客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」


客観的思考が可能になる「具体的操作期」の子どもたち

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

今回は、ピアジェの認知発達段階論の第3段階にあたる「具体的操作期」(7歳~12歳)に差し掛かった子どもたちへのアナログゲーム療育をご紹介します。

この時期のお子さんの特徴を説明する前に、まずその一つ前の段階である前操作期(2~6歳)のお子さんの特徴を復習しましょう。

以前の記事で、前操作期の子どもは、「見た目に惑わされやすい」という話をしました。

たとえば、下の写真のように「間隔を拡げて置いた5つの宝石」と「間隔を詰めて置いた6つの宝石」を並べ、「上と下、どっちが多い?」と聞くと、6歳以前の前操作期のお子さんはたいてい「上」と誤って答えてしまいます。実際の個数よりも、見た目の大きさ(長さ)に惑わされてしまうのです。

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7歳以降、具体的操作期に入ると、そのような間違いはなくなり、きちんと数を数えて多い方を指すことができるようになります。このときお子さんは、「上が5で下が6」「5と6では6のほうが多い」といったふうに、数という「目に見えないシンボル」を頭の中で操作・比較して正しい結論が出せるようになっています。

このように自身の主観(見た目)に惑わされず、数のように客観的な基準に基いて思考できるようになるのが具体的操作期の特徴です。

客観的思考ができるようになることで、お子さんの行動の幅は大きく拡がります。

たとえば、それまで大人言われたことに従って行動していただけだったのが、集団の目的を理解して周囲のために自分が何をすればよいのか考え、自発的に動けるようになってきます。

コミュニケーション面では、他者の視点に立てるようになることが大きな進歩です。それまでは自分の気持ちのままにうごいていたのが、相手の気持ちや立場を推し量ることができるようになり、たとえばケンカをして一時感情的になっても、落ち着いてから事実に基づいて話し合うことで仲直りできるようになります。

具体的操作期への移行は、7歳から12歳にかけて徐々になされていきますが、これまでお子さんと関わってきた経験では、知的障害、そして発達障害のあるお子さんには、しばしば移行の遅れが見られます。またこうした認知能力の遅れが理由で、学業や集団遊びで他の子についていけず自己肯定感の低下や問題行動に繋がっているケースも少なくないように思います。

療育を通じて、認知能力をしっかり底上げしてあげたいところです。

 

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

今回ご紹介する「パカパカお馬」は、具体的操作期に差し掛かろうとするお子さんに、この時期の重要な発達課題である、「客観的思考」を身につけてもらうために用いているゲームです。

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ドイツHABA社らしい、カラフルで優しいデザイン。子どもたちの興味を惹きつける。

・プレイヤーにはひづめ・袋・バケツ・にんじんの4種の道具をはめ込むためのボードが渡されます

・プレイヤーは1~3までの数字がかかれたサイコロと、4種(ひづめ・袋・バケツ・にんじん)の道具がそろったサイコロを同時にふります。

・2つのサイコロの出た目をみて、馬を進めるか、道具をもらうかをプレイヤーが選択します。

・馬が厩舎にゴールし、なおかつ道具を全て揃えた人が優勝です。

ゴールするためには「馬を厩舎まで進ませる」「道具を全て揃える」という二つのゴールをどちらも達成する必要があります。これが「パカパカお馬」のポイントです。

プレイヤーは二つのサイコロの出目を見比べて、馬を進めるか、道具をもらうかを選択するのです。この「選択する」という行為が、お子さんが客観的思考を身につける最初のきっかけとなります。

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馬を進めるか、道具をもらうか、同時に振った二つのサイコロの出目をみて決める。選択するという行為が、客観的思考を身に付けるきっかけとなる。

 

療育現場での実践

今回も、東京青梅市の放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」での実践をもとに指導の解説をします。登場するのは、7~8歳の男の子3人。通常学級在籍のお子さんが1人と、固定級にかよっているお子さんが2人です。

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写真からも雰囲気が伝わって来ると思いますが、この発達段階のになると「順番にサイコロを振り、出た目の数だけコマを進める」といったルールは守ることにはさほど困難はなく、大人の助けがなくともゲームを進められるようになってきます(ただし、発達特性によっては個別のケアが必要になる子もいます)。

この段階から、いよいよ、お子さんの思考と判断の領域へと働きかけていきます。

偏った戦略を採る子どもたち

ゲームを進めていくうち、子どもたちの判断にある偏りが出てきました。「馬を進める」か、「道具をもらう」かを選ぶとき、子どもたちはみな「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

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子どもたちは道具を集めるのに必死で、ボード上の馬を進めるのは後回し。

ゲームに勝つことを考えたとき、これは効率の良いやり方ではありません。馬を進めるサイコロに1~3の目が振られています。それに対し、道具のサイコロはどの目がでても道具は1つしかもらえません。従って、最適な戦略は馬を進めるサイコロの出目について「3だったら効率が良いので馬を進める、1だったら効率が悪いので道具を選ぶ。2は状況次第」というのが最も効率よくゴールに近づけます。

しかし、子どもたちは道具ばかり選んでしまう。ただし、すでに手に入れた道具の目がでたときは代わりに馬を進められるので、ルールを理解していないわけではありません。あくまで自身の意志で道具ばかり選んでいるのです。

道具ばかりを取る・・・なぜ?

実はこの現象、今回に限ったことではありません。この発達段階のお子さんに「パカパカお馬」をプレイさせた場合、ほとんどの子どもが「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

お子さんが馬を進めず道具ばかり選ぶ理由は、客観的思考が未成熟なため、効率のよい戦略を考えることができていないことにあります。

そのため、道具のコマがもらえたり、それをボードにはめる行為の視覚的・触覚的な刺激といった主観的な興味が優先しているのです。これは「見かけに惑わされる」という前操作期のお子さんの特徴が抜けきっていないことを表しています。

こうした偏った選択のため、一度目のプレイでは、どの子どもたちも道具を全て揃えてから次に馬を進めるという、効率の悪い形になってしまいました。そこで、二度目のプレイに先立ち、私は子どもたちに「さっきは道具ばかり集めてけど、お馬さんも進めたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてみました。すると今度は、馬ばかり進めて道具を集めようとしないのです。

一人のお子さんに「気付き」が・・・

感覚的な興味にとらわれて道具ばかり集めるのも、私のアドバイスに引っ張られて馬ばかり進めることも、子どもたちの中に客観的思考がまだ形成されていないことを意味します。「どうやったら一番速くゴールに達することができるか?」ということをルールと照らしあわせて考えることがまだできていないのです。

しかし、2回めのゲーム中盤、変化が起きました。馬ばかり進めていた子どもたちの中の一人が、ついに道具を得ることを選択したのです。

私はすかさず「今どうして道具を選んだの?」と聞きました。その子は「だって、1しか進めないのは遅いから」と答えました。

実は、このときお子さんの頭の中に客観的思考が芽生えています。それまでは見た目や触感の刺激などの主観的な印象に基いて判断したり、大人の言うことに従うだけだったお子さんが、「馬を進めるのと道具をもらうのとどちらがいいか」と自分の頭で考え、結論をだしたのです。

このとき、お子さんの頭の中では「馬を進める」という選択と「道具を集める」という選択という二つの「シンボル(概念)」を比較し、より価値の高い選択肢を実行するという「操作」を行っています。

こうした抽象的な概念同士の「操作」が可能になるということが、「具体的操作期」への移行、ひいては客観的思考の芽生えを意味しているのです。

 

「具体的操作期」の療育は「集団」と「問いかけ」が鍵

この出来事のあとは、最初の気付きを得たお子さんだけでなく、他の子たちも、馬の進み具合と道具の集まり具合が一方に偏らないバランスの取れた判断を下せるようになりました。

他の子たちは、最初のお子さんの判断と私の問いかけから、より望ましい戦略を学んだのです。

このように「具体的操作期」の療育は、それまでの指導者がマンツーマンでついてわかりやすくお子さんに指示してあげるような形から、集団で子どもたちがお互いの様子を観察しながら学び合う形へと、変化していきます。

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具体的操作期のお子さんの療育では「集団」が大きな意味を持ってくる。

指導者の役割も、お子さんにいちいち指示をだすのではなく、一歩引いたスタンスで、何か気付きを得た子に「なぜそうしたの?」と問いかけてあげることで、本人の気付きを確かなものとするともに、他の子がその気付きを共有するのを助けることに変わってきます。

お子さんが判断に迷っていると、つい教えてあげたくなってしまいますが、そこで正しいやり方を教え、お子さんがその通り動いたとしても、それは単に大人の言うことに従っただけに過ぎず、「自分で考える」という習慣を身につけた事にはなりません。あくまで本人の気付きを促す関わりが大切です。

一気に拡がるアナログゲーム療育の世界

「パカパカお馬」という一つのゲームで上手な判断できたからといって、それがすぐに「客観的思考」の獲得に繋がるわけではありません。

状況にあわせた的確な判断が求められるよゲームを他にいくつもプレイしてもらうことで、様々な状況で「客観的思考」を使えるようになることが次の目標です。

次回は、「具体的操作期」に入ったお子さんの療育のさらなる展開をご紹介します。