発達ナビの寄稿【5~6月】

発達ナビ 寄稿中!

発達障害のポータルサイト、「発達ナビ」に、月2回程度のペースで寄稿しています。主に発達障害のある子を育てる親御さんを対象に、普段の関わりの中で活かせるワンポイントテクニックなどを紹介しています。

ここ最近の投稿をご紹介しましょう。

1.子ども本人への障害告知には「避けたいタイミング」があります

サイトの方針もあり、やや刺激的なタイトルですが、お子さんにいつ障害告知するかについて、発達段階や就職との関連を含めて解説しています。

 

2.「同世代の友だちがいない」そんな時期に大人がサポートできる事

発達障害のあるお子さんで、大人との関係は良くても子ども同士のヨコの繋がりを作るのが苦手な場合が少なくありません。ヨコの関係づくりが将来の自立を考えるで大切な理由を解説するとともに、関係づくりのための方法もご紹介しています。

 

3.ハーネスが使えない時、外出時の安全確保に役立つテクニックとは?

外出時の安全確保のためにハーネスや手つなぎは大切ですが、年齢が高くなるとこれらの手段も使えなくなってきます。そのときに使える「目線のコントロール」というテクニックをご紹介しています。

 

 

合理的配慮の義務化で何が変わるのか

4月から合理的配慮が義務化

この4月に、発達障害のある人とその家族にとって見逃すことのできない、大きな変化があります。

「障害者差別解消法」が試行され、公的機関において、障害のある人に対する「合理的配慮」が義務化されるのです。

「合理的配慮」については、発達障害のポータルサイト「LITALICO発達ナビ」に大変わかりやすくまとまった解説が載っています。

合理的配慮とは?考え方と具体例、障害者・事業者の権利・義務関係、合意形成プロセスについて

上の記事から言葉を借りると、「合理的配慮」とは、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のことを意味します。

典型例として、読み書き困難な人が音声端末やタブレットを使って学習できるようにしたり、車いすなど移動が困難な人にスロープやエレベーターを設置するといったことが「合理的配慮」にあたります。

4月から、障害のある人にこうした配慮を行うことが、学校を含む公的機関で義務化されるのです。

何からなにまで配慮してくれるわけではない

合理的配慮が義務化されることで、発達障害のあるお子さんやその親御さんにとって、何が変わるのでしょうか。

一つ言えるのは、合理的配慮が義務化されたとしても、求めた配慮がすべて実現するわけではない、ということです。

というのも、合理的配慮の考え方として、配慮するにあたり予算や人員の点であまりにも大きな負担がかかる場合や、配慮を提供することで他の人たちが不利益を被るような場合などは、合理的とはいえないと判断されるためです。

先にご紹介した「発達ナビ」で、インクルーシブ教育研究者の野口あきなさんがこのあたりのことを詳しく解説されています。

4月からはじまる合理的配慮の義務化。学校と連携するコツは?

紹介した二つの記事で、いずれも強調されているのは「合意形成」の必要です。合理的配慮を受けるためには、まず障害のある本人やその保護者から、学校に向けて必要とする配慮を提案します。その提案について学校側と話し合い、両者の間に合意が形成されて初めて、配慮が実施されるのです。

つまり、ただ待っているだけで望ましい配慮がなされるわけではありませんし、配慮を求めたからといって、学校が常にすべての要求を実現してくれるわけでもありません。

何が変わるのか?

こう書くと、「それなら今までと同じで、法律が変わったところで現実は何も変わないのでは?」と疑問に思われる方もいるかもしれません。

しかし、合理的配慮の問題を教育だけでなく、政治や法律の枠組みにおいて扱えるようになる点は、大変重要だと考えています。

仮に、読み書きが苦手な学習障害のお子さんに、学校が何ら配慮をせず、その子が授業についていけない状況があったとしましょう。親御さんがタブレット利用や支援員の配置などの合理的配慮を学校に求めたが「予算がない」とのことで応じてもらえない。さらには学校を監督する立場の教育委員会にも連絡したが動いてくれない、という状況だったとします。

従来なら、保護者の立場でこれだけやって学校側が動いてくれないとなれば、泣き寝入りするか別の地域に転校するしかなかったように思います。

しかし、法律で合理的配慮が義務化されれば、学校が障害のある子に配慮をしないことは、教育だけでなく、政治や法律の問題としても扱われることになります。

合理的配慮の法的根拠ができたことで、保護者の立場からは

  • 地域の議員に陳情して議会で取り上げてもらう
  • 弁護士に相談して訴訟を起こす

といったふうに、議員や弁護士といった第三者を巻き込んで合理的配慮を訴えやすくなるのではないかと考えています。

もちろん議員を動かすのも弁護士をつけて訴訟するのも、いざ実行するとなれば大きなエネルギーを求められますから、こうした手段に訴えることが常に良いことだとは思いません。

しかし、合理的配慮を学校と話し合う上で、「議員」や「弁護士」といった第3のプレイヤーを意識しながら合意形成に臨めるようになることは、お子さんが望ましい配慮を受ける上で大きな強みになると考えます。

「合意形成」の時代に求められる療育とは

さて、合理的配慮を受けるために必要な合意形成は、学齢期のうちは主として保護者が担います。しかし就職してからは(知的障害を伴う場合などを除けば)その役割を本人が担うことになると考えられます。

療育のゴールをお子さんの将来の自立に設定するなら、本人が合理的配慮を受けるために必要な合意形成能力を身につけることは、大変重要な療育課題となります。

自分の要求を一方的に主張するだけでは、合意形成はできません。相手にどれくらいの力があり、自分の要求にどこまで応えてくれそうか推し量ることができなくてはなりません。

ここは発達障害の中でも特にASDのある人が苦手とする部分で、こうした困難をどう乗り越えていくかは、まだ充分研究されていないテーマであるといえます。

そこで、アナログゲム療育でこうした合意形成能力を高めることができないかと考えています。具体的には「交渉する」「協力する」といった、合意形成の要素が含まれるゲームを用いて、適切な相手に適切な条件を提示できるようになるトレーニングを行うのです。

実際にこうしたトレーニングを経て、お子さんに望ましい変化が生まれています。その様子は、今後のブログでまたお伝えしたいと思います。

 

発達障害のある子の将来への見通しをどう立てるか

講演会「発達障害を持つ子どもの将来に向けた準備」を開催しました

去る2月28日、いつもアナログゲーム療育で伺っている東京青梅市の放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」にて、

「発達障害を持つ子どもの将来に向けた準備~就労に向けて今からできること~」

と題した講演会を開催しました。

療育講演会チラシ1

タイトルからもわかるとおり、いつもやっているアナログゲーム療育のご紹介ではありません。かつて発達障害のある大人の方の就労支援に関わった経験から、発達障害者就労の制度と現状を解説した上で、子どものうちからできることをお伝えしました。

お子さんの将来への見通しをもってほしい

この講演会の目的は、発達障害のある子を育てる親御さんに、お子さんの将来についての見通しを持ってもらうことにありました。

特に、知的な遅れがない、もしくは遅れが軽度のお子さんを育てている親御さんの場合、お子さんの将来の道筋が見えないことに、強い不安を持たれていることが多いからです。

というのも、こうした子どもたちは通常級で健常児の中で過ごしていたり、また特別支援級の中では他の障害児より勉強ができてしまう、いわば中途半端な立ち位置にいるため、周囲の子どもたちの進路が参考にならず、将来の見通しを得るための情報が不足しているからです。

もちろんお子さん一人ひとり目指すべき将来は違いますし、そもそもお子さんの将来はお子さんが自分の意志で決めるものです。

しかし、親御さんにとってもお子さんが将来の見通しが立たなければ、子育ての方針も立ちにくいはずです。

たとえば今盛んに議論がなされている「早期発見・早期療育」の是非についても、お子さんが将来どんな社会で生きていくのかある程度イメージが掴めていないと、どれだけ考えても結論は出ないのではないでしょうか。

発達障害者就職の現状を解説

そこで今回の講演では、社会的自立の一つのゴールとして、就職についてお話することにしました。

発達障害のある人の就職について、主に下記の3つの道筋があることを解説しました。

  • 福祉的就職(福祉作業所等)
  • 一般企業の障害者枠への就職
  • 通常の就職

この中で、発達障害のある人の利用が進んでいる障害者枠での就職について、詳しく解説しました。

障害特性にあわせて仕事内容を調整してもらえたり必要な配慮が得られるといったメリットがある一方、給与が低かったりキャリアアップが難しいといったデメリットがあることも、隠さずお伝えしました。

その上で、就職で必要になる力として「コミュニケーション力」「自己理解」の二つを挙げ、これらを身につけるためには、幼少期から安心できる環境で人との関わる機会をたくさん持つことが必要なことを強調しました。

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「先のことがわかってよかった」

参加者の中にはまだ小学生のお子さんを育てている親御さんも多く、そうした方たちに、取得年収や非正規雇用の問題にまで踏み込んだ私の話がどこまで響くかわからないところもありました。

しかし、終了後にある親御さんが「先のことがわかってよかった。いつかきっと松本先生の言われたことを思い出すことがあるはずです」とおっしゃってくださり、親御さんにお子さんの将来への見通しをもってもらうという目的が、ある程度達成されたのかな、と思いました。

この「将来の見通しを得る」就労のお話、アナログゲーム療育のご紹介と並んで、引き続き、講演を通じてお伝えしていこうと思います。

ご興味のある方はtmwires@gmail.comまでご連絡ください。

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とはいえ最後はゲーム体験も。大いに盛り上がりました。

 

 

【2月】発達ナビ掲載記事のまとめ

発達障害のポータルサイト「LITALICO発達ナビ」

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

1月に立ち上がった発達障害のある人のためのポータルサイト「LITALICO発達ナビ」。日々日々大量のQ&Aとコラムが掲載されており、発達障害に関わる人にとって早くも欠かせない情報源になった感があります。

私も、これまで4本の記事を執筆させていただきました。

以下、発達ナビで掲載した記事を、簡単な解説とともにご紹介します。

 

ルール理解に最適!アナログゲームのススメ[2~6歳向け]

幼児から大人まで幅広く遊べる定番中の定番ゲーム、「スティッキー」の紹介です。お子さんのコミュニケーション力形成のためにゲームが果たす役割についても解説しています。

 

かんしゃくの原因、見落としてない?

ゲームに負けた時にお子さんがかんしゃくを起してしまうことについて、原因と対策をまとめました。かんしゃくで困っている方は多いらしく、1万view近い閲覧数を獲得しました。

 

ゲームで「他者への関心」を育もう

身の回りにあるカタログ的な物がなんでもゲームになってしまう「かたろーぐ」を紹介しました。他者理解を深めるのに適したゲームで、発達障害児への実践が新聞に取り上げられた経歴もあるゲームです。

 

自然な会話が生まれる!質問力が身につくカードゲームのすすめ

質問するという行動を繰り返し体験できる「わたしはだあれ」というゲームを紹介しました。ソーシャルスキルトレーニングの教材としてアナログゲームを用いた典型的な事例です。異年齢集団の関わりの重要性にも言及しました。

不安ベースの子育てから安心ベースの子育てへ

その子育て、間違っていませんか?

先日本屋に入ったとき、ある経済誌の教育特集の表紙が目に入り、ギョッとました。

「その子育て、間違っていませんか?」

という見出しがついています。さらにその下には

「科学でここまでわかった!悪い教育 良い教育」

という小見出しが。

「間違う」「悪い」といったネガティブワードを前面に押し出すことで、ことさらに子育ての不安を煽るその雑誌の見出しを見て、私は少なからず不快感を覚えました。

しかし、実際に雑誌を読んでみると、見出しから受けた印象とは裏腹に、むやみに不安を煽ることはなく、丁寧な取材の基づくバランスの取れた内容でした。

それだけに、かえって表紙の不安を煽るような見出しが気になります。おそらくこの雑誌の編集者は、ネガティブワードを連ねたほうが、子育てに不安を持つ親の注目を惹けると考えたのでしょう。

問題なのは雑誌自体より、むしろ普段から子育てに不安があり「間違う」「悪い」などのネガティブなキーワードに反応してしまう親御さんが多くいる、と思われている現状ではないでしょうか。

自己責任と自己決定を求める時代の変化が子育てへの不安を生む

私が相談にのっている発達障害のある子を育てる親御さんの中にも、子育てに不安を持つ方が多くいらっしゃいます。その理由は、お子さんの障害にあることも確かですが、それ以前に子育て自体に不安を感じている方が多いと感じており、そこに療育者・支援者としてどう向き合っていくかが、今私の中で大きなテーマになっています。

そんな中で、子育てにまつわる不安の向き合い方に大きなヒントを与えてくれたのが、首都大学東京教授で社会学者の宮台真司さんが書いた「最適という孤独を離れ、満足の共同性へ」という文章です。

この文章の中で宮台教授は、今の時代、人々が多くのことを自身の責任で判断せざるを得なくなった結果、不安に陥る人が増えていることを指摘します。

以下、リンク先の文章から引用します。

何もかも個人が自己責任で自己決定の機会を引き寄せる必要が出てきたという時代の変化が、「社会として」いいのか悪いのかは、考えなくてはならないことです。抽象的な水準で言えば、個々がバラバラに分断され孤立した状態になると、全てを自分でハンドリングしなければならないので、自分にとって「最適な選択」をしないと「損をする」「置いていかれる」などと不安に陥りがちになるので、社会が不安ベースになります。

 これだけ情報があふれた流動的な社会では、「最適な選択」なるものは単なる幻想に過ぎません。どんなに「最適な選択」をしたつもりでも、少し時間が経てば状況が変わり、「あれば間違いだったのではないか」「不適切だったのではないか」と思い返することになり、さらに不安に襲われます。こうして、安心ベースだった社会のあり方が、不安べースへと変化してしまうのです。

 

発達障害のある子を育てる親御さんの中にも、お子さんの療育について常に最適な環境を求めながら、宮台教授が指摘するように「あれは間違いだったのではないか」「不適切だったのではないか」と思い返して、不安に襲われている方が多くいると感じます。

宮台教授は、こうした不安から抜け出すには<最適化>原理に基づく考え方をやめ、<満足化>の原理へと切り替えていく必要があるとし、そのためには空洞化した共同体の復活が必要であると述べます。

経済学者は、利潤の最大化(投資効率の最適化)が人間の行動原則だとする仮説に立ちます。しかし、これは企業やファンドなどの資本の動きについて妥当するものの、実は僕たち自身はそのように生きていません。「最適」でなくても、特に問題がなければ(そこそこ満足なら)前に進む。それが〈満足化〉の原理です。この原理は共同体の自明性ともにあります。

 

「自分で何もかもしなくては⋯」と過剰に思い込む人は、〈最適化〉原理に駆られがちになって不安や抑うつ感から逃れられなくなります。現にそういう人ばかりでしょう。だからこそ、自覚的に、ものごとの評価を〈満足化〉原理に引き戻すことが重要です。そのためには、自らを包摂する共同体、すなわち「出撃基地であり帰還場所であるようなホームベース」を築いていくことが不可欠です。そうすれば〈満足化〉に簡単に近づけます。

共同体とは何かという問いについて、宮台教授は転校を多く経験した自身の子ども時代の経験を挙げます。

僕は六つの小学校に通う転校生でしたが、僕自身けんかが弱くても、けんかの強い子と友だちになる力があったから、心配ありませんでした。逆に、友だちは、学級委員をつとめる僕といつも仲良くすることで、担任の先生の大目玉を食らう頻度が減りました。そう、「持ちつ持たれつ」です。

 けんかが弱ければ、強い子と友だちになればよく、勉強ができなければ、できる子と友たちになればよい。「持ちつ持たれつ」で共同体的に結合していけば、個人が万能である必要はない。人間関係の輪に入って分相応の役割を果たせればいいだけです。

そして、子どもがこうした共同体関係に結びついていることが、充実や幸せ、あるいは挫けない力に繋がると主張します。特に挫けない力は「レジリエンス」として昨今注目されているキーワードでもあります。

 「これさえすれば子供が幸せになる」「勝たないと置いていかれる」と考える時点で、〈感情の劣化〉を被っています。〈感情の劣化〉とは、他者や共同体に貢献する気持ちが働かないこと。つまり、損得勘定による〈自発性〉を超えた、内から涌く力としての〈内発性〉が生じないこと。

自分の最終目的を支える価値が、利他性や貢献性と結びつくものであることが、最も強い動機づけを与えるのです。この強い動機づけに基づく行為は、成功すれば、個人を超えた充実や幸せにつながり、失敗しても、挫けない力を与えます。また、失敗しても、動機が利他性ですから、自分の属する共同体から排除されず、包摂されます。

 

個人ベースから共同体ベースへの子育てへ

こうした宮台教授の意見を受けて、今私が感じているのは、<最適化>原理から<満足化>原理の切り替るために、個人ベースで展開されてきた子育てや教育を、共同体ベースへのそれとシフトさせていくことの必要です。

特に発達障害児の療育については、先にも述べたように、その子の障害ばかりを注目した結果、宮台教授が指摘する<最適化>原理の思考に陥って、療育をまるで株式投資のように考え、常に最適な選択をしたつもりで「あれば間違いだったのではないか」「不適切だったのではないか」と思い返して、さらに不安に襲われている親御さんや支援者が多いように感じています。

そうした不安から抜け出し、子どもたちに、「自らを包摂する共同体、すなわち『出撃基地であり帰還場所であるようなホームベース』」を提供すること。そして、子どもたちが共同体との結びつきを感じることで、利他性や貢献性に基づいた強い内発性を獲得させることこそ、今子育てや療育に最も求められていることなのではないかと考えます。

共同体を生み出す手段としてのアナログゲーム

当サイトでご紹介しているアナログゲーム療育もまたこうした問題意識に連なるものです。

アナログゲームではプレイヤーたちは一つのルールを守りあってプレイします。その過程で、プレイヤー同士に誰かがルールを理解していなければ別の人がそれを教え、プレイに不安を感じている人がいればアドバイスする関係性が生まれます。その意味で、ゲームという場は、共同体としての側面を持つのです

ゲームの共同体としての側面を強調し、そこに結びつこうとする子どもたちの間にうまれる関係性を生かして、コミュニケーション能力の引っ張り上げるのがアナログゲーム療育です。

その指導原理は、またの機会に詳しくご説明したいとおもいます。

発達障害という世界の「表」と「裏」

プライベートな相談を受けるときの困難

発達障害に関わる仕事をしていると、この障害について、プライベートな相談を受けることがあります。
自分の子どもが、あるいは親戚が、配偶者が、発達障害の症状にピッタリ当てはまる。ついては、どう対処したらよいか教えてほしい、という相談です。
 
親しい関係にある人が発達障害かもしれないと気付いた人からの相談に応えることには、独特の難しさがあります。
 
今回はこの難しさを紐解きつつ、初めてこの障害と向き合う事になった人が、発達障害の理解をどう深めていけばよいかを考えてみます。

マスメディアの情報には具体性がない

 人びとが発達障害に気付くきっかけは、テレビや雑誌、あるいはインターネットのニュースサイトといったマスメディアの情報であることが多いです。

不特定多数を対象としたこうしたマスメディアの情報には、障害の症状についての大まかな説明はあっても、問題解決に直接役立つほど具体的な情報は含まれていないことがほとんどです。
 
そこで、私のような発達障害者の支援を生業とする人間のところに、具体的な対処法について相談が来るわけです。ところが、それに対し私たち支援の専門家は
 
「ははあ、ADHDですか、ではこうしたら良いでしょう」
 
とか
 
「ふむふむ、それはASDのこだわりの症状ですね。ここに書いたとおりにやってごらんなさい」
 
といった風なわかりやすい「処方箋」を提示することができません。
 
というのも、発達障害者支援の専門性というのは、一人一人異なる本人の発達段階や障害特性と周辺の環境を見極め、そこに合わせた個別の対応を見出すことにあるからです。
 
当人固有の状況に応じた対応を見出すので、障害名だけ言われても、日々の対応に生かせるほどの具体案は導き出せないのです。専門家としては、当人の状況を把握するためのヒアリングが必要になります。

相談に期待されていることと、実際にできることのズレ

しかし、ここで、わかりやすい回答を求める相談者と、個別具体的な状況を把握したい専門家の間で、ディスコミュニケーションが起こりやすくなります。
 
相談者は
 
「◯◯な症状で困っているがどうしたら良いか」
「本人に障害のことを伝えたほうがよいか」
「医者に行ったほうがよいか」
「結局治るのか治らないのか」
 
といったあたりを、はっきりさせたいのですが、
 
 支援者としては、

「(相談者からみて)当人のどういう部分が発達障害なのか」
「それはその人の社会生活にどのような困難を及ぼしているか」
「当人はそのことをどう思っているか」
「相談者は当人にどうあってほしいとおもっているのか」
 
といったあたりをじっくり聞いていきたいですし、それを聞かないと上記の質問にも正しく答えられないのです。
 
相談をする人と相談を受けるの人のこうした行き違いが解消されないまま話が進んでしまうと、片や相談者は「具体的な回答を求めて専門家に相談したのに質問されるばかりでいつまでも答えが得られない」という不満が募りますし、片や専門家は知識のない相談者から性急な回答な求められてイラつくことになり、有意義な相談になりません。

発達障害の世界には「表」と「裏」がある

こうした行き違いを防ぐために、私は相談に入る前にまず「発達障害の世界には『表』と『裏』がある」という話をします。
 
「表」の世界というのは、発達障害に対する社会全体の理解と支援を勝ち取るためにわかりやすくデザインされた世界で、「発達障害のある人は周囲の適切な理解と支援によって充実した人生を送ることができる」というポジティブなメッセージが基調にあります。
 
他方、「裏」の世界というのは、障害当事者の一人ひとり異なる困難を具体的に解決するためにデザインされた世界で、「発達障害と一口に言っても個別性が極めて高く、それをどう理解し支援するかについては、一人一人異なるベストの形を、本人と周囲の人が一緒になって考え実践していくしかない」という現実的なメッセージが基調にあります。
 
「表」の世界は社会全体に向けた一般論の世界、「裏」の世界は当事者に向けた個別具体論の世界をそれぞれ宰領しています。
 
私は相談者に、発達障害の世界にはこの「表」と「裏」二つが存在することを伝えた上で、
 
「今あなたは発達障害の一般論としての『表』の世界を通じて私と繋がりましたが、ここからは具体的な問題解決に向けて『裏』の世界に踏み込む段階です。」

「『裏』の世界では、わかりやすい処方箋はありません。自分の頭で考えて実践しながら、独自のやり方を見出す段階です。私はあなたがたがその世界を歩むお手伝いをすることができます。手始めに、障害があるという相手の方について、詳しく聞かせていただけますか」
 
と持ちかけます。
そうすることで相談者との行き違いが起きることなく、個別具体的な相談にスムーズに移行できます。

専門家こそ、「表」と「裏」の役割を理解すべき

最後に苦言めいたことを。
 
社会全般、不特定多数を対象とした一般論を宰領する「表」の世界と、個別具体的なケースを宰領する「裏」の世界。この二つの世界にはそれぞれの役割があって、どちらも必要なものです。

しかし、発達障害者支援を生業としている人であってすら、そのことを理解できておらず、片方の世界を良しとして、もう片方の世界を低く見て、自ら視野を狭めている人が少なくありません。
 
たとえば、「表」の住人が発する「理解と支援を!」というわかりやすくてポジティブなメッセージは万人の賛同を得やすい一方、個々の問題を解決するだけの具体性には欠ける場合が多いです。そこが個別具体的な問題解決を旨とする「裏」の住人からすると「大衆に媚びへつらうばかりで実効性がない」と見えてしまいがちです。
 
他方、「裏」の世界の住人の、「当事者同士で一つ一つ考えて実行していこう」というメッセージは、その個別具体性の高さゆえ自分たちの仕事を一般化して広く世に訴えることができないため、「表」の世界の住人から「科学的でない」「方法として確立できていない」といった批判を受けがちです。
 
しかし、本当は同じ発達障害という分野で、一般論と個別具体論という異なる領域を扱っているだけなのです。

それなのに、片一方が正しくて片一方が間違っているかのような言説がしばしば聞かれるのは残念なことです。

発達障害のあるお子さんが通う放課後等デイサービスの選び方

増加する放課後等デイサービス

学校・家庭に次いで、発達障害のあるお子さんが過ごす第3の居場所として、最近その存在感を増しつつある「放課後等デイサービス」。今回は、その間違いない選び方についてお伝えします。

「放課後等デイサービス」は、障害のある小学生から高校生までのお子さんが放課後や長期休み中に通う場所です。費用の9割を行政が負担してくれるため、親御さんにかかる金銭的負担は1日900円程度で済むという、中々に恵まれた制度です。

事業所をどうやって見つけるか

まず、自分が住む地域にどんな放課後等デイサービスがあるのかを調べる必要があります。

学校の先生や教育相談所は、地域にどんな放課後等デイサービスがあるか、知らない場合が多いということです。放課後等デイサービスは「教育」ではなく「福祉」の管轄であり、しかも成立から日が浅い制度なので、教育関係者に情報が行き渡っていないことが多いのです。

確実に情報を持っているのは、在住している市区町村庁の子育て支援課、または福祉事務所です。まずはこちらに相談してみるのが良いでしょう。

もちろん、インターネットも有効です。自身が住む市区町村以外の放デイにも通うことができますから、「自身が住む+隣接する市区町村名」と「放課後等デイサービス」で検索をかけて、調べてみると良いでしょう。

しかし、各事業所の評判について、最も確度が高いのは親御さん同士の口コミだと思います。お住まいの地域で親の会などがあれば、入会して情報交換するのも有益です。

「お預かり」か「療育」か

さて、いくつかの事業所が候補に挙がったら、実際に見学や体験を行い、通う事業所を決定していきます。

その際覚えておいていただきたいことがあります。

大都市圏を中心に急速に増加しつつある放課後等デイサービスですが、その増加には大きくわけて二つのトレンド(流行)があります。

一つは「お預かり→療育」への流れ。

従来の放デイは、特定のカリキュラムなどを設けず、スタッフの見守りのもと、子どもが教室に備え付けてある遊具で自由に遊んだり、DVDをみたり、おやつを食べたりする形が自由でした。療育施設というより、学童に近い形です。

それが最近になり、「もっと専門的な療育をしてほしい」という親御さんの要望に応える形で、特色ある療育プログラムを打ち出す事業所が増えています。最近特に多いのは運動・スポーツ系で、他にコミュニケーション系(SSTなど)、パソコン、お絵かき、ものづくりなど、様々です。

二つ目は「知的な遅れのない子の利用増加」というトレンドです。

従来、放課後等デイサービスを利用するお子さんの多くは、特別支援学校または特別支援学級在籍し、知的障害を伴っていましたが最近になって、通常級在籍の知的な遅れのないお子さんも放デイを利用することが多くなってきました。

一番重要な「レベル感のすり合わせ」

放課後等デイサービスが、お預かりから療育重視となり、知的な遅れのない子の利用が増加する中、最も重視していただきたいことが「レベル感のすり合わせ」です。

具体的には、事業所に通ってきている子たちのレベルが、自分のお子さんのレベルとマッチしているかを見極める必要があります。

放課後等デイサービスの対象となるのは、知的な遅れのあるお子さんから平均より高い知能を持つお子さんまで。また年齢は小学生から高校生と極めて幅広いです。事業者側から見ると、これだけ幅広い発達段階のお子さんにオールレンジで対応できるプログラムを提供するのは至難の業です。

実際、多数の放デイが活動している都心部では、「高機能の子はこことここ、重めの子はこっち」といった感じで住み分けが進んでいます。提供するプログラムのレベルが違う事業所同士で、それぞれのレベルに合うお子さんを紹介しあうことまでなされているようです。

しかし、事業所によっては、開所直後だったりPRがうまく行っていないなどの理由で、お子さんの発達段階に対処するノウハウを持っていないにもかかわらず、利用を勧めてくることもあるかもしれません。その勧めにのってミスマッチな療育を受けさせてしまうと、療育効果が見込めなかったり、お子さんが孤立して苦しい思いをすることになりかねません。

そうならないよう、事前の見学で事業所が主なターゲットにしている利用者層をチェックする必要があります。

チェックの方法として、スタッフに

「利用している子どもの中で、特別支援学級・学校にいる子と、通常級にいる子の割合はどれくらいですか?」

「通っているお子さんの主な年齢層を教えてください」

と質問することは、その事業所のレベル感を把握する上で有益です。

自身のお子さんが特別支援学校に在籍しているのに事業所を利用するお子さんの多くは通常級に在籍していたり、高校生のお子さんを通わせたいが事業所を利用しているのは主に小学校低学年のお子さんであったりすることがあるかもしれません。

ただし、その事業所を利用しているお子さんの発達段階と、自分のお子さんの発達段階にズレがあるからといって、その事業所に通わせるのがよくないわけではありません。このようなときは、発達段階や年齢のズレにどんな対応をしてもらえるのか聞いてみるとよいでしょう。細やかな対応を提案できるようなら、力のある事業所だと言え、充分通わせる価値があるとおもいます。

いずれにしても、利用するなら、その事業所がお子さんの発達段階にあわせた関わりをしてくれる、という印象は得ておきたいところです。

指導員の力量は?

放デイのサービスの質を決定づけるのは、指導員の力量です。

しばしば指導員の資格や経歴を気にされる親御さんがいますが、あまり重要な要素ではありません。というのも、放デイの事業所の多くは設立から日が浅く、指導員は療育以外の分野からコンバートしてきている場合が多いからです。

たとえば、精神保健福祉士を持っているからといって、その人が「発達障害児療育の専門家」であるとは限りません。3ヶ月前まで成人の精神障害者の生活介護に関わっていた人かもしれないのです。

発達障害のあるお子さんと関わるスタッフの力量は、お子さんの発達段階に合わせた課題や遊びの引き出しをどれくらい多く持っているかで推し量ることができます。

そこを確かめるために、お子さんの発達段階や困り感を伝えた上で

「うちの子が取り組めそうな課題は、どんなものがありますか」

と聞いてみるのがよいでしょう。

お子さんのレベルにあった課題のアイデアや教材がスッと出てくれば、力のある療育者だといえると思います。

放課後等デイサービスを有効に活用するために

冒頭にも書きましたが、放課後等デイサービスは、学校と家庭に次ぐ、第3の居場所として、発達障害のあるお子さんに育ちに大きな影響をもつ場所です。

しかし、ここ数年で新規開所が相次ぎ、サービスの質が事業所によって玉石混交であるとの話も聞かれます。お子さんの健やかな育ちのために、間違いのない事業所を選んでいただきたいとおもいます。