療育に欠かせない、ピアジェの認知発達理論

アナログゲームを用いた療育について、これまで、放課後等デイサービス「オルオルハウス」さんでの実践をご紹介してきました。

これらの記事を読んでいただくと、私がお子さんの認知能力の発達にスポットあてて療育していることが理解いただけるのではないかと思います。

次のステップに進む前に、いったん認知能力とは何なのか整理しておきましょう。

子どもは『小さな大人』ではない

人間の認知能力について研究し、その発達過程を明らかにしたのが、スイスの心理学者ジャン・ピアジェ( 1896 – 1980)です。

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20世紀において最も影響力の大きかった心理学者の一人ジャン・ピアジェ。教員資格試験や保育士試験などを受けたことがあるなら、その名前を耳にしたことがあるはず。

「子どもは『小さな大人』ではない」とピアジェは言いました。

多数の実験により、彼は子どもが、大人とは異なる独特の物の捉え方や考え方をしており、その特性が、年代ごと段階的に変化していくことを明らかにしました。

この「独特の物の捉え方や考え方」という言葉は、発達障害を表す時にもよく使われます。ADHD、ASD、LDなどの発達障害のある人にもそれぞれ独特な物の捉え方や考え方があり、こうした障害を持つ人と関わるときは、そうした特性の理解が大切であることを、私達は知っています。

他方、ピアジェによれば「子ども」という生き物自体にも、それぞれの年齢ごとに独特の特性があり、大人と同じようにできなかったり、その年代の子どもならではの考え方で物事を進めようとするのです。

従って、「発達障害」のある「子ども」を療育するのなら、「各障害ごとの特性」を理解するだけでは不充分で、「各年代ごとの子どもの発達特性」をも理解する必要があります。

療育の横軸を「障害特性」とするなら、縦軸にあたるのが「認知発達段階」。この両方のかけあわせがないと、本当の意味でお子さんに合わせた療育はできません。

認知発達の四段階

ピアジェは各年代の子どもを対象とした実験の結果をもとに、子どもが大人へと発達していく過程を、以下の4段階に分けました。

1 感覚-運動期 0~2歳
2 前操作期 2~7歳
3 具体的操作期 7~12歳
4 形式的操作期 12歳以上

この4段階全てでキーになっているのが、以前にも解説した「シンボル機能」です。

シンボルとは、ある具体的な事象を、別のもので代表したもので、シンボル機能はシンボルを使いこなす機能のことを指します。シンボルの代表例が、「名前」です。

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実写とイラストで質感や色味が全然違う二つの画像が、同じ「トラ」を表しているとわかるのは、私達がそれらを「トラ」という名前で呼ぶことで、同一であると認識しているからです。

名前の他に、数や量、あるいはゲームのルール、「道徳」や「社会」などといった抽象的な概念までもがシンボルに含まれます。

そして、子どもが大人になるまでの過程で、様々なシンボルの存在を理解し、それらを自由に使いこなせるようになっていくことを、ピアジェは明らかにしたのです。

以下、それぞれの発達段階について解説していきましょう。

「感覚-運動期」の子ども

健常児の0~2歳にあたる「感覚-運動期」は、シンボル機能がまだ形成されていない段階です。

この時期の子どもは、いわば「目に見えるものだけ・耳に聞こえるものだけ・手に触れるものだけが全て」という世界に生きています。

興味のある遊びも、動きや音、触感などの感覚に訴える単純なものになります。

シンボル機能がまだないため、シンボルの一種である「ルール」が存在するゲームは、まだ遊ぶことができません。

「前操作期」の子ども

「前操作期」というのは、「シンボル機能を自由に操作できる手前の段階」という意味です。

2歳以降になると、物に名前があることが理解でき、それ伴って言葉を発するようになります。やや複雑なシンボルである「ルール」も徐々に理解できるようになり、それを他の子と共有することで集団で遊べるようになります。

しかし、シンボル機能を自由に操り、「A案とB案を比較してより望ましい方を選択する」とか、「報酬と危険を天秤にかけてより高い成果が得られそうな方を選択する」といったように合理的・戦略的な思考をすることは、まだできません。

実例からみる認知発達段階

これまでご紹介してきた例の中では、ルールを理解して遊ぶことはまだ難しいけれども、カード遊びで異同の弁別ができたAさんは、「感覚-運動期」から「前操作期」への移行期、言い換えればシンボル機能の芽生えの時期にあると言えます。

テディメモリ1

 

また、ゲームのルールを理解して楽しむことができるもの、数や量といったシンボルを自由に使いこなすことはまだ難しかったBくんは、「前操作期」のただ中にいると考えられます。

雲の上のユニコーン

「具体的操作期」

認知発達の第3段階である「具体的操作期」に入ると、複数のシンボルを組み合わせるなどの自由な操作ができるようになり、さらには状況を客観的に把握し、合理的・戦略的な思考ができるようになってきます。

下の写真は、「具体的操作期」に差し掛かろうとする子どもたちのゲームの様子です。

パカパカお馬

ルールという「目に見えないシンボル」を共有し、そのルールの中で自分がどう振る前ばよいか合理的に考えている。そんな様子が、写真からもなんとなく伝わってくるのではないでしょうか。

次回はこの写真の場面を解説しながら、「具体的操作期」のある子どもたちの合理的思考を促す療育を解説していきましょう。

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