成人の精神/発達障害のある方へのアナログゲーム講座

立川「すぺぃろ」さんにて活動中!

10月から、東京立川にある就労以降支援/生活訓練施設の「すぺぃろ」にて、コミュニケーション能力UPを目指すアナログゲーム講座を行なっています。

「すぺぃろ」には精神・発達障害のある成人の方たちが、就労に向けた準備をしたり生活習慣を確立するために通われています。

「すぺぃろ」の特徴は、利用者さんに提供するプログラムの数多くの外部講師が担っていることです。

発達障害のある人を対象に全国でワークショップを開催しているイイトコサガシさんを始め、SSTや、演劇の要素を含んだワークショップなど、バラエティ豊かな講座が毎日開催されており、私のアナログゲーム講座もその一つとなっています。

「勇気」の部分で課題を持っている人が多い

「すぺぃろ」さんでのアナログゲーム講座は、週1回の頻度で毎回2時間。その回ごとに異なるゲームをプレイしてもらっています。

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この写真で遊んでいるのは「ヒットマンガ」。カードに描かれた絵を見て読み手が考えたセリフをもとに、正しいカードを推理して当てる。読み手は「どんなセリフなら相手に伝わるのか?」を考え、そのセリフを聞いた他のプレイヤーは「この人はこのセリフで何を伝えようとしているのだろう?」と真剣に考える。(写真は施設様の許可を得て掲載しています)

最初に感じたのは、前回の記事で取り上げたような「集団に参加する勇気」が挫かれている人が多かったことです。初回の講座、ゲームに参加されたのは5人の利用者中わずか2人でした。アナログゲームに対し、「難しそう」「失敗するんじゃないか」という不安を感じている方が多かったようです。

成人の方は子どもに比べて人生経験がある分、過去に学校や職場で集団参加に失敗した経験も多いのではないか、その分、集団参加への勇気が挫かれている人が多いのではないかと推測します。

こうした方たちには無理に参加を促すことはせず、まずはシンプルで見た目にも目を引くようなゲームで興味を持ってもらい、すでに参加している人たちにはわからないところを丁寧に説明しながら、誰もが安心してプレイできる雰囲気を作っていきました。

その結果、回を重ねるごとに、ゲームに参加してくださる利用者さんが増えています。

頑張って朝起きて来所した利用者さんも

先日、思わぬところでアナログゲーム療育の成果を感じる出来事がありました。午前中に講座を開催したときのことです。

利用者の中に、生活リズムの乱れから朝起きるのが辛く、普段は午後から通所されている方がいました。その方がこの日、「ゲームが楽しみだから」と頑張って起床し、午前中に来所されたのです。

成人の精神/発達障害のある方で、朝起きられない人はとても多く、そのことは障害特性以上に就職や社会生活の妨げになります。かつて私は障害者就職支援でそのことを痛感していただけに、アナログゲームが朝起きることのきっかけになったのは大変嬉しい事でした。

アナログゲームでコミュニケーション上の新たな課題が見えてくる

アナログゲームのワークショップは、支援員の方からも、利用者さんの新たな側面が見える貴重な機会として、重要視していただいています。

コミュニケーション力を高めることを目的としたワークショップを数多く開催している「すぺぃろ」さんでは、これまでも人前で自分の考えを発表したり、特定のテーマについて話し合う講座は多くありました。

そこに、場の状況や相手が意図を正しく見極め、そこに合わせた行動や言動を学ぶアナログゲーム療育の実践が入ったことで、その方のコミュニケーション上の新たな課題が見えてきたのです。

たとえば、人前で自分の考えをスラスラと発表できる人が、アナログゲームでは意外と周囲の状況が見えておらず独りよがりの行動をとってしまったり、反対に人前の発表は苦手で話がたどたどしくなってしまうような人が、ゲームの場面ではしっかりと周りをみて行動できていることがわかってきました。

前者の方は、行動や発言をする前、立ち止まって周囲の状況を確認することが課題になってきますし、後者の方は、周囲の状況にあわせることはできるのだからもっと自信を持って積極的に発言や行動をしていくことが課題になります。このことが、ゲームを通じてご本人とスタッフの方に体験的に理解されていきます。それがコミュニケーション能力の獲得につながっていくのです。

大切な拠り所としての「すぺぃろ」

「すぺぃろ」さんは、今年7月に開所した新しい施設ですが、専門性が高く思いやりに溢れた支援員の方々と、数多くの外部講師の存在によって、丁寧な質の高い支援がなされています。

特に、過去の失敗などから社会に出て行く勇気が失われている人にとっては、安心して他者と関わりながら自分を見つめなおし、新たな一歩を踏み出す場になっていると思います。

現在も利用者さんを募集中ですから、ご興味のある方は一位度問い合わせをされてはいかがでしょうか。

すぺぃろ:http://recoverycollege.jp/spero/

集団参加への勇気を取り戻す 「キャプテン・リノ」

 ゲームは楽しいばかりでなく、不安なもの

私がアナログゲームを使って発達障害の子どもたちの療育をしていると言うと、「ゲームの世界なら失敗しても怖くないから、お子さんも安心して取り組めますね」という感想をいただくことがあります。

私も最初はそう思っていたのですが、実際には違いました。

発達障害のあるお子さんたちを対象にアナログゲームを行う場合、まず最初に感じるのは彼らの強い不安感、緊張感です。この記事で取り上げたように、自分の不安感を隠して強さを誇示するため、わざと暴力的になる子もいます。

子どもたちのこうした不安・緊張の背景には、過去の失敗体験が大きく影響していると私は考えています。発達障害のあるお子さんは、注意や衝動の調整困難、あるいは認知の偏りといった障害特性により、同年代のお子さんとの遊びの中で失敗を繰り返し、笑われたり、集団から排除された結果「みんなで輪になって遊ぶ」ということに対して強い不安感を持っていることが多いのです。

集団遊びに不安感を感じるお子さんにとって、ゲームは楽しそうに見える反面、不安で恐ろしいものに見えています。ゲームは、自分の行動が成功したり失敗したりする様子が、他者の目にハッキリ映るからです。

ゲームに参加したがらない子どもたち

不安が強すぎて、そもそもゲームに参加しようとしないお子さんも一定割合います。理由を聞くと、「難しそう」「こういうの苦手だから」と答える子が多く、もっと率直に「負けるのが嫌だから」と言う子もいます。

こうした子たちは、いわば「集団参加への勇気が挫かれている状態」にあります。しかし、もし勇気を振り絞ってゲームに参加し「最初は不安だったけど、やってみたら楽しかった」という思いを持てたなら、その経験は別の場面、たとえば学校や地域で集団参加するときの勇気を取り戻すことに繋がるはずです。

見た目のインパクトNO.1 「キャプテン・リノ」

では、不安が強くゲームの輪に入ろうとしないお子さんに、どうしたら参加してもらえるのでしょうか。お子さん自身の過去の経験に根ざした困難ですから、小手先のテクニックではどうにもなりません。

こういうときは、お子さんの「怖い、やりたくない」という気持ちよりも、「面白そう、やってみたい」という気持ちが上回るようにするしかありません。一種の力勝負です。

ここでアナログゲームの本領が発揮されます。アナログゲームは本来は誰かに「面白い」と思ってもらえるため作られたものなのですから。

今回ご紹介するキャプテン・リノは、初対面の子どもたちが集まるゲームイベントなどで、ゲームに不安を感じているお子さんに興味をもってもらうためによく用いるゲームです。

プレイヤーごとに配られたカードを使って、高いタワーを組み立てて行きます。タワーを崩してしまった人が負けです。前の人が置いたカードにキャプテン・リノの描かれたマークがあると、キャプテン・リノ人形をそのカードの上におかなければならないため、難易度がグッと上がります。

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キャプテンリノのマークの入ったカードが置かれると、次の人はキャプテンリノ人形をカードの上に載せなければならない。ドキドキ。

上手く積み上げるとタワーの高さは1m以上になりすごい迫力があります。「いつ崩れるか・・・」と子どもたちが感じるスリルも最高潮になります。

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崩さずに積み上げると相当な高さに。見た目のインパクトはNO.1。


参加しない子は、まずは見学してもらう

ゲームが不安で参加を渋る子がいた場合、無理に参加させようとはせず、まずはほかの子がプレイしている様子を見学してもらいます。

積み上がるタワーのビジュアル的なインパクトや、そこに一喜一憂する子どもたちの歓声は、見学中のお子さんにとって、ゲームに興味を感じるきっかけとなります。

そして一度ゲームを見学することで、どうすれば成功でどうすると失敗なのかプレイイングに対する見通しがつけることができます。このことはお子さんの安心感に繋がります。

このように見学を通じてお子さんの興味と安心感を高めておければ、二回目のプレイの際、改めて促すことでゲームに参加してくれる可能性が高くなります。

高層マンションを組み立てていく「キャプテン・リノ」こちらも幅広い年齢層が遊べるゲームとしてゲーム会では定番です。

NPO法人EDGEで開催したアナログゲーム療育体験イベントの一幕。初対面同士、最初は緊張・不安の面持ちだった子どもたちが、キャプテン・リノでワッと盛り上がった。


最初不安だった子ほど意欲的に取組む

興味深いのは、最初不安感が強くゲームへの参加を渋っていた子ほど、一旦ゲームに参加すると誰よりもプレイを楽しみ、ゲーム会が終わる頃には「またやりたい!今度はいつ来てくれるの?」と言ってくれることです。

こういう時、その子は単にゲームが楽しかっただけでなく、不安を乗り越え集団に参加できたことへの喜びを感じているのです。この喜びが、人と関わる勇気を回復させることに繋がります。

このようにアナログゲームには、集団参加に対する不安を感じている子を、その不安を上回る興味で惹きつけて参加を促し、結果として人と関わる勇気を回復させる力があります。

この「勇気を回復させる」ことは、コミュニケーションスキルの獲得と並んで、アナログゲーム療育の重要な目的の一つだと考えています。

 

千葉県自閉症協会で講演

先月末、千葉県自閉症協会Willクラブさんにお招きいただき、高機能自閉症・アスペルガー症候群の子供を持つ保護者の方を対象に「社会にでる前に身につけておきたいこと」と題してお話をさせていただきました。 DSC_0008 障害者枠で配慮を受けながら就労するのと健常者として普通に就職するのと、それぞれどんなメリット・デメリットがあるのか。

かつて人材紹介会社のエージェントとして発達障害のある人の就労支援に携わったときのエピソードを交えつつ、想定年収や将来のキャリア形成に至るまでの踏み込んだ説明をしました。

その上で、発達障害のある人が就職および就労継続に成功するための条件として「障害の自己理解」「コミュニケーション能力」の二点を挙げ、学齢期からの取組みが必要であることをお伝えしました。

最終的な結論としてお伝えしたのは「学校・家庭に次ぐ3rdプレイスを確保することの重要性」です。

本人が他者との関わりの中で安心して好きなことに取り組める場を用意することが、自己理解とコミュニケーション能力を高めることに繋がることをお伝えし、そうした場作りのきっかけとしてアナログゲームを体験いただきました。

知的な遅れのない発達障害のある子を育てる親御さんの場合、お子さんの将来の道筋がハッキリせず不安に感じておられることがほとんどです。

学齢期から就労までの課題を一気通貫でお話出来たことで、将来への見通しを持っていただく一助になったのではないかと思います。  

指導者向けの研修会が続きます

今月から来月にかけては、地方で指導者の方向けの研修会が続きます。 10月末には静岡県で放課後等デイサービスの方を対象とした研修(非公開)があります。

また11月7日には長野県諏訪市にて、教育・療育関係者・保護者向けにアナログゲーム療育を実践的にご紹介する勉強会を開催します(諏訪地域障害福祉自立支援協議会主催)。

後者は外部の方も参加可能です。ネットに情報が出ておりませんので、ご興味のある方はtmwires@gmail.comまでご連絡いただけたら詳細をご連絡いたします。申し込み締め切りは10月23日です。