異なる独特の物の捉え方や考え方をしており、その特性が、年代ごと段階的に変化していくことを明らかにしました。

この「独特の物の捉え方や考え方」という言葉は、発達障害を表す時にもよく使われます。ADHD、ASD、LDなどの発達障害のある人にもそれぞれ独特な物の捉え方や考え方があり、こうした障害を持つ人と関わるときは、そうした特性の理解が大切であることを、私達は知っています。

他方、ピアジェによれば「子ども」という生き物自体にも、それぞれの年齢ごとに独特の特性があり、大人と同じようにできなかったり、その年代の子どもならではの考え方で物事を進めようとするのです。

従って、「発達障害」のある「子ども」を療育するのなら、「各障害ごとの特性」を理解するだけでは不充分で、「各年代ごとの子どもの発達特性」をも理解する必要があります。

療育の横軸を「障害特性」とするなら、縦軸にあたるのが「認知発達段階」。この両方のかけあわせがないと、本当の意味でお子さんに合わせた療育はできません。

認知発達の四段階

ピアジェは各年代の子どもを対象とした実験の結果をもとに、子どもが大人へと発達していく過程を、以下の4段階に分けました。

1 感覚-運動期 0~2歳
2 前操作期 2~7歳
3 具体的操作期 7~12歳
4 形式的操作期 12歳以上

この4段階全てでキーになっているのが、以前にも解説した「シンボル機能」です。

シンボルとは、ある具体的な事象を、別のもので代表したもので、シンボル機能はシンボルを使いこなす機能のことを指します。シンボルの代表例が、「名前」です。

250px-Panthera_tigris_tigrisillust3101

実写とイラストで質感や色味が全然違う二つの画像が、同じ「トラ」を表しているとわかるのは、私達がそれらを「トラ」という名前で呼ぶことで、同一であると認識しているからです。

名前の他に、数や量、あるいはゲームのルール、「道徳」や「社会」などといった抽象的な概念までもがシンボルに含まれます。

そして、子どもが大人になるまでの過程で、様々なシンボルの存在を理解し、それらを自由に使いこなせるようになっていくことを、ピアジェは明らかにしたのです。

以下、それぞれの発達段階について解説していきましょう。

「感覚-運動期」の子ども

健常児の0~2歳にあたる「感覚-運動期」は、シンボル機能がまだ形成されていない段階です。

この時期の子どもは、いわば「目に見えるものだけ・耳に聞こえるものだけ・手に触れるものだけが全て」という世界に生きています。

興味のある遊びも、動きや音、触感などの感覚に訴える単純なものになります。

シンボル機能がまだないため、シンボルの一種である「ルール」が存在するゲームは、まだ遊ぶことができません。

「前操作期」の子ども

「前操作期」というのは、「シンボル機能を自由に操作できる手前の段階」という意味です。

2歳以降になると、物に名前があることが理解でき、それ伴って言葉を発するようになります。やや複雑なシンボルである「ルール」も徐々に理解できるようになり、それを他の子と共有することで集団で遊べるようになります。

しかし、シンボル機能を自由に操り、「A案とB案を比較してより望ましい方を選択する」とか、「報酬と危険を天秤にかけてより高い成果が得られそうな方を選択する」といったように合理的・戦略的な思考をすることは、まだできません。

実例からみる認知発達段階

これまでご紹介してきた例の中では、ルールを理解して遊ぶことはまだ難しいけれども、カード遊びで異同の弁別ができたAさんは、「感覚-運動期」から「前操作期」への移行期、言い換えればシンボル機能の芽生えの時期にあると言えます。

テディメモリ1

 

また、ゲームのルールを理解して楽しむことができるもの、数や量といったシンボルを自由に使いこなすことはまだ難しかったBくんは、「前操作期」のただ中にいると考えられます。

雲の上のユニコーン

「具体的操作期」

認知発達の第3段階である「具体的操作期」に入ると、複数のシンボルを組み合わせるなどの自由な操作ができるようになり、さらには状況を客観的に把握し、合理的・戦略的な思考ができるようになってきます。

下の写真は、「具体的操作期」に差し掛かろうとする子どもたちのゲームの様子です。

パカパカお馬

ルールという「目に見えないシンボル」を共有し、そのルールの中で自分がどう振る前ばよいか合理的に考えている。そんな様子が、写真からもなんとなく伝わってくるのではないでしょうか。

次回はこの写真の場面を解説しながら、「具体的操作期」のある子どもたちの合理的思考を促す療育を解説していきましょう。