<追記アリ>放課後等デイサービス運営厳格化!どう対応する?

厚労省方針で放課後等デイサービスの運営が厳格化

新年早々、放課後等デイサービス関係者にとって、大変厳しいニュースが飛び込んできました。

放課後デイ運営厳格化 厚労省方針、不正防止図る(中國新聞)

報酬の不正取得や、質の低い事業所が後を絶たないため、運営に伴う規制を厳格化するという内容です。厳格化の時期は今年4月からと非常に早く、その内容も後述するように大変厳しいものとなっています。

<1/9追記>その後厚労省の有識者部会を経て、新しい情報が出ています。以下、赤字でアップデートされた部分を追記します。

障害児向けデイサービス、開設要件厳しく 厚労省 (日経新聞)

以下、厳格化の内容と、その対応について考えてみたいと思います。

 

①職員の資格要件厳格化

放課後等デイサービスの職員の資格要件厳格化について、以下のように書かれています。

  • 「児童指導員」や保育士、障害福祉経験者の配置を条件とし、職員の半数以上を児童指導員か保育士とする基準も設ける。

ここでいう「児童指導員」の資格要件は下記のようになっています。

  • 地方厚生局長等指定の児童福祉施設職員養成学校を卒業
  • 社会福祉士
  • 精神保健福祉士
  • 学校教育法規定の大学または大学院で社会福祉・心理・教育・社会のいずれかに関する学部・研究科・学科・専攻を卒業
  • 小学校・中学校・高等学校のいずれかの教諭の免許状取得(学校種や教科は不問)
    児童福祉施設での実務経験者(高卒以上2年、その他3年)

これは人材確保、特にパートタイム職員の確保を考えると、かなり厳しい条件です。

多くの放課後等デイでは、パートタイム職員を雇って子どもたちとの関わってもらっていると思います。その主力を担ってきたのが、子育てが一段落した「主婦」と大学で教育学や心理学を学ぶ「学生」でした。上記の厳格化が実施されると、こうした主婦と学生の多くが条件に該当しなくなります。

その結果、こうした人達の中に優秀で意欲のある人材がいても、要件を満たしていないため採用できないことが考えられます。

<1・9追記>

  •  新基準では、事業所に配置する職員を児童指導員や保育士、障害福祉サービスの経験者に限定する。

との日経報道。未経験者の採用はできないという条件が明確になった形です。

 

②「児童発達支援管理責任者」要件の厳格化

各事業所に一人配置することが義務付けられている「児童発達支援管理責任者(児発管)」については、「障害児・者や児童分野での3年以上の経験が必須」とあります。

従来は福祉分野での経験が5年あることが児発管の要件でしたが、この要件に代わる形なのか、両者の条件を同時に満たさなければならないのかは記事中からはわかりません。

いずれにせよ、児発管がいなければ事業所が運営出来ないのですから、①と同じかそれ以上に厳しい条件であると言えるでしょう。

 

 

不正防止やサービス品質向上に繋るかは疑問

こうした職員の資格要件の厳格化は残念ながら、不正防止やサービス品質の向上に繋らないのではないかと私は思っています。

まず報酬を過剰申告するなどの不正は、そもそも経営モラルの問題で、職員の資格要件とは関係ありません。厳格化の内容の中には「運営指針の遵守と自己評価結果の公表も義務付け」とありますが、これも性善説に基づいた対策で、そもそも不正を働いている事業所が「ウチは不正を働いています」という自己評価結果を公表するはずがありません。不正を防ぐには行政が監査に入る回数を増やし、罰則を強化するしか無いと思います。

デイで働く職員の資格要件を厳しくすればサービス品質の向上に繋るという考え方にも疑問が残ります。たしかに、障害児・者と関わった経験がある人は、全くの未経験者に比べればお子さんとの接し方の部分で一日の長があるかもしれません。

しかし、私が複数の事業所を見た経験からすると、デイの質の優劣は、個々の職員の経験より、事業所として子どもの発達段階にあわせた豊富なプログラムを用意できているかどうかに大きく左右されます。放課後等デイサービスには小学生から高校生まで、様々な障害特性を持ったお子さんがやってきます。その子達が毎日安全に楽しく過ごせ、それでいて発達を促せるような豊富なプログラムと、それを実現するために必要な教材を揃え研修を実施したりマニュアルを用意することが一番むずかしいのです。それができないので、上記記事中にもあるように「テレビを見せるだけ」という残念な事になってしまうのです。

これらのことから、今回の厳格化は、不正防止の点でも質の向上という点でも的の中心を外していると言わざるを得ません。

 

提言:「監査強化」と、「”事業所プログラム計画書”の作成と公表」

では、制度レベルでどうすれば放課後等デイサービスの不正防止やサービスの質の向上を果たせるのか、考えてみました。

まず、不正を防ぐには先にのべたように、行政が監査に入る回数を増やし、罰則を強化するしか無いと思います。

第二に、質の向上については、発達段階にあわせたプログラムの用意が肝要だと思います。もっと踏み込んでいえば、プログラムを用意せず単にお子さんをお預かりするだけの放デイは認めない、という方針を明らかにすべきだと思います。

プログラムは必ずしも療育的成果を求めるものでなくともよいのです。しかし、障害のあるお子さんが、集団で安全に楽しく過ごせるためには、無計画であってはいけません。お子さんの発達段階や興味にあわせたアクティビティを設定し、そこにあわせた機材や道具の用意、そしてスタッフ側の事前準備が欠かせないのです。

これを確実におこなうため、各事業所は毎日どんなプログラムを実施するのかを計画書を作成し、これを行政に報告し、一般にも公表するよう義務付けることを提言します。デイの利用を希望する保護者は、その事業所がどんなプログラムを行っているのか、他事業所の計画と比較しながら見られるようにするのです。

そうすれば、1日中「テレビをみる」というプログラムを設定する事業所はないでしょうし、仮にあったとしても誰も利用しようと思わないはずです。

 

放課後等デイサービス経営者・管理者の対応は?

この厳格化が実施された場合、人材確保が今以上に困難になることは確実でしょう。

そこへの対応として、当たり前ですがまずは今いるスタッフが気持ちよく長く働いてくれる環境を作ることが重要だと思います。そうすることで、組織内で児発管や経験のある職員を育てあげていくことが、長い目でみれば最良の人材確保戦略になると思います。

しかし放デイが他の事業と異なるのは、売上上限が決まっているために給与面でのインセンティブを用意しにくい点です。そのため、日々の関わりの中で教室を利用しているお子さんが笑顔で過ごし、成長を感じられることが職員自身にも伝わり、一人の指導者・支援者として自身も成長できているという実感を持てることが、長く働くモティベーションにつながるのではないでしょうか。

つまり、結局のところは事業所が提供するサービスの質を高めることが、職員が長く働くモティベーションを高めることにも繋るのではないかと考えます。

そのきっかけとして、事業所の総力を結集して質の高いプログラムを作り、先に制度面での提言で挙げた「事業所プログラムの公表」をまずは事業所レベルで率先して行うことをご提案したいと思います。

質の高いプログラムを実施しているというブランドが地域で確立できれば、その事業所は利用者だけでなく、職員候補者にとっても魅力的に映るはず。人材確保の困難も克服できるのではないかと思います。

 

今後の講演予定:

 

1/14(土) すごろくや 学童編② 満席になりました

1月15日(日) 静岡 『中高生〜大人編 就労に必要なコミュニケーション力を身につける』

2月19日(日) 「ゲーム療育講座:就労訓練編」 東京高円寺 すごろくや

【放課後等デイサービス】子どもの言いなりになってしまう指導員のマネジメント

子どもと上手く関われない指導員のパターン

放課後等デイサービスにおいて、お子さんと上手く関われない指導員のタイプは大きく2つにわかれます。

  1. お子さんの発達段階や心情を踏まえず、高圧的な態度で一方的な指示や注意を繰り返してしまう
  2. お子さんの言いなりになってしまい、プログラムへの参加を促せなかったり、問題行動をを止められない

これまでの経験では、1つ目の高圧的なタイプは比較的改善が見込みやすいです。こうした態度はあからさまにお子さんの反発を招くため、指導者からも管理者からも問題として認識されやすく、そういった意味では対策を施しやすいのです。

対応が難しいのは、むしろ2つめのお子さんの言いなりになってしまうケースです。なぜなら、お子さんは教室のルールを守ることを求める指導員よりも、自分が何をしても許してくれる指導員のそばにいることを好むからです。そのため、子どもの言いなりになる指導員はしばしば「自分は子どもから慕われている」と勘違いしてしまいます。こうなると簡単に改善はできません。

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子どもに誤学習させてしまう指導員

お子さんの言いなりになる指導員は、表面的にはお子さんから慕われているように見えても、本当の意味での信頼は得られていません。その証拠に、このタイプの指導員は常にお子さんの暴力・暴言の対象になります。「この先生なら叩いても悪口言っても叱られないだろう」と思われているのです。実際その通りなので暴力や暴言を受けてもそれを止めることができません。

それを放っておくわけにも行かないので、やむなく他の指導員がその子の対応に入ることになります。1人の子に2人の指導員が関わることになるため、その分他の子へのケアが手薄になります。

このことからもわかるように、子どもの言いなりになる指導員の存在は、他の指導員も巻き込んで教室運営を困難にさせる上、何よりお子さんに「相手次第で暴言や暴力を振るっても構わない」と誤学習をさせてしまう点で極めて大きな問題であると言わざるを得ません。

しかし、こうした指導員に管理者が「子どもの言いなりになるな」と頭ごなしに指示しても納得し難く、かえって反発を招くことがあります。先に述べたように、指導員自身は「自分は子どもから慕われている」と思い込んでいることが多いため、こうした指示を「子どもに良かれと思ってやっていることを否定された」と受け止めてしまうからです。

こうした理由から、高圧的な態度の指導員に比べ、子どもの言いなりになる指導員のマネジメントはずっと難しいです。管理者として無理に指示を押し通そうとすれば、関係が壊れかねません。

施設の目的とルールを明示すること

この問題を本当に解決しようとすれば、一旦指導員のマネジメントという視点から離れ、より大きな視点で考える必要があります。つまり、施設の目的とルールを考えます。

  • 私たちはお子さんに何を提供しようとしているのか
  • それを提供するためにどんな仕組みを用意するのか

「お子さんの言いなりになる指導員」は、この二点が明らかになっていないときに生まれてきます。

言い換えれば、「お子さんの言いなりになる指導員」の問題は、施設としての目的を明確にできていない経営者の問題であり、その目的を実現する仕組みを構築できていない管理者の問題でもあります。

従って、「子どもの言いなりになる指導員」にお困りの経営者の方は、下記の点をチェックする必要があります。

  • 施設の目的を文章化できていますか
  • その目的は自分が雇用している人全てに浸透していますか。
  • なにより、経営者であるあなた自身がその目的を心から追求していますか

また、目的を実現する仕組みを作る管理者は下記の点をチェックする必要があります。

  • お子さんの来所から退所までの指導員の動きについて、文章化されていますか
  • トラブルへの対応の原則について、文章化されていますか
  • 問題行動を繰り返す特定のお子さんについて、指導員の間で対応方針は一本化されていますか
  • 上記の内容を話し合うための、充分な研修やフィードバックの時間が取れていますか

上記のポイントをきちんと抑えていれば、経営者や管理者がお子さんの言いなりになる指導員」対して「私たちでこういう目的のもと、こういう仕組みでお子さんと関わっている。あなたもそのようにやっていただけないかと話ができます。

その結果、指導員がそれを受け入れてくれるにせよ、受け入れてくれないにせよ(この場合その指導員は施設を去ることになるでしょう)、お互いが納得の行く話し合いができ、具体的な化改善に繋がります。

 

以下、10月の講座のお知らせです。

10月9日(日) 「アナログゲーム療育講座 中高生~大人編」

就職を見据え、組織で働く上で求められる「状況にあわせた臨機応変なコミュニケーション能力」の獲得を目指す指導をお伝えします。

他者の考えや場の状況に積極的な関心を持ち、自分がどう動けばよいか主体的に判断することを学ぶために、アナログゲームは最適のツールです。職業訓練や企業研修の経験を踏まえた、実践的な講座です。

発達障害のある中高生の支援、成人の支職業訓練に関わる方だけでなく、発達障害と関係がなくと人事研修や採用に関わる方に参加いただきたい講座です。

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奈良の就労移行支援施設「ぷろぼの」でのスカイプを使った遠隔職業訓練の様子。アナログゲームを通じて、その方が就職する上での強みと課題が見えてきます。


10月10日(月・祝) 「アナログゲーム療育講座 学童編(再)」

9月11日の講座と同様の内容です。

小学校入学以降に身についてくる「客観的思考力」や「コミュニケーション能力」にアプローチする内容です。今まで教え方がハッキリしてこなかったこうした能力に、ピアジェの認知発達理論とアナログゲームを通じて、明確な定義と実践的な指導法を与える内容となっています。

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史上初!? TV電話で遠隔就労訓練

就労移行支援事業所「ぷろぼの高の原」にて、遠隔就労訓練を開始!

奈良で、障害のある人の就労訓練を行っている「ぷろぼの高の原事業所」様と提携し、TV電話を介して、アナログゲームを使った職業訓練を行うことになりました。

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史上初!?インターネット上のテレビ電話を介した遠隔職業訓練。複数のカメラで、ゲームの様子や利用者さんの表情もよく見えています。プレイしているのは他者への観察力が求められる「ケルトタイル」。

きっかけは、ぷろぼの高の原事業所の所長さんより「ぜひ職業訓練にアナログゲーム療育を取り入れたい!」という熱烈なご要望をいただいたことでした。しかし、私が住んでいるのは東京。奈良に定期的に伺うのは難しい・・・。そこで所長さんから「TV電話で遠隔で指導できないでしょうか?」とのアイデアをいただいたのですが、当初は正直にいって「できるのだろうか?」と半信半疑でした。

ところが実際やってみるとできたんです。上の写真からもわかるとおり、複数のカメラを用意することで各プレイヤーの手元の状況や、利用者さんの表情も伺うことができます。

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現場の様子。カメラの操作をしていただいているのもアシスタント役の利用者さんです。       ※写真の使用については、施設・利用者さん双方の了解をいただいています。


遠隔でもライブ感のある訓練は可能

アナログゲームをつかった訓練では、参加者一人一人の発する言葉や表情、考えている時間の長さなどから、その方がゲームを不安なく楽しめているか観察し、もし不安があるとしたらどのように言葉がけしていくか、常に考えていく必要があります。

こうした繊細なやりとりが遠隔操作で可能なのか、始めてみないとわからないところがありましたが、実際は現場にいるのに近い感覚で利用者さんの様子を観察して、言葉がけできることがわかりました。

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利用者さんが迷っているようなら「こちらとあちら、どちらを優先したほうがよいですか?」といった問いかけ、良いプレイが出た時は「相手をよくみていた素晴らしいプレイですね」といった言葉がけを行う。精密な観察が必要だが、遠隔操作でも充分可能であることがわかった。

 

利用者さんからは「楽しい!」という感想が

プレイ後、利用者のみなさんから「楽しい!」という感想が聞かれました。次回は参加予定でなかったのに「ぜひ参加したい」と積極的に申し出た利用者さんもいらっしゃり、初回の訓練は大成功に終わりました。

ぷろぼのさんでの訓練は隔週で行われ、今後は交渉するゲームや、お互い協力しあうゲームなどを使い、就労を意識したコミュニケーション訓練を行っていきます。

アナログゲームというツールを使うことで、このように、遠隔地とつながって訓練できるということは、就労支援、そして療育の可能性を多く拡げるものだと思っています。今後の実践を通じてノウハウを蓄積したいと思います。

利用者が集まらない放課後等デイサービスの傾向と対策

療育アドバイザーの松本太一です。

今回は放課後等デイサービスを経営されている、または、これから経営されようとしている方へ向けた記事です。

いよいよ淘汰が始まった放課後等デイサービス業界

今年に入り、開設間もない放課後等デイサービスの苦境、あるいは撤退を耳にすることが多くなりました。具体的にはすでに多くの放デイがある大都市圏で新規参入したものの、競争が激しく利用者が集まらない、という状況が多いようです。

近年、放課後等デイサービスの開設の勢いは凄まじいものがあり、いずれ淘汰が始まると予想してはいましたが、思ったより早くその段階に入ってきている様子です。

しかし、私の知っている事業所さんで、競争が激しい大都市圏においても、開設後一ヶ月で満員になった所があります。あるいは、すでに人気の放デイが新たな事業所を開設したとき、開所前から数十人の待機者が生まれたという話も聞きます。

つまり、選ばれる事業所と、そうでない事業所がある、ということです。

両者の分かれ目はなんでしょうか。

利用者が集まらない理由

新規開設したのに人が集まってこない・・・。私が見聞きした話を総合すると、苦境に立たされる放課後等デイサービスには、ある共通の傾向が見られます。

それは「利用児に提供するプログラムを用意せずに開所している」ことです。

施設の広さや人材配置といった、法律で定められた最低要件を満たしただけで、即開所に踏み切ってしまう。プログラムは、開所後、利用者が増えてきたら追々考えていけば良いや、という考え方です。

放課後等デイサービスの供給が需要に追いついていなかった時は、このような考えでも、子どもを預かってもらえるというだけで、親御さんは契約してくれました。

しかし、近隣の事業所数が増え、親御さんが子どもを通わせる事業所を選べるようになっている状況では、開設当初から他の事業所と差別化できていなければ利用者は集まりません。

そのことをもう少し詳しく解説します。

最初の体験利用者を感動させる

過去に複数の放デイと関わらせていただいた経験からすると、新規利用者獲得のための最も効果のある宣伝は、親御さんの口コミです。

幸先の良いスタートを切れた事業所は、最初に施設を見学しにきた親御さんを「ファン」につけていることが多いです。その親御さんがインフルエンサーとなって、学校やママコミュニティの中で、他の親御さんに紹介してくれ、そこから数珠繋がりに新規申込が入ってくるのです。

従って、利用者を獲得するためには、開所前からきちんとしたプログラムを用意し、最初に見学・体験に来てくれた親子がそのプログラムに満足し事業所のファンになってもらうことが、必要になります。

裏を返せばプログラムが準備出来ていない状態で利用者をお迎えすることは大変なリスクです。自分たちが不十分なプログラムしか提供できないことが、事業所を見学した親御さんを通じて地域のコミュニティに知れ渡る可能性が高いからです。

そうなってから慌ててプログラム構築に力を入れても、確立したマイナスの評判を挽回することは大変に困難です。

なぜプログラムを準備しないのか

これほどのリスクがありながら、プログラムを用意しないまま放課後等デイサービスを開設してしまうケースが後を絶たないのはなぜでしょうか。

このようなケースでは、放課後等デイサービスの経営者の方が、利用者に満足してもらえるプログラムの”レベル感”を理解していないことが多いと感じています。

放課後等デイサービスでは、小学生から高校生までの障害のあるお子さんを日に10人程度お預かりします。この発達段階も障害特性も様々なお子さんたちに、安全にしかも有意義な時間を過ごしてもらうために、どんなプログラムを用意すればいいのか。そのプログラムを実施するためには、どんな設備や教材が必要なのか、スタッフにはどんな研修を受けさせる必要があるのか。そして、トータルでどれだけのコストがかかるのか。

ここの見極めは、特に他業種から参入して来た人の場合、判断が難しいところです。その結果でてくるのが、「わからないものに金をかけるわけにはいかない」という消極的な経営判断です。

それが先に述べた「とりあえずは最低限のところから始めてみよう、プログラムは利用者が集まってから追々開発しよう」という発想に繋がります。

しかし、競争状態に入っている地域に新規参入する場合、こうした考えが自殺行為であることは先に述べた通りです。

とにかく現場に入る

自分の事業所が提供するプログラムのレベル感を判断できないというのは、飲食店に例えれば自分の店で提供している食事が美味しいのか不味いのかわからない、という状況です。

普通なら考えられないことですが、こうしたことがまま起きるのが障害のあるお子さんを対象とした放課後等デイサービスの難しさだと思います。

では、経営者はどうしたら利用者に満足してもらえるプログラムの”レベル感”をつかむことができるのでしょうか。

誰にでもでき、すぐにでき、しかもお金のかからない方法があります。「現場に入る」ことです。

もしあなたがこれから自分の放デイを構えようとしているなら、その前にぜひとも他の放デイで働く経験を持つべきです。すでに自分の事業所があるなら、今すぐにでも現場に入ることです。

現場で障害のある子どもたちと向き合うことで、一日に発達障害のあるお子さんを10人お預かりするためにどれだけの態勢を用意しなければならなのか、肌感覚でつかむことができます。

また、親御さんたちと話をすることによって、自分たちにどれくらいのことが求められているのか、掴めるようになります。

同時に、自らスタッフの一員として働くことで、様々な要請に対し、自分たちがどこまで応えられるのかも、見えてくるはずです。

こうした現場の経験を通じて、

「こうすればもっと質を高められるのではないか」

「この部分はもっと効率化できるのではないか」

といった発想、あるいは、

「この部分は自分たちの経験や知識では解決できない」

「こんな教材が必要だ」

といった課題感も生まれてきます。

こうした発想や課題感ができあがってくれば、自身の事業所を開設するにあたって新しいプログラムを開発するときでも、どれくらいのコストをかければ満足してもらえるプログラムができるか、見込みがつきやすくなります。

発達障害のある子の将来への見通しをどう立てるか

講演会「発達障害を持つ子どもの将来に向けた準備」を開催しました

去る2月28日、いつもアナログゲーム療育で伺っている東京青梅市の放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」にて、

「発達障害を持つ子どもの将来に向けた準備~就労に向けて今からできること~」

と題した講演会を開催しました。

療育講演会チラシ1

タイトルからもわかるとおり、いつもやっているアナログゲーム療育のご紹介ではありません。かつて発達障害のある大人の方の就労支援に関わった経験から、発達障害者就労の制度と現状を解説した上で、子どものうちからできることをお伝えしました。

お子さんの将来への見通しをもってほしい

この講演会の目的は、発達障害のある子を育てる親御さんに、お子さんの将来についての見通しを持ってもらうことにありました。

特に、知的な遅れがない、もしくは遅れが軽度のお子さんを育てている親御さんの場合、お子さんの将来の道筋が見えないことに、強い不安を持たれていることが多いからです。

というのも、こうした子どもたちは通常級で健常児の中で過ごしていたり、また特別支援級の中では他の障害児より勉強ができてしまう、いわば中途半端な立ち位置にいるため、周囲の子どもたちの進路が参考にならず、将来の見通しを得るための情報が不足しているからです。

もちろんお子さん一人ひとり目指すべき将来は違いますし、そもそもお子さんの将来はお子さんが自分の意志で決めるものです。

しかし、親御さんにとってもお子さんが将来の見通しが立たなければ、子育ての方針も立ちにくいはずです。

たとえば今盛んに議論がなされている「早期発見・早期療育」の是非についても、お子さんが将来どんな社会で生きていくのかある程度イメージが掴めていないと、どれだけ考えても結論は出ないのではないでしょうか。

発達障害者就職の現状を解説

そこで今回の講演では、社会的自立の一つのゴールとして、就職についてお話することにしました。

発達障害のある人の就職について、主に下記の3つの道筋があることを解説しました。

  • 福祉的就職(福祉作業所等)
  • 一般企業の障害者枠への就職
  • 通常の就職

この中で、発達障害のある人の利用が進んでいる障害者枠での就職について、詳しく解説しました。

障害特性にあわせて仕事内容を調整してもらえたり必要な配慮が得られるといったメリットがある一方、給与が低かったりキャリアアップが難しいといったデメリットがあることも、隠さずお伝えしました。

その上で、就職で必要になる力として「コミュニケーション力」「自己理解」の二つを挙げ、これらを身につけるためには、幼少期から安心できる環境で人との関わる機会をたくさん持つことが必要なことを強調しました。

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「先のことがわかってよかった」

参加者の中にはまだ小学生のお子さんを育てている親御さんも多く、そうした方たちに、取得年収や非正規雇用の問題にまで踏み込んだ私の話がどこまで響くかわからないところもありました。

しかし、終了後にある親御さんが「先のことがわかってよかった。いつかきっと松本先生の言われたことを思い出すことがあるはずです」とおっしゃってくださり、親御さんにお子さんの将来への見通しをもってもらうという目的が、ある程度達成されたのかな、と思いました。

この「将来の見通しを得る」就労のお話、アナログゲーム療育のご紹介と並んで、引き続き、講演を通じてお伝えしていこうと思います。

ご興味のある方はtmwires@gmail.comまでご連絡ください。

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とはいえ最後はゲーム体験も。大いに盛り上がりました。

 

 

【放課後等デイサービス向け】スムーズかつ安全な療育の工夫

障害のある子たちの集団活動で、安全を確保するには

放課後等デイサービスでは、多動性や衝動性、あるいは様々な感覚の過敏を持った発達障害のある子たちを日に10人近くお預かりします。

こうした子どもたちに事業所で安全に過ごしてもらうためには、一連の活動をスムーズに行えるよう、教室の環境を整えたり、スタッフがサポートしたりする必要があります。

そこで、私が療育アドバイザーとして複数の放課後等デイサービスに関わった経験をもとに、スムーズかつ安全な療育を実現する工夫を以下にまとめてみました。

①来所→教室に入るまでの混乱を避ける

お子さんが来所してから教室に入るまでには、意外とたくさんのステップがあります。

最低でも

  • 靴を脱いで下駄履に入れる
  • ランドセルをロッカーにしまい、上着を脱いで所定の場所にかける
  • 手を洗ってうがいをする

この3つはどこの事業所でもやっているはずです。

しかし、お子さんの中には、手も洗わずランドセルを背負ったまま教室にすっ飛んで行こうとする子もいれば、手先が不器用で上着をハンガーにかけるのが困難な子もいるなど、中々スムーズには進みません。そのため、利用児が増えてくると、来所時間は下駄箱まわりが子どもたちで渋滞してしまうことが多くなります。

このとき、スタッフが場当たり的に対応していると、必ず手が行き届かない子がでてしまい、順番争いで喧嘩がおきたり、手順を守らず教室に入ってしまう子が続出するなど、毎回大混乱に陥ってしまいます。

こうした混乱を防ぐために必要な対策として、来所→教室に入るまでの流れを、文章(できれば写真も)に表したものを下駄箱周辺に掲示し、お子さんに周知することが大切です。

また、スタッフはだれがどの作業をサポートするか、飛び出そうとする子をだれが抑えるか、事前のミーティングで役割分担を明確にしておく必要があります。

②危険な行為は、まずその行為を辞めさせた後、注意する

たとえば、教室で長い棒を振り回していた子がいたとします。このときによくみかけるのは、スタッフが「◯◯くん、その棒危ないから先生に渡して。ねえ、渡してって言ってるでしょ」などと言いながら、お子さんの後ろをついて回っている光景です。

これは危険な状態です。なぜなら、後方からのスタッフの言葉に気を取られ、棒の先端の行方に注意を払えていない可能性が高いからです。

こうしたときは、まず「棒を取るよ」を一声かけた上で、サッと棒を取り上げてしまいます(一声かけるのは、お子さんを驚かせないためです)。その後で、「教室で棒を振り回すのは危ないからやめてね。この棒をしまっておきます」と説明します。

転落の恐れがあるような高所に登っている子も同様です。まず「降ろすよ」といいながらその子を抱いて地面に降ろします。そのあとで「落ちたら危ないから、登っちゃだめだよ」と注意します。

登っている子に後ろから「◯◯くん、そこにいたら危ないでしょう。降りなさい」などと注意するのは先の例と同じ理由で危険です。

③トランポリンかバランスボールを用意する

多動で離席があり、教室内であばれたり外に出ようとする子への対応として、トランポリンやバランスボールを用意するのは有効です。

トランポリンは大掛かりに思えるかもしれませんが、一人用の小さなものがamazonで4000円代からあります。場所もそれほど取りません。

 

バランスボールなら1500円ほどですみます。サイズがいろいろ有りますが、小さめの55cmが良いでしょう。

 

トランポリンの上で飛んだり、バランスボールに座って揺れることで、体を動かしたいといういうお子さんの欲求をみたしつつ、体はその場にとどまることができます。そのため、先生の話を聞いたり活動に参加できます。離席した子が居場所がなくして、フラフラと外に出て行ったりしてしまうよりは、ずっと良いのです。

ただし、それぞれ弱点があります。トランポリンは飛び降りた時衝撃が床に伝わるため、騒音トラブルの原因になる可能性があります。事業所がマンションの中階にある場合などは避けるべきでしょう。

バランスボールは自由に使わせると子ども同士の投げ合いが始まり、他の子にぶつかってしまうことがあるので、必要なとき以外はしまっておいたほうがよいでしょう。

④子どもを興奮させすぎない

若い男性のスタッフにありがちな失敗として、自由時間にプロレスごっこや肩車、鬼ごっこなど体を大きく使った遊びをした結果、お子さんが自身の安全に配慮できないほど興奮してしまい、ほかの子や物に衝突して怪我をしてしまうことがあります。

基本的に屋内では、自由時間中、走ったり、激しい身体接触を伴う遊びは避けるべきでしょう。その代わり、カリキュラムの中に運動プログラムや屋外遊びを取り入れたりして、思い切り体を動かす機会を作るべきです。

⑤日々の療育カリキュラムを組む

最大の安全対策は、お子さんが飽きずに楽しんで取り組めるカリキュラムを用意することです。

発達障害のある子どもたち10人が、一つの部屋の中で何時間も「ただなんとなく」過ごす、というのは基本的にムリな話です。いかなる安全対策をとっても、危険やトラブルは避けられません。

発達段階に合わせた課題を用意し、子どもたちはその課題を楽しみながら一生懸命取り組む。スタッフはその取り組みをサポートし、課題を達成できた喜びを分かち合う。そういう態勢ができあがることは、お子さんの成長を促す上で大変重要なことですが、活動自体の安全性を確保する上でも必須です。

不安ベースの子育てから安心ベースの子育てへ

その子育て、間違っていませんか?

先日本屋に入ったとき、ある経済誌の教育特集の表紙が目に入り、ギョッとました。

「その子育て、間違っていませんか?」

という見出しがついています。さらにその下には

「科学でここまでわかった!悪い教育 良い教育」

という小見出しが。

「間違う」「悪い」といったネガティブワードを前面に押し出すことで、ことさらに子育ての不安を煽るその雑誌の見出しを見て、私は少なからず不快感を覚えました。

しかし、実際に雑誌を読んでみると、見出しから受けた印象とは裏腹に、むやみに不安を煽ることはなく、丁寧な取材の基づくバランスの取れた内容でした。

それだけに、かえって表紙の不安を煽るような見出しが気になります。おそらくこの雑誌の編集者は、ネガティブワードを連ねたほうが、子育てに不安を持つ親の注目を惹けると考えたのでしょう。

問題なのは雑誌自体より、むしろ普段から子育てに不安があり「間違う」「悪い」などのネガティブなキーワードに反応してしまう親御さんが多くいる、と思われている現状ではないでしょうか。

自己責任と自己決定を求める時代の変化が子育てへの不安を生む

私が相談にのっている発達障害のある子を育てる親御さんの中にも、子育てに不安を持つ方が多くいらっしゃいます。その理由は、お子さんの障害にあることも確かですが、それ以前に子育て自体に不安を感じている方が多いと感じており、そこに療育者・支援者としてどう向き合っていくかが、今私の中で大きなテーマになっています。

そんな中で、子育てにまつわる不安の向き合い方に大きなヒントを与えてくれたのが、首都大学東京教授で社会学者の宮台真司さんが書いた「最適という孤独を離れ、満足の共同性へ」という文章です。

この文章の中で宮台教授は、今の時代、人々が多くのことを自身の責任で判断せざるを得なくなった結果、不安に陥る人が増えていることを指摘します。

以下、リンク先の文章から引用します。

何もかも個人が自己責任で自己決定の機会を引き寄せる必要が出てきたという時代の変化が、「社会として」いいのか悪いのかは、考えなくてはならないことです。抽象的な水準で言えば、個々がバラバラに分断され孤立した状態になると、全てを自分でハンドリングしなければならないので、自分にとって「最適な選択」をしないと「損をする」「置いていかれる」などと不安に陥りがちになるので、社会が不安ベースになります。

 これだけ情報があふれた流動的な社会では、「最適な選択」なるものは単なる幻想に過ぎません。どんなに「最適な選択」をしたつもりでも、少し時間が経てば状況が変わり、「あれば間違いだったのではないか」「不適切だったのではないか」と思い返することになり、さらに不安に襲われます。こうして、安心ベースだった社会のあり方が、不安べースへと変化してしまうのです。

 

発達障害のある子を育てる親御さんの中にも、お子さんの療育について常に最適な環境を求めながら、宮台教授が指摘するように「あれは間違いだったのではないか」「不適切だったのではないか」と思い返して、不安に襲われている方が多くいると感じます。

宮台教授は、こうした不安から抜け出すには<最適化>原理に基づく考え方をやめ、<満足化>の原理へと切り替えていく必要があるとし、そのためには空洞化した共同体の復活が必要であると述べます。

経済学者は、利潤の最大化(投資効率の最適化)が人間の行動原則だとする仮説に立ちます。しかし、これは企業やファンドなどの資本の動きについて妥当するものの、実は僕たち自身はそのように生きていません。「最適」でなくても、特に問題がなければ(そこそこ満足なら)前に進む。それが〈満足化〉の原理です。この原理は共同体の自明性ともにあります。

 

「自分で何もかもしなくては⋯」と過剰に思い込む人は、〈最適化〉原理に駆られがちになって不安や抑うつ感から逃れられなくなります。現にそういう人ばかりでしょう。だからこそ、自覚的に、ものごとの評価を〈満足化〉原理に引き戻すことが重要です。そのためには、自らを包摂する共同体、すなわち「出撃基地であり帰還場所であるようなホームベース」を築いていくことが不可欠です。そうすれば〈満足化〉に簡単に近づけます。

共同体とは何かという問いについて、宮台教授は転校を多く経験した自身の子ども時代の経験を挙げます。

僕は六つの小学校に通う転校生でしたが、僕自身けんかが弱くても、けんかの強い子と友だちになる力があったから、心配ありませんでした。逆に、友だちは、学級委員をつとめる僕といつも仲良くすることで、担任の先生の大目玉を食らう頻度が減りました。そう、「持ちつ持たれつ」です。

 けんかが弱ければ、強い子と友だちになればよく、勉強ができなければ、できる子と友たちになればよい。「持ちつ持たれつ」で共同体的に結合していけば、個人が万能である必要はない。人間関係の輪に入って分相応の役割を果たせればいいだけです。

そして、子どもがこうした共同体関係に結びついていることが、充実や幸せ、あるいは挫けない力に繋がると主張します。特に挫けない力は「レジリエンス」として昨今注目されているキーワードでもあります。

 「これさえすれば子供が幸せになる」「勝たないと置いていかれる」と考える時点で、〈感情の劣化〉を被っています。〈感情の劣化〉とは、他者や共同体に貢献する気持ちが働かないこと。つまり、損得勘定による〈自発性〉を超えた、内から涌く力としての〈内発性〉が生じないこと。

自分の最終目的を支える価値が、利他性や貢献性と結びつくものであることが、最も強い動機づけを与えるのです。この強い動機づけに基づく行為は、成功すれば、個人を超えた充実や幸せにつながり、失敗しても、挫けない力を与えます。また、失敗しても、動機が利他性ですから、自分の属する共同体から排除されず、包摂されます。

 

個人ベースから共同体ベースへの子育てへ

こうした宮台教授の意見を受けて、今私が感じているのは、<最適化>原理から<満足化>原理の切り替るために、個人ベースで展開されてきた子育てや教育を、共同体ベースへのそれとシフトさせていくことの必要です。

特に発達障害児の療育については、先にも述べたように、その子の障害ばかりを注目した結果、宮台教授が指摘する<最適化>原理の思考に陥って、療育をまるで株式投資のように考え、常に最適な選択をしたつもりで「あれば間違いだったのではないか」「不適切だったのではないか」と思い返して、さらに不安に襲われている親御さんや支援者が多いように感じています。

そうした不安から抜け出し、子どもたちに、「自らを包摂する共同体、すなわち『出撃基地であり帰還場所であるようなホームベース』」を提供すること。そして、子どもたちが共同体との結びつきを感じることで、利他性や貢献性に基づいた強い内発性を獲得させることこそ、今子育てや療育に最も求められていることなのではないかと考えます。

共同体を生み出す手段としてのアナログゲーム

当サイトでご紹介しているアナログゲーム療育もまたこうした問題意識に連なるものです。

アナログゲームではプレイヤーたちは一つのルールを守りあってプレイします。その過程で、プレイヤー同士に誰かがルールを理解していなければ別の人がそれを教え、プレイに不安を感じている人がいればアドバイスする関係性が生まれます。その意味で、ゲームという場は、共同体としての側面を持つのです

ゲームの共同体としての側面を強調し、そこに結びつこうとする子どもたちの間にうまれる関係性を生かして、コミュニケーション能力の引っ張り上げるのがアナログゲーム療育です。

その指導原理は、またの機会に詳しくご説明したいとおもいます。

発達障害という世界の「表」と「裏」

プライベートな相談を受けるときの困難

発達障害に関わる仕事をしていると、この障害について、プライベートな相談を受けることがあります。
自分の子どもが、あるいは親戚が、配偶者が、発達障害の症状にピッタリ当てはまる。ついては、どう対処したらよいか教えてほしい、という相談です。
 
親しい関係にある人が発達障害かもしれないと気付いた人からの相談に応えることには、独特の難しさがあります。
 
今回はこの難しさを紐解きつつ、初めてこの障害と向き合う事になった人が、発達障害の理解をどう深めていけばよいかを考えてみます。

マスメディアの情報には具体性がない

 人びとが発達障害に気付くきっかけは、テレビや雑誌、あるいはインターネットのニュースサイトといったマスメディアの情報であることが多いです。

不特定多数を対象としたこうしたマスメディアの情報には、障害の症状についての大まかな説明はあっても、問題解決に直接役立つほど具体的な情報は含まれていないことがほとんどです。
 
そこで、私のような発達障害者の支援を生業とする人間のところに、具体的な対処法について相談が来るわけです。ところが、それに対し私たち支援の専門家は
 
「ははあ、ADHDですか、ではこうしたら良いでしょう」
 
とか
 
「ふむふむ、それはASDのこだわりの症状ですね。ここに書いたとおりにやってごらんなさい」
 
といった風なわかりやすい「処方箋」を提示することができません。
 
というのも、発達障害者支援の専門性というのは、一人一人異なる本人の発達段階や障害特性と周辺の環境を見極め、そこに合わせた個別の対応を見出すことにあるからです。
 
当人固有の状況に応じた対応を見出すので、障害名だけ言われても、日々の対応に生かせるほどの具体案は導き出せないのです。専門家としては、当人の状況を把握するためのヒアリングが必要になります。

相談に期待されていることと、実際にできることのズレ

しかし、ここで、わかりやすい回答を求める相談者と、個別具体的な状況を把握したい専門家の間で、ディスコミュニケーションが起こりやすくなります。
 
相談者は
 
「◯◯な症状で困っているがどうしたら良いか」
「本人に障害のことを伝えたほうがよいか」
「医者に行ったほうがよいか」
「結局治るのか治らないのか」
 
といったあたりを、はっきりさせたいのですが、
 
 支援者としては、

「(相談者からみて)当人のどういう部分が発達障害なのか」
「それはその人の社会生活にどのような困難を及ぼしているか」
「当人はそのことをどう思っているか」
「相談者は当人にどうあってほしいとおもっているのか」
 
といったあたりをじっくり聞いていきたいですし、それを聞かないと上記の質問にも正しく答えられないのです。
 
相談をする人と相談を受けるの人のこうした行き違いが解消されないまま話が進んでしまうと、片や相談者は「具体的な回答を求めて専門家に相談したのに質問されるばかりでいつまでも答えが得られない」という不満が募りますし、片や専門家は知識のない相談者から性急な回答な求められてイラつくことになり、有意義な相談になりません。

発達障害の世界には「表」と「裏」がある

こうした行き違いを防ぐために、私は相談に入る前にまず「発達障害の世界には『表』と『裏』がある」という話をします。
 
「表」の世界というのは、発達障害に対する社会全体の理解と支援を勝ち取るためにわかりやすくデザインされた世界で、「発達障害のある人は周囲の適切な理解と支援によって充実した人生を送ることができる」というポジティブなメッセージが基調にあります。
 
他方、「裏」の世界というのは、障害当事者の一人ひとり異なる困難を具体的に解決するためにデザインされた世界で、「発達障害と一口に言っても個別性が極めて高く、それをどう理解し支援するかについては、一人一人異なるベストの形を、本人と周囲の人が一緒になって考え実践していくしかない」という現実的なメッセージが基調にあります。
 
「表」の世界は社会全体に向けた一般論の世界、「裏」の世界は当事者に向けた個別具体論の世界をそれぞれ宰領しています。
 
私は相談者に、発達障害の世界にはこの「表」と「裏」二つが存在することを伝えた上で、
 
「今あなたは発達障害の一般論としての『表』の世界を通じて私と繋がりましたが、ここからは具体的な問題解決に向けて『裏』の世界に踏み込む段階です。」

「『裏』の世界では、わかりやすい処方箋はありません。自分の頭で考えて実践しながら、独自のやり方を見出す段階です。私はあなたがたがその世界を歩むお手伝いをすることができます。手始めに、障害があるという相手の方について、詳しく聞かせていただけますか」
 
と持ちかけます。
そうすることで相談者との行き違いが起きることなく、個別具体的な相談にスムーズに移行できます。

専門家こそ、「表」と「裏」の役割を理解すべき

最後に苦言めいたことを。
 
社会全般、不特定多数を対象とした一般論を宰領する「表」の世界と、個別具体的なケースを宰領する「裏」の世界。この二つの世界にはそれぞれの役割があって、どちらも必要なものです。

しかし、発達障害者支援を生業としている人であってすら、そのことを理解できておらず、片方の世界を良しとして、もう片方の世界を低く見て、自ら視野を狭めている人が少なくありません。
 
たとえば、「表」の住人が発する「理解と支援を!」というわかりやすくてポジティブなメッセージは万人の賛同を得やすい一方、個々の問題を解決するだけの具体性には欠ける場合が多いです。そこが個別具体的な問題解決を旨とする「裏」の住人からすると「大衆に媚びへつらうばかりで実効性がない」と見えてしまいがちです。
 
他方、「裏」の世界の住人の、「当事者同士で一つ一つ考えて実行していこう」というメッセージは、その個別具体性の高さゆえ自分たちの仕事を一般化して広く世に訴えることができないため、「表」の世界の住人から「科学的でない」「方法として確立できていない」といった批判を受けがちです。
 
しかし、本当は同じ発達障害という分野で、一般論と個別具体論という異なる領域を扱っているだけなのです。

それなのに、片一方が正しくて片一方が間違っているかのような言説がしばしば聞かれるのは残念なことです。

発達障害のあるお子さんが通う放課後等デイサービスの選び方

増加する放課後等デイサービス

学校・家庭に次いで、発達障害のあるお子さんが過ごす第3の居場所として、最近その存在感を増しつつある「放課後等デイサービス」。今回は、その間違いない選び方についてお伝えします。

「放課後等デイサービス」は、障害のある小学生から高校生までのお子さんが放課後や長期休み中に通う場所です。費用の9割を行政が負担してくれるため、親御さんにかかる金銭的負担は1日900円程度で済むという、中々に恵まれた制度です。

事業所をどうやって見つけるか

まず、自分が住む地域にどんな放課後等デイサービスがあるのかを調べる必要があります。

学校の先生や教育相談所は、地域にどんな放課後等デイサービスがあるか、知らない場合が多いということです。放課後等デイサービスは「教育」ではなく「福祉」の管轄であり、しかも成立から日が浅い制度なので、教育関係者に情報が行き渡っていないことが多いのです。

確実に情報を持っているのは、在住している市区町村庁の子育て支援課、または福祉事務所です。まずはこちらに相談してみるのが良いでしょう。

もちろん、インターネットも有効です。自身が住む市区町村以外の放デイにも通うことができますから、「自身が住む+隣接する市区町村名」と「放課後等デイサービス」で検索をかけて、調べてみると良いでしょう。

しかし、各事業所の評判について、最も確度が高いのは親御さん同士の口コミだと思います。お住まいの地域で親の会などがあれば、入会して情報交換するのも有益です。

「お預かり」か「療育」か

さて、いくつかの事業所が候補に挙がったら、実際に見学や体験を行い、通う事業所を決定していきます。

その際覚えておいていただきたいことがあります。

大都市圏を中心に急速に増加しつつある放課後等デイサービスですが、その増加には大きくわけて二つのトレンド(流行)があります。

一つは「お預かり→療育」への流れ。

従来の放デイは、特定のカリキュラムなどを設けず、スタッフの見守りのもと、子どもが教室に備え付けてある遊具で自由に遊んだり、DVDをみたり、おやつを食べたりする形が自由でした。療育施設というより、学童に近い形です。

それが最近になり、「もっと専門的な療育をしてほしい」という親御さんの要望に応える形で、特色ある療育プログラムを打ち出す事業所が増えています。最近特に多いのは運動・スポーツ系で、他にコミュニケーション系(SSTなど)、パソコン、お絵かき、ものづくりなど、様々です。

二つ目は「知的な遅れのない子の利用増加」というトレンドです。

従来、放課後等デイサービスを利用するお子さんの多くは、特別支援学校または特別支援学級在籍し、知的障害を伴っていましたが最近になって、通常級在籍の知的な遅れのないお子さんも放デイを利用することが多くなってきました。

一番重要な「レベル感のすり合わせ」

放課後等デイサービスが、お預かりから療育重視となり、知的な遅れのない子の利用が増加する中、最も重視していただきたいことが「レベル感のすり合わせ」です。

具体的には、事業所に通ってきている子たちのレベルが、自分のお子さんのレベルとマッチしているかを見極める必要があります。

放課後等デイサービスの対象となるのは、知的な遅れのあるお子さんから平均より高い知能を持つお子さんまで。また年齢は小学生から高校生と極めて幅広いです。事業者側から見ると、これだけ幅広い発達段階のお子さんにオールレンジで対応できるプログラムを提供するのは至難の業です。

実際、多数の放デイが活動している都心部では、「高機能の子はこことここ、重めの子はこっち」といった感じで住み分けが進んでいます。提供するプログラムのレベルが違う事業所同士で、それぞれのレベルに合うお子さんを紹介しあうことまでなされているようです。

しかし、事業所によっては、開所直後だったりPRがうまく行っていないなどの理由で、お子さんの発達段階に対処するノウハウを持っていないにもかかわらず、利用を勧めてくることもあるかもしれません。その勧めにのってミスマッチな療育を受けさせてしまうと、療育効果が見込めなかったり、お子さんが孤立して苦しい思いをすることになりかねません。

そうならないよう、事前の見学で事業所が主なターゲットにしている利用者層をチェックする必要があります。

チェックの方法として、スタッフに

「利用している子どもの中で、特別支援学級・学校にいる子と、通常級にいる子の割合はどれくらいですか?」

「通っているお子さんの主な年齢層を教えてください」

と質問することは、その事業所のレベル感を把握する上で有益です。

自身のお子さんが特別支援学校に在籍しているのに事業所を利用するお子さんの多くは通常級に在籍していたり、高校生のお子さんを通わせたいが事業所を利用しているのは主に小学校低学年のお子さんであったりすることがあるかもしれません。

ただし、その事業所を利用しているお子さんの発達段階と、自分のお子さんの発達段階にズレがあるからといって、その事業所に通わせるのがよくないわけではありません。このようなときは、発達段階や年齢のズレにどんな対応をしてもらえるのか聞いてみるとよいでしょう。細やかな対応を提案できるようなら、力のある事業所だと言え、充分通わせる価値があるとおもいます。

いずれにしても、利用するなら、その事業所がお子さんの発達段階にあわせた関わりをしてくれる、という印象は得ておきたいところです。

指導員の力量は?

放デイのサービスの質を決定づけるのは、指導員の力量です。

しばしば指導員の資格や経歴を気にされる親御さんがいますが、あまり重要な要素ではありません。というのも、放デイの事業所の多くは設立から日が浅く、指導員は療育以外の分野からコンバートしてきている場合が多いからです。

たとえば、精神保健福祉士を持っているからといって、その人が「発達障害児療育の専門家」であるとは限りません。3ヶ月前まで成人の精神障害者の生活介護に関わっていた人かもしれないのです。

発達障害のあるお子さんと関わるスタッフの力量は、お子さんの発達段階に合わせた課題や遊びの引き出しをどれくらい多く持っているかで推し量ることができます。

そこを確かめるために、お子さんの発達段階や困り感を伝えた上で

「うちの子が取り組めそうな課題は、どんなものがありますか」

と聞いてみるのがよいでしょう。

お子さんのレベルにあった課題のアイデアや教材がスッと出てくれば、力のある療育者だといえると思います。

放課後等デイサービスを有効に活用するために

冒頭にも書きましたが、放課後等デイサービスは、学校と家庭に次ぐ、第3の居場所として、発達障害のあるお子さんに育ちに大きな影響をもつ場所です。

しかし、ここ数年で新規開所が相次ぎ、サービスの質が事業所によって玉石混交であるとの話も聞かれます。お子さんの健やかな育ちのために、間違いのない事業所を選んでいただきたいとおもいます。