数概念を身につける「雲の上のユニコーン」

数概念に遅れが見られるBくんのケース

前回の療育で、数概念の形成に課題があると思われた小学2年生Bくん。

今回は「雲の上のユニコーン」というゲームを使って、数概念の形成を促しました。

雲の上のユニコーン

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「雲の上のユニコーン」は、キラキラした宝石が子どもたちの興味を惹きつける人気のゲームで、この宝石をなるたけたくさん集めるのがプレイヤーたちの目的です。宝石を数える過程で楽しみながら数概念の獲得を促すことができます。

宝石をたくさん集めた人が勝ち

「雲の上のユニコーン」のルールを解説します。

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  • それぞれ1~3までのサイの目が刻まれた二つのサイコロがあります。
  • プレイヤーはまず水色のサイコロを振って出た目の数だけユニコーンを進めます。
  • 止まったコマがピンク色であれば、ピンクのサイコロを振り、出た目の数だけ宝石をもらえます。
  • 一番最初にゴールした人は宝石を4つもらうことができます。
  • 誰かがゴールしたらゲームは終了。宝石を一番多く集めた人が勝ちです。

Bくんの理解度をチェック

最初に、Bくんがどれくらい数の概念を理解しているかを調べるために、いくつか宝石を並べて数えさせてみました。

その結果、彼は2つまでであれば指で数えて正しく答えることができますが、3つ以上になると、数を数える指が飛んでしまい、正しくカウントすることが難しいことがわかりました。

そこで、私と、指導員の先生、Bくんの3人で「雲の上のユニコーン」を遊びながら、まずは1 ~3までの数の概念をしっかりと身につけてもらうことにしました。

Bくんがピンクのコマに止まったときは、箱に入った宝石を見せながら「いくつ取ったら良いかな?」と問いかけました。

最初は手当たり次第に宝石を取っていたBくんですが、私が「今でたサイコロの目はいくつ?」と問いかけ、Bくんが「2つ」答えるなど、その都度確認をしながらサイコロを取らせていくうち、やがて私の指示がなくとも、サイコロの目と同じ数だけの宝石を取れるようになりました。

「量の保存」の概念は形成されているか

このゲームを通じて、もう一つチェックしておきたかったのはBくんが「量の概念」をどれくらい身につけているか、ということです。

ゲームの中盤、宝石の獲得数が私が5つ、指導員さんが5つ、Bくんが7つとなったときに、「今一番たくさん宝石を持っているの誰?」と聞きました。Bくんは指導員さんを指差しました。

なぜBくんは間違ってしまったのでしょうか?

そのことを確かめるため、いったんゲームを中断して、子どもの認知能力を研究した心理学者ピアジェが行った、ある有名な検査を行いました。

雲の上のユニコーン

 

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Bくんに、上の写真のように「広い間隔で並べた5つの宝石」「狭い間隔で並べた6つの宝石」を2列に並べて提示し、「どちらの宝石が多い?」と聞きました。するとBくんは上段の5つの宝石の列を差しました。

実は、Bくんのように量の概念が充分発達していないお子さんの場合、みな同じ間違いをすることがピアジェの研究によって明らかになっています。

量の概念が充分発達していないお子さんの特徴として、「実際の数よりも見た目が優先する」ということがあります。上の実験では、子どもは宝石の数ではなく、並んでいるの列の長短を見て、長い方が多いと判断してしまうのです。

先のゲーム中、指導員さんの宝石が5つ、Bくんの宝石が7つであるにも関わらず、彼が指導員さんの宝石が一番多いと指差したのも、その直前に「指導員さんが3つの宝石を獲得した」という映像的なイメージが、実際の宝石の数よりも優先された可能性が高いと考えられます。

量の概念の形成を促す

ピアジェによれば、子どもが見た目に惑わされず、実数で正確に判断できるようになるのは7歳以降であるとされています。

Bくんはちょうど7歳ですから、上の実験で間違えてもそれほど心配する必要はないのですが、やがては正確に量を把握できるよう、療育を進めていきたいところです。

この点、「雲の上のユニコーン」は量の概念を身につけてもらう上で優れた教材です。ゲームが終わったあとで盤面をひっくり返すと、各プレイヤーごとに得た宝石を並べて順位を比較できるようになっているからです。

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このようにグラフ形式で提示すると、Bくんも誰が一番だったのかを理解することができます。こうして自分の順位を分かりやすく見せることで、少しずつ量概念の形成を促していくことができるのです。

「ありがとう」「どういたしまして」の練習もできる

「雲の上のユニコーン」はもう一つ特徴があります。「他の人にものをあげる」「受け取ったらお礼を言う」という練習ができるのです。

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写真のプレゼントマークのコマに止まったとき、サイコロを振った数だけ、他の人に宝石をあげげます。

このルールがあることでゲーム中で誰かに宝石をあげたり、受け取ったりする機会を作り出すことができるため、「宝石をもらった時は『ありがとう』と言う」または「『ありがとう』といわれたら『どういたしまして』と言う」といった、物のやりとりに関わる初歩的なソーシャルスキルトレーニングが行うことができます。

認知能力を踏まえたコミュニケーション療育を

Bくんの場合、「ありがとう」「どういたしまして」というコミュニケーションはとても上手にできました。そればかりか、「さっきこっちの人に宝石をあげたから、今度はこっちの人にあげる」といった具合に他者への平等さをも意識して振る舞うことができました。

このようにコミュニケーション面ではとても高い能力を見せるBくんですが、そんな彼にも前回の記事で示したように「順番が守れない」というコミュニケーション上の課題があります。その背景には数概念の形成の遅れがあり、いつ自分の順番が回ってくるのか把握するのが難しいという理由があります。

このように認知能力とコミュニケーション能力には密接な関わりがあります。従って、コミュニケーション上の課題を解決するためには、その背景にある認知能力をも意識して療育することが極めて重要なのです。

「発達ナビ」での連載が始まります

発達の気になるお子さん向けのポータルサイト「発達ナビ」

発達が気になる子どもの親向けポータルサイト「発達ナビ」(運営:株式会社LITALICO)に、記事を掲載します。

初回は、「ルールの理解」を促すための、「スティッキー」というゲームを紹介しています。

【お家で療育】ルール理解に最適!アナログゲームのススメ[2~6歳向け]

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 今後、お子さんのコミュニケーション能力の成長を促すアナログゲーム紹介を始め、発達障害関連の記事を週1ペースで発信します。

発達障害のある子を育てる親御さん向けに、専門的な知識がなくてもわかる読みやすい内容にしたいと思いますのでご期待ください。

本ブログについて

発達ナビ掲載開始に伴い、当サイトに掲載する記事は、発達障害の支援者・事業者向けに、療育や制度に関する踏み込んだ内容にしていきたいと思います。

こちらもも引き続きよろしくお願いします。

 

【発達障害当事者向け】2/17えじそんくらぶでイベント

「成人ADHD等の理解と対応」 2/14東京・池袋にて

ADHDのある人の支援を行っているNPO法人「えじそんくらぶ」さんの連続講座「成人ADHD等の理解と対応」の第二回に、特別講師として登壇させていただきます。

2月17日(木)の19:00~21:30まで。会場は東京藝術劇場(最寄り駅:JR池袋駅)です。対象は発達障害のある当事者の方や支援者の方です。

テーマは「コミュニケーションスキル ゲームを使って社会性を高めよう」

実際にいくつかのアナログゲームをプレイしていただきながら、自分のコミュニケーションの特性や、適切なスキルの使い方を身につけていただきたいと思います。

好評だった講座の第2回です

前回の講座が大変好評をいただき、再びお招きいただけることになりました。

講座のタイトルにはADHDとありますが、テーマの一つがコミュニケーションですので、ASDの方にもオススメです。

事前の申し込みが必要となります。詳しくはえじそんくらぶウェブサイトか、こちらのチラシを御覧ください(PDF)。

みなさんのご参加をお待ちしています!

認知発達に基づいた療育②集団参加の準備

「集団参加」に繋がる療育

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前回は、Aさんという女の子の例を参考にルール理解やコミュニケーションの前提となる「シンボル機能」の形成を目指した療育をご紹介しました。

今回の主役は、写真の奥側でゲームの説明を興味深そうに聞いている、小学2年生のB君です。

Bくんはこれまで、何度か私の療育を受けています。シンボル機能は形成されており、ゲームのルールを理解できます。ゲームに対する取り組みはとても意欲的で、私が訪れるたび、「あっ、アナログ先生だ!今日はどんなゲームやるの!?」と元気よく聞いてくれます。

他方で、B君は、衝動的なところがあり、しばしばゲームに勝とうとしてルールを破ってしまったり、早くプレイしたいあまり他の子の順番を飛ばしてしまいがちなことが課題です。

実際に、写真の「スティッキー」をプレイさせてみたところ、1本ずつ棒を抜くべきところ2本抜いてしまったり、気持ちが先走りすぎて順番をとばす場面が頻繁に見られました。

この状態で、同年代の友達と遊ぼうとすると、トラブルが頻発することが予想されます。そこで、まずは1対1で「ルールを従って遊ぶ」ことを目標に、集団参加に繋げる療育を行うことにしました。

ルールを守って遊ぶ

B君に遊んでもらったのは「ドラゴン・ディエゴ」です。玉を弾き、予めカードで指定されたゴールに入ると得点になります。本来は複数人で遊ぶゲームですが、今回はルールを簡略化し、B君一人で遊んでもらいました。

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B君は得点を取りたいあまり、ボールを所定の位置から、ゴールの近くまで持っていき、そこから入れようとします。これはルール違反なので、その都度「今のだと得点にならないよ。」といって、私がボールを元の位置に戻してやり直しさせます。

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赤いボールをつまんでゴール手前まで持って行ってしまうB君。その度にボールを定位置に戻してやり直してもらう。

何度か繰り返すうち、写真のように定位置からボールを弾けるようになりました。こうしたきめ細かい指導はマンツーマンだからこそ可能です。

「数の蓄積」概念は獲得できているか

ルールを守って遊べるようになったBくん。弾いたボールが入ると「やったー!!!見てみて!!」と他の指導員を巻き込んで喜びを表現し、失敗すると「うわぁーん、入らないー!」と机に突っ伏して悔しがります。

一つ一つのプレイに一喜一憂するBくんの様子を見て、私はふと疑問がわきました。「Bくんは『得点』という概念を理解しているのだろうか?」と。

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改めて、上の写真の赤い丸で囲った部分をみてください。箱のフチに刻まれためもりと、そこにくっついている黄色いドラゴンのコマがあります。狙ったゴールに玉が入るたび、ドラゴンが一めもり前に進みます。つまりこのドラゴンはこれまでに獲得した得点を表しています。

ルールの説明が前後してしまいましたが、プレイに先立ち私はB君に「玉が入るたびにドラゴンが一歩進みます。このドラゴンが箱の周りを一周したらゴールだよ」と伝えていました。

しかし、Bくんは、自分の弾いた玉が狙ったところに入ったかどうかだけを気にしており、成功するたびにドラゴンが一歩ずつ進み、ゴールに近づいていくことにはほとんど興味を示しません。私が「ドラゴンが半分まで来たよ!」とか「もうすぐでゴールだよ!」と話してもキョトンとして、それから「いいから早くやろうよ!」と次のプレイを急かします。

このことから、B君は、その場の一つ一つのプレイの成功/失敗は理解できても、「成功するごとに得点が蓄積されていき、やがてゴールを迎える」というルールは理解できていない可能性が高いことが伺われました。このことは、より一般的には「数の蓄積」という概念がまだ充分形成されていないことを示唆していると考えられました。

 

順番の理解に数概念の形成が関わっている?

B君に「数の蓄積」の概念が充分形成されていないことは、彼がしばしば順番を飛ばしてしまうことにも関連すると思われました。

というのも、「得点が蓄積していきやがてゴールを迎える」という事の理解と、「他のプレイヤーが全員プレイした後に自分の番が回ってくる」ということの順番の理解は、どちらも「数の蓄積」の理解を要すると考えられたからです。

例えば、4人でゲームをすることを考えてみましょう。今B君がプレイしたとして、次に順番がまわってくるのは、残り3人がプレイした後です。しかし、Bくんが数の蓄積を理解できていないとしたら、彼はあとどれくらい待てば自分の順番が回ってくるか見通しがたてられません。

順番を飛ばしてしまうことは、一つにはBくんの衝動性もあるでしょうが、「数の蓄積」概念の形成が充分でないことも、理由の一つとなっていると思われました。

今回の療育で、B君の認知発達段階を一歩深く理解することができました。次回の療育では、数をかぞえたり、大小を比較するようなゲームを通じて、Bくんの「数の蓄積」概念の形成を促すことが目標になるでしょう。

Bくんに「数の蓄積」概念がしっかり形成されれば、集団遊びにおいてもあとどれくらいで自分の順番になるか見通しが立つようになり、順番を飛ばすことは減ってくると予想されます。

認知発達に着目することで新しいアプローチが見えてくる

Bくんがみせる「ルールを破ってしまう」「順番を守れない」といった行動は、学校などではADHDの症状の一つである衝動性のあらわれとして解釈されることが多いと思います。

そこ導き出される手立てとしては、ルールや順番が守れたら褒めるといったABA的方法や、焦る気持ちを自覚させコントロールする練習などが考えられます。それでも改善が見られないなら、投薬も選択肢に入ってくるでしょう。

しかし、今回療育にアナログゲームを導入したことで、B君の障害特性だけでなく、認知能力にもスポットがあたり、その結果、「順番を理解させるために数概念の形成を促す」という、新しいアプローチを見出すことができました。

このことからもわかるように、アナログゲームには、お子さんの認知能力上の課題を療育者に気づかせてくれるアセスメントツールとしての機能も持っているのです。

認知発達に基づいた療育①シンボル機能の芽生えの段階

認知発達段階を踏まえた療育とは

前回の記事では、認知発達のキー概念である「シンボル機能」について説明しました。

改めて説明すると、シンボルとは、ある具体的な事象を、別の事象で代表したもので、たとえば「トラ」「りんご」などといった名前や、「動物」「果物」などといった種類、あるいはゲームのルールなどもシンボルに含まれます。

これらのシンボルは、直接眼に見えないけれども物事を分類したり理解するのに必要で、私達はこうしたシンボルの自在に操ることで、複雑な物事を考えることが出来るようになります。

シンボル機能の芽生えは、健常児では2歳前後となりますが、発達障害や知的障害のあるお子さんの場合は、それよりも遅れることがあります。

従って、これらの障害を持つお子さんを療育するときは、シンボル機能を持っているかどうかなど、認知発達段階を正しく見極める必要があります。

認知能力が療育とどのように関係してくるか、私が週1で指導を行っている放課後等デイサービス「オルオルハウス」での実践を通じて解説していきましょう。

今回は、まだシンボル機能をきちんと獲得していない、発達段階の初期にあたるお子さんの事例を紹介します。

(なお、下記で紹介する写真は全て、事業所様の了解を得た上で掲載しています。)

説明を聞かずに絵本を読んでしまうAさん

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上の写真は、小学校低学年の二人に、スティッキーの説明をしているところです。奥側の男の子は私の説明を興味深そうに聞いていますが、手前の女の子は絵本に集中して私の話を聞いていません。

この絵本を読んでいる女の子が今回の主役です。仮にAさんとしましょう。彼女とは、この日が初対面でした。Aさんには知的な遅れを伴うダウン症があり、普段は特別支援学校に通っています。

絵本に集中しているAさんですが、私は彼女に自分の話をきくよう注意しませんでした。なぜなら、彼女はゲームという言葉の意味やルールを理解するのに必要なシンボル機能が形成されていない可能性が高かったからです。

なぜそう考えたか。これより少し前に、私が「これからゲームを始めるよ!集まってください」と声をかけたとき、Aさんが絵本を持ってきて私に差し出す、という出来事があったからです。

私がゲームを始めると言ったのに、Aさんは絵本を持ってきた。この事から、私は「彼女はゲームという言葉の意味を理解していない。ということは、シンボル機能をまだ獲得していないのではないか」と推測しました。

そこで普段から彼女と接しているスタッフさんに「彼女は普段どんな言葉を発しますか?」と確認すると、「かろうじて、自分の好きな桃の絵を指して『もも』と言うくらいです」との答えでした。

このことから私はAさんがまだ、物に名前があることを理解し始めたばかりであること、言い換えればシンボル機能が芽生え始めたばかりの段階であることを理解しました。

それならば「ゲーム」という抽象的な単語の意味がわからなかったのも理解できますし、ましてやゲームのルール説明が難しく、興味を示さなかったのは当然です。

このあと、試しに一度だけスティッキーをプレイしてもらいましたが、予想したとおりAさんは興味がなく、プレイに参加しようとしませんでした。

マンツーマンで認知能力の形成を促す

こうしたAさんの様子を見て、私はマンツーマンの指導に切り替えることにしました。そして、シンボル機能の基礎を固めるために「物と名前の関連付け」や「同じものと異なるものの区別」が確実にできるようになることを療育の目標としました。

先ほど、Aさんが私に絵本を持ってきたことがヒントになりました。彼女の場合、言葉よりも、色や形といったビジュアル的な要素に興味を感じやすいのではと考えたのです。

そこで、私は可愛らしいクマの絵が描かれた「テディ・メモリー」を彼女に提示してみました。

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このゲームには可愛らしいクマの絵が2枚1組で描かれており、普通は神経衰弱と同じルールで遊びます。しかし、ルールの理解が難しいと思われるAさんには、神経衰弱ではなく、箱に入ったカードのなかから、同じ絵同士を探しだしてもらう形で取り組んでもらいました。

先ほどの興味のなさそうな様子とはうってかわって、キラキラした目でクマのカードを手に取るAさん。私が「同じカードはどれかな?」と言葉をかけると、カード同士を並べ、また関係ないカードは放り投げるなど、弁別する作業を楽しそうに進めていきました。

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同じカードを揃え、関係ないカードは勢い良く放りなげていくAさん。遊びとも勉強とも区別のつかない、療育の最初期の段階だ。

Aさんのような認知発達段階にあるお子さんは、「物に名前のあることが理解できる」、「同じものと違うもの区別できる」などといったシンボル機能が少しずつ形成されているところです。

そこで、私はAさんがカードを分類していく過程で、「このクマは二つともはちみつを持っているね」とか「こっちのクマは靴を履いているけど、こっちのは靴を履いてないね」と入った風に、それぞれのクマの特徴を言葉に表して、物と名前の関係や、同じものと異なるものの区別が、彼女に理解されるように促していきました。

このような療育を繰り返すことで、シンボル機能がお子さんの中でしっかり確立していきます。この次のステップは、「大小の比較」や、「物と使い途の関係」などになります。それができるようになると、今度はゲームのルールのような、より複雑な概念も理解できるようになってくるのです。

認知発達段階の理解は療育の必須条件

発達障害・知的障害のあるお子さんを療育する上で、その子の認知発達段階を正しく理解することは、障害特性の理解と同じかそれ以上に重要だと、私は考えています。

その理由の一つは、認知発達段階を理解しないと、お子さんが見せる行動の理由が解釈できないからです。

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認知発達段階を知らないと、たとえば、上の写真で私が説明している最中に本を読んでいるAさんの態度をみて「先生が説明しているのに、ちゃんと話を聞いていない。やる気が無いんじゃないか」などと誤解してしまいがちです。

しかし、後に提示した「テディ・メモリー」に意欲的に取り組んだことからわかるように、Aさんは積極的に学ぶ意志(この段階では遊びに対する興味とほとんど同じ)を持っているのです。

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発達段階にあわせた課題があれば、子どもは楽しんで療育に取り組んでくれる。

Aさんのケースで明らかなように、その子の認知発達段階に合った課題を用意すれば、お子さんは楽しんで療育に取り組んでくれます。

仮にその子の認知発達段階を超えるような課題を提示したら、お子さんは取り組みを拒否したり、離席したり、暴言を言うなどの問題行動が頻繁に起き、療育は成立しないでしょう。理解できない課題を無理やりやらされているのだから当然です。

このことからもわかるように、お子さんの認知能力を見極められることと、そこに合わせた課題を用意できることは、療育が成立するための必須条件なのです

認知発達のキー概念「シンボル機能」とは

認知能力とは

認知能力とは、人間がどのように物事をどのように受け取り、理解するかを示す能力のことです。

認知能力は子どもから大人になる過程で段階的に発達していきます。ところが、知的障害や発達障害のあるお子さんは、この認知能力の発達が遅れていることがあり、そのことは、コミュニケーションや身辺自立、学習など、生活全般に影響を与えます。

アナログゲーム療育の大きな目的の一つは、お子さんの認知能力の発達を促すことにあります。認知発達段階の引き上げが、アナログゲーム療育の究極の目標であるコミュニケーション能力の向上を目指す上で重要になるからです。

これから数回にわたって、アナログゲームを使って認知能力をどう発達させていくか、説明していきます。

今回はその前段階として、認知発達のキー概念である「シンボル機能」について説明します。

認知発達のキー概念「シンボル機能」

シンボルとは、ある具体的な事象を、別のもので代表したもので、シンボル機能はシンボルを使いこなす機能のことを指します。シンボルの代表例が、「名前」です。

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この二つの画像をみてください。どちらも「トラ」であることはすぐにわかるでしょう。しかし、左側のトラは、四本足で歩いています。右側のトラは二本足で立っており、手に葉っぱを持っています。そもそも、実写とイラストですから、質感や色味が全然違います。

こうもかけ離れた特徴を持つ二つの映像をみて、なぜ私たちは同じ「トラ」であると認識できるのでしょうか。よくよく考えてみると不思議ではありませんか。

実は、私達人間は、こうした異なるものを「トラ」という名前で呼ぶことで、同一であると認識しています。この「トラ」という名前が、シンボルにあたります。

子どもがシンボル機能を獲得し、物に名前があることを認識するのは、2歳前後であり、これは言葉を発し始める時期と重なっています。

ここからもう少し成長すると、例えば、色や物理的形状が全く異なるトラとカモメが、どちらも「動物」というカテゴリに属することも、理解されるようになってきます。

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「動物」もまたシンボルの一種です。「動物」という名前の生き物はこの世に存在しません。しかし、私たちはトラやカモメやその他の生き物を「動物」という”架空の入れ物(シンボル)”に入れて整理しています。

それによって、あるシンボルと別のシンボルを組み合わせて、例えば「動物と植物の違いはなにか」といったふうな、高次の思考を展開できるようになるのです。

ゲームの「ルール」もシンボルの一種

ゲームについてはどうでしょうか。ゲームを構成する要素である「ルール」もまた、シンボルの一種です。プレイヤーたちは目にみえないシンボルである「ルール」を共有しあうことで、ゲームを楽しむことができます

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たとえば、以前ご紹介した「スティッキー」は、シンボル機能が芽生えていない2歳以下のお子さんにとっては、「三色の棒をリングで束ねただけの物体」にすぎません。

ゲームの参加者たちが、この物体に「一本ずつ順番に棒を抜いていく。タワーが倒れたら負け」というルールが当てはめることで、初めてゲームとして成立するのです。

このことからもわかるように、ゲームをルールを理解するにはお子さんにシンボル機能が形成されていることが最低条件になります。加えて、シンボル機能はコミュニケーションの重要な条件でもあります。

次回以降、このシンボル機能がアナログゲーム療育の中でどう関係してくるのか、各発達段階ごとに説明していきます。