幼児期のアナログゲーム選びのポイント

 幼児向けゲームのリストを制作!

アナログゲーム療育で用いている幼児向けゲームのリストをすごろくやさんにまとめていただきました。

このリストは、下記のような基準で選んでいます。

  • 幼児、または知的障害や自閉症を伴う小学校低学年のお子さんの認知・思考の発達段階に見合うもの
  • 上記の範囲内で、比較的幅広い発達段階のお子さんに適用できるもの

みなさんの指導・関わりの参考になれば幸いです。

幼児期のゲーム選びのポイント

幼児(または知的な遅れのある)お子さんが発達段階にあわせたゲームで遊ぶことで、言葉や数の理解を促したり、集団の中でルールを守って遊ぶことを学んでもらうことができます。

他方、幼児のお子さんの物の見方や考え方は、様々な点で大人と異なっています。この点を理解しておくことで、幼児のお子さんと楽しく遊び、療育としても成果を出しやすくなります。以下、ゲーム選びや関わり方のポイントを解説します。

見た目や音、感触で興味をひくゲームを

言葉や思考が発達途上にある幼児期のお子さんは、見た目や音、感触といった、感覚に訴えるゲームにより強い興味を感じます。これは、言葉のない2歳以前のお子さんや、知的障害を伴う自閉症をお持ちのお子さんについては特にあてはまります。

こうしたお子さんの場合、ゲームに誘ってもすぐには参加してくれない事が多いです。しかし、ゲームに使うボードや道具が立体的だったり、色鮮やかで触ってみたくなるようなゲームを選ぶと、興味を持って参加してくれる可能性が高くなります。

たとえば、上記リスト内の「マイファーストゲーム・フィッシング」は磁石で魚を釣る時の「パチン!」という音と感触が子どもたちの興味を強く惹きます。

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こちらのスティッキーもオススメです。

幅広い発達段階のお子さんたちを一つの集団で療育 「スティッキー」

まずはゲームを触らせてみる

5,6歳ともなれば言葉の扱いや思考も発達していますが、それでも大人に比べれば見た目や触感への興味がまだ強く残っています。

そのため、この年代の子どもたちは、大人がルールを説明しているときに、話を聞かずに目の前のコマやボードをいじくりまわしてしまうことがあります。

こういうときはルールを説明するより先に、ゲームのコマやボードに自由に触れる時間を2~3分取ってあげます。こうしてお子さんの感覚的な興味を充分満たしてあげた後でルール説明を始めれば、集中して聞くことができます。

戦略的思考はまだ難しい

幼児のお子さんは、ルールに従ってゲームをプレイすることはできますが、「AとB、どちらの選択がより勝利に近いか」といった風に、戦略的に考えてより望ましい選択を選ぶことが難しい場合が多いです。

そのため、幼児のお子さんに用いるゲームは、判断や選択の要素がなく、ルールに従って行動しているだけでよいものが中心です。

こうしたゲームは勝敗が運で決まってしまうため大人にとっては少々退屈に思えてしまいます。そのため、特に「ゲーム好き」な大人が幼児のお子さんと遊ぶ場合、戦略的なゲームばかりをチョイスしてしまう傾向があります。お子さんはルールに従うことはできるのでゲーム自体は成立するものの、戦略的な面白みは体験できていません。

こうしたことから、幼児のお子さんと遊ぶとき、大人は自分が選んだゲームがお子さんにとって難しくなりすぎないように注意する必要があります。

3月のすごろくやアナログゲーム療育講座は「幼児編」です。

毎月東京・高円寺にあるすごろくやさんで開催させていただいているアナログゲーム療育講座。

3月26日(日)は、「幼児編」として就学前のお子さんや知的な遅れや発達障害のある小学校低学年のお子さん向けに、上記で紹介した以外にもたくさんのゲームを紹介します。実際にゲームをプレイしながら学ぶことで、実践的なノウハウを身につけることができます。

講座の申込みは下記のリンクからどうぞ。毎回満席になっているので、お早目の申込みをオススメします。

3月26日(日) すごろくや アナログゲーム療育講座 幼児編

史上初!? TV電話で遠隔就労訓練

就労移行支援事業所「ぷろぼの高の原」にて、遠隔就労訓練を開始!

奈良で、障害のある人の就労訓練を行っている「ぷろぼの高の原事業所」様と提携し、TV電話を介して、アナログゲームを使った職業訓練を行うことになりました。

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史上初!?インターネット上のテレビ電話を介した遠隔職業訓練。複数のカメラで、ゲームの様子や利用者さんの表情もよく見えています。プレイしているのは他者への観察力が求められる「ケルトタイル」。

きっかけは、ぷろぼの高の原事業所の所長さんより「ぜひ職業訓練にアナログゲーム療育を取り入れたい!」という熱烈なご要望をいただいたことでした。しかし、私が住んでいるのは東京。奈良に定期的に伺うのは難しい・・・。そこで所長さんから「TV電話で遠隔で指導できないでしょうか?」とのアイデアをいただいたのですが、当初は正直にいって「できるのだろうか?」と半信半疑でした。

ところが実際やってみるとできたんです。上の写真からもわかるとおり、複数のカメラを用意することで各プレイヤーの手元の状況や、利用者さんの表情も伺うことができます。

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現場の様子。カメラの操作をしていただいているのもアシスタント役の利用者さんです。       ※写真の使用については、施設・利用者さん双方の了解をいただいています。

遠隔でもライブ感のある訓練は可能

アナログゲームをつかった訓練では、参加者一人一人の発する言葉や表情、考えている時間の長さなどから、その方がゲームを不安なく楽しめているか観察し、もし不安があるとしたらどのように言葉がけしていくか、常に考えていく必要があります。

こうした繊細なやりとりが遠隔操作で可能なのか、始めてみないとわからないところがありましたが、実際は現場にいるのに近い感覚で利用者さんの様子を観察して、言葉がけできることがわかりました。

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利用者さんが迷っているようなら「こちらとあちら、どちらを優先したほうがよいですか?」といった問いかけ、良いプレイが出た時は「相手をよくみていた素晴らしいプレイですね」といった言葉がけを行う。精密な観察が必要だが、遠隔操作でも充分可能であることがわかった。

 

利用者さんからは「楽しい!」という感想が

プレイ後、利用者のみなさんから「楽しい!」という感想が聞かれました。次回は参加予定でなかったのに「ぜひ参加したい」と積極的に申し出た利用者さんもいらっしゃり、初回の訓練は大成功に終わりました。

ぷろぼのさんでの訓練は隔週で行われ、今後は交渉するゲームや、お互い協力しあうゲームなどを使い、就労を意識したコミュニケーション訓練を行っていきます。

アナログゲームというツールを使うことで、このように、遠隔地とつながって訓練できるということは、就労支援、そして療育の可能性を多く拡げるものだと思っています。今後の実践を通じてノウハウを蓄積したいと思います。

ステージ2 シンボルのスムーズな操作を促す

ステージ2「前操作期」

今回は、アナログゲーム療育のステージ2を解説します。健常児のお子さんで、3~7歳に当たります。

この時期のお子さんはシンボル機能が確立することで、言葉が話せるようになるのを始め、数、そしてゲームに欠かせないルールの理解ができるようになっています。

この時期のことをピアジェは「前操作期」と呼んでいます。ここでいう操作、とはシンボル機能の操作を指します。「前操作期」とは、シンボルは形成されているものの、それらを自由に操れる手前の段階にある、という意味です。

「ごっこ遊び」が出てくる

ステージ2のお子さんは、シンボル機能が形成されることで、他のお子さんとシンボルを共有しあって集団で遊べるようになります。

おままごとであれば、「私はお母さん、あなたは赤ちゃん」といった風にお互いの役割を演じることができるようになります。このとき「お母さん」というシンボル、「赤ちゃん」というシンボルをお互いの間で共有できているからこそ、おままごとが成立するのです。

ゲームについても、ステージ2のお子さんは「ルール」というシンボルを共有することができるので、子ども同士で遊べるようになります。

シンボルのスムースな操作を促す

シンボル機能が形成されたことで遊びの幅が大きく拡がるステージ2のお子さんですが、限界もあります。

たとえば数の扱いです。おはじきを提示して「これはいくつ?」と聞いてみると、1つや2つなら答えられますが、5つや6つになると正しく答えられなくなってしまうことがあります。また、足し算、引き算はまだ難しいことが多いです。

そのためステージ2の目標は、シンボルをスムースに操作できるようになることです。

アナログゲームは「名前」「数」「色」「形」などたくさんのシンボルの集まりであり、それらをルールに従ってプレイすることが、シンボル操作の練習になります。

 

シンボル操作を練習するアナログゲーム

たとえば、以前ご紹介した「雲の上のユニコーン」は、お子さんの数概念の獲得を促すのに最適です。

数概念を身につける「雲の上のユニコーン」

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またステージ2のお子さんについて、数概念と並んでチェックしておきたいのが空間認知能力です。

空間認知能力は、物の大きさや向き、あるいは奥行きなどといったものを正確に把握できているかどうか、ということです。

この能力が特異的に遅れている場合、書字や図画・工作が極端な苦手さを示すことが多いです。また片付けが出来なかったり物をなくしてしまうといった生活上の課題にも影響を与えます。

 お子さんの空間認知能力を測るのに最適なのが、「メイクンブレイク」です。

作業ができたら報告する「メイクンブレイク」

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指導者はオーバーリアクションで

ステージ2に入ったばかりのお子さんは、ゲームをプレイする中で何が自分にとって望ましい行動なのか、何が残念な行動なのか、十分理解できていないことが多いです。

従って、指導者はお子さんのプレイが望ましい結果を生みだしたら「やったね!上手にできたね」と積極的に声掛けしてするとともに、拍手やお子さんとハイタッチをしてあげるなど、ややオーバーリアクション気味に接してあげましょう。そうすることで、お子さんは「これは望ましい行動なんだ」ということが分かります。

ステージ1 シンボル機能の芽生え 

療育で用いるアナログゲームを発達段階別に整理

アナログゲーム療育を実践されている方から「発達段階別に療育で使えるゲームのリストがほしい」というご要望をいただくことが多くなりました。

そこで、ピアジェの認知発達段階をベースに、アナログゲーム療育の対象となる2歳から12歳以降までの発達段階をステージ1~4までに分け、各ステージにおいて用いるゲームと主な療育課題を設定することにしました。具体的には以下のような形です。

  • ステージ1 2~3歳  シンボル機能の形成
  • ステージ2 3~7歳  シンボル同士の関係概念の形成
  • ステージ3 7~12歳  脱中心化と客観的思考の形成/状況に合わせたコミュニケーションスキルの獲得
  • ステージ4 12歳以降 相手や場に合わせた臨機応変な対応

本サイトでご紹介したゲームについては、全てステージ分けを行いました。右側メニューのステージごとの分類から、それぞれの段階にあわせたゲームを選んでいただけます。

今回はその最初の段階となるステージ1を解説しましょう。

ステージ1 シンボル機能の形成を促す

シンボルとは、ある具体的な事象を、別の事象で代表したものです。たとえば名前や数、あるいはゲームのルールなどがそれにあたります。

シンボル機能がお子さんの中に形成されてくるのが2歳前後。言葉の発生する時期と重なっています。シンボルの意味についてはこちらの記事でまとめてありますので御覧ください。

シンボルを理解し使いこなせるようになることは、後に続く概念的思考やコミュニケーションの前提となります。

知的障害・発達障害のあるお子さんの場合、このプロセスが遅れることがあり、療育を通じてシンボル機能の形成を促すことが課題となります。

動きや音などの刺激で興味を惹く

ステージ1のお子さんの場合まだシンボル機能が充分形成されていません。具体的には、言葉は出ているか出ていないかといったところ。ものに名前があることが理解できているかもどうかわからない段階。ましてや数やルールの理解はまだまだ先、といったところです。

この発達段階のお子さんの興味の中心は、色や音、動きといった感覚的な刺激です。

そのため、この時期のお子さんが興味があるのは、ラトルやクーゲルバーンのような、色・音・動きに訴えるおもちゃです。

 

 

最初に触れて欲しいゲーム 「はじめてのゲーム・フィッシング」

こうした子どもたちにちょっと背伸びしてもらって、感覚の世界からシンボルの世界に入ってきてほしい。そのためには、お子さんの感覚に訴え、シンボルの世界に引き込むようなゲームが望ましいのです。その代表が、ドイツHABA社の「はじめてのゲーム・フィッシング」です。

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  1. サイコロを振り、出た目の色と同じ色の魚を、磁石のついた棒で釣る
  2. 釣った魚と同じ色の道具を選び、手持ちのパネルにはめ込む
  3. 一番早く全ての道具を揃えた人が勝ち

木でできた大ぶりの魚に、磁石がパチン!とつく感覚が、子どもたちの興味を誘います。

感覚で興味を惹き、シンボルの世界に誘う

ステージ1のお子さんにはこの「フィッシング」のような、おもちゃとゲームの中間のようなタイプが適しています。

魚に磁石がつく感覚を楽しんでもらうために、まずはルールにこだわらず、おもちゃとしてお子さんに自由に遊んでもらいましょう。

お子さんが磁石のついた釣り竿を使って魚を釣り上げることを楽しめるようなら、その次のステップとして、サイコロと同じ色の魚を釣ることを目指します。具体的には、サイコロと同じ魚の色を交互に指さしながら、教えていきます。

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放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」での実践より。サイコロの色と同じ色の魚を釣る。この経験が「色」というシンボルの獲得に繋がる。

 

また「はじめてのゲーム・フィッシング」は魚を釣るだけのゲームだけではありません。

子どもたちの手元には穴の空いたパネルが配られ、釣った魚と同じ色がついたバケツやスコップ、じょうろなどの道具をもらい、そのパネルにはめることができます。

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お子さんの視界にはいるように魚と道具両方を見せ、魚と同じ色のしている道具を探してもらう。

「魚を釣る」「道具をもらう」という二つのステップで、色のシンボルを学べるのが「はじめてのゲーム・フィッシング」の素晴らしいところです。2歳~のお子さんに初めて取り組んでいただくゲームとして最もオススメです。

【2月】発達ナビ掲載記事のまとめ

発達障害のポータルサイト「LITALICO発達ナビ」

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

1月に立ち上がった発達障害のある人のためのポータルサイト「LITALICO発達ナビ」。日々日々大量のQ&Aとコラムが掲載されており、発達障害に関わる人にとって早くも欠かせない情報源になった感があります。

私も、これまで4本の記事を執筆させていただきました。

以下、発達ナビで掲載した記事を、簡単な解説とともにご紹介します。

 

ルール理解に最適!アナログゲームのススメ[2~6歳向け]

幼児から大人まで幅広く遊べる定番中の定番ゲーム、「スティッキー」の紹介です。お子さんのコミュニケーション力形成のためにゲームが果たす役割についても解説しています。

 

かんしゃくの原因、見落としてない?

ゲームに負けた時にお子さんがかんしゃくを起してしまうことについて、原因と対策をまとめました。かんしゃくで困っている方は多いらしく、1万view近い閲覧数を獲得しました。

 

ゲームで「他者への関心」を育もう

身の回りにあるカタログ的な物がなんでもゲームになってしまう「かたろーぐ」を紹介しました。他者理解を深めるのに適したゲームで、発達障害児への実践が新聞に取り上げられた経歴もあるゲームです。

 

自然な会話が生まれる!質問力が身につくカードゲームのすすめ

質問するという行動を繰り返し体験できる「わたしはだあれ」というゲームを紹介しました。ソーシャルスキルトレーニングの教材としてアナログゲームを用いた典型的な事例です。異年齢集団の関わりの重要性にも言及しました。

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

客観的思考が可能になる「具体的操作期」の子どもたち

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

今回は、ピアジェの認知発達段階論の第3段階にあたる「具体的操作期」(7歳~12歳)に差し掛かった子どもたちへのアナログゲーム療育をご紹介します。

この時期のお子さんの特徴を説明する前に、まずその一つ前の段階である前操作期(2~6歳)のお子さんの特徴を復習しましょう。

以前の記事で、前操作期の子どもは、「見た目に惑わされやすい」という話をしました。

たとえば、下の写真のように「間隔を拡げて置いた5つの宝石」と「間隔を詰めて置いた6つの宝石」を並べ、「上と下、どっちが多い?」と聞くと、6歳以前の前操作期のお子さんはたいてい「上」と誤って答えてしまいます。実際の個数よりも、見た目の大きさ(長さ)に惑わされてしまうのです。

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7歳以降、具体的操作期に入ると、そのような間違いはなくなり、きちんと数を数えて多い方を指すことができるようになります。このときお子さんは、「上が5で下が6」「5と6では6のほうが多い」といったふうに、数という「目に見えないシンボル」を頭の中で操作・比較して正しい結論が出せるようになっています。

このように自身の主観(見た目)に惑わされず、数のように客観的な基準に基いて思考できるようになるのが具体的操作期の特徴です。

客観的思考ができるようになることで、お子さんの行動の幅は大きく拡がります。

たとえば、それまで大人言われたことに従って行動していただけだったのが、集団の目的を理解して周囲のために自分が何をすればよいのか考え、自発的に動けるようになってきます。

コミュニケーション面では、他者の視点に立てるようになることが大きな進歩です。それまでは自分の気持ちのままにうごいていたのが、相手の気持ちや立場を推し量ることができるようになり、たとえばケンカをして一時感情的になっても、落ち着いてから事実に基づいて話し合うことで仲直りできるようになります。

具体的操作期への移行は、7歳から12歳にかけて徐々になされていきますが、これまでお子さんと関わってきた経験では、知的障害、そして発達障害のあるお子さんには、しばしば移行の遅れが見られます。またこうした認知能力の遅れが理由で、学業や集団遊びで他の子についていけず自己肯定感の低下や問題行動に繋がっているケースも少なくないように思います。

療育を通じて、認知能力をしっかり底上げしてあげたいところです。

 

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

今回ご紹介する「パカパカお馬」は、具体的操作期に差し掛かろうとするお子さんに、この時期の重要な発達課題である、「客観的思考」を身につけてもらうために用いているゲームです。

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ドイツHABA社らしい、カラフルで優しいデザイン。子どもたちの興味を惹きつける。

・プレイヤーにはひづめ・袋・バケツ・にんじんの4種の道具をはめ込むためのボードが渡されます

・プレイヤーは1~3までの数字がかかれたサイコロと、4種(ひづめ・袋・バケツ・にんじん)の道具がそろったサイコロを同時にふります。

・2つのサイコロの出た目をみて、馬を進めるか、道具をもらうかをプレイヤーが選択します。

・馬が厩舎にゴールし、なおかつ道具を全て揃えた人が優勝です。

ゴールするためには「馬を厩舎まで進ませる」「道具を全て揃える」という二つのゴールをどちらも達成する必要があります。これが「パカパカお馬」のポイントです。

プレイヤーは二つのサイコロの出目を見比べて、馬を進めるか、道具をもらうかを選択するのです。この「選択する」という行為が、お子さんが客観的思考を身につける最初のきっかけとなります。

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馬を進めるか、道具をもらうか、同時に振った二つのサイコロの出目をみて決める。選択するという行為が、客観的思考を身に付けるきっかけとなる。

 

療育現場での実践

今回も、東京青梅市の放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」での実践をもとに指導の解説をします。登場するのは、7~8歳の男の子3人。通常学級在籍のお子さんが1人と、固定級にかよっているお子さんが2人です。

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写真からも雰囲気が伝わって来ると思いますが、この発達段階のになると「順番にサイコロを振り、出た目の数だけコマを進める」といったルールは守ることにはさほど困難はなく、大人の助けがなくともゲームを進められるようになってきます(ただし、発達特性によっては個別のケアが必要になる子もいます)。

この段階から、いよいよ、お子さんの思考と判断の領域へと働きかけていきます。

偏った戦略を採る子どもたち

ゲームを進めていくうち、子どもたちの判断にある偏りが出てきました。「馬を進める」か、「道具をもらう」かを選ぶとき、子どもたちはみな「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

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子どもたちは道具を集めるのに必死で、ボード上の馬を進めるのは後回し。

ゲームに勝つことを考えたとき、これは効率の良いやり方ではありません。馬を進めるサイコロに1~3の目が振られています。それに対し、道具のサイコロはどの目がでても道具は1つしかもらえません。従って、最適な戦略は馬を進めるサイコロの出目について「3だったら効率が良いので馬を進める、1だったら効率が悪いので道具を選ぶ。2は状況次第」というのが最も効率よくゴールに近づけます。

しかし、子どもたちは道具ばかり選んでしまう。ただし、すでに手に入れた道具の目がでたときは代わりに馬を進められるので、ルールを理解していないわけではありません。あくまで自身の意志で道具ばかり選んでいるのです。

道具ばかりを取る・・・なぜ?

実はこの現象、今回に限ったことではありません。この発達段階のお子さんに「パカパカお馬」をプレイさせた場合、ほとんどの子どもが「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

お子さんが馬を進めず道具ばかり選ぶ理由は、客観的思考が未成熟なため、効率のよい戦略を考えることができていないことにあります。

そのため、道具のコマがもらえたり、それをボードにはめる行為の視覚的・触覚的な刺激といった主観的な興味が優先しているのです。これは「見かけに惑わされる」という前操作期のお子さんの特徴が抜けきっていないことを表しています。

こうした偏った選択のため、一度目のプレイでは、どの子どもたちも道具を全て揃えてから次に馬を進めるという、効率の悪い形になってしまいました。そこで、二度目のプレイに先立ち、私は子どもたちに「さっきは道具ばかり集めてけど、お馬さんも進めたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてみました。すると今度は、馬ばかり進めて道具を集めようとしないのです。

一人のお子さんに「気付き」が・・・

感覚的な興味にとらわれて道具ばかり集めるのも、私のアドバイスに引っ張られて馬ばかり進めることも、子どもたちの中に客観的思考がまだ形成されていないことを意味します。「どうやったら一番速くゴールに達することができるか?」ということをルールと照らしあわせて考えることがまだできていないのです。

しかし、2回めのゲーム中盤、変化が起きました。馬ばかり進めていた子どもたちの中の一人が、ついに道具を得ることを選択したのです。

私はすかさず「今どうして道具を選んだの?」と聞きました。その子は「だって、1しか進めないのは遅いから」と答えました。

実は、このときお子さんの頭の中に客観的思考が芽生えています。それまでは見た目や触感の刺激などの主観的な印象に基いて判断したり、大人の言うことに従うだけだったお子さんが、「馬を進めるのと道具をもらうのとどちらがいいか」と自分の頭で考え、結論をだしたのです。

このとき、お子さんの頭の中では「馬を進める」という選択と「道具を集める」という選択という二つの「シンボル(概念)」を比較し、より価値の高い選択肢を実行するという「操作」を行っています。

こうした抽象的な概念同士の「操作」が可能になるということが、「具体的操作期」への移行、ひいては客観的思考の芽生えを意味しているのです。

 

「具体的操作期」の療育は「集団」と「問いかけ」が鍵

この出来事のあとは、最初の気付きを得たお子さんだけでなく、他の子たちも、馬の進み具合と道具の集まり具合が一方に偏らないバランスの取れた判断を下せるようになりました。

他の子たちは、最初のお子さんの判断と私の問いかけから、より望ましい戦略を学んだのです。

このように「具体的操作期」の療育は、それまでの指導者がマンツーマンでついてわかりやすくお子さんに指示してあげるような形から、集団で子どもたちがお互いの様子を観察しながら学び合う形へと、変化していきます。

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具体的操作期のお子さんの療育では「集団」が大きな意味を持ってくる。

指導者の役割も、お子さんにいちいち指示をだすのではなく、一歩引いたスタンスで、何か気付きを得た子に「なぜそうしたの?」と問いかけてあげることで、本人の気付きを確かなものとするともに、他の子がその気付きを共有するのを助けることに変わってきます。

お子さんが判断に迷っていると、つい教えてあげたくなってしまいますが、そこで正しいやり方を教え、お子さんがその通り動いたとしても、それは単に大人の言うことに従っただけに過ぎず、「自分で考える」という習慣を身につけた事にはなりません。あくまで本人の気付きを促す関わりが大切です。

一気に拡がるアナログゲーム療育の世界

「パカパカお馬」という一つのゲームで上手な判断できたからといって、それがすぐに「客観的思考」の獲得に繋がるわけではありません。

状況にあわせた的確な判断が求められるよゲームを他にいくつもプレイしてもらうことで、様々な状況で「客観的思考」を使えるようになることが次の目標です。

次回は、「具体的操作期」に入ったお子さんの療育のさらなる展開をご紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

療育に欠かせない、ピアジェの認知発達理論

アナログゲームを用いた療育について、これまで、放課後等デイサービス「オルオルハウス」さんでの実践をご紹介してきました。

これらの記事を読んでいただくと、私がお子さんの認知能力の発達にスポットあてて療育していることが理解いただけるのではないかと思います。

次のステップに進む前に、いったん認知能力とは何なのか整理しておきましょう。

子どもは『小さな大人』ではない

人間の認知能力について研究し、その発達過程を明らかにしたのが、スイスの心理学者ジャン・ピアジェ( 1896 – 1980)です。

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20世紀において最も影響力の大きかった心理学者の一人ジャン・ピアジェ。教員資格試験や保育士試験などを受けたことがあるなら、その名前を耳にしたことがあるはず。

「子どもは『小さな大人』ではない」とピアジェは言いました。

多数の実験により、彼は子どもが、大人とは異なる独特の物の捉え方や考え方をしており、その特性が、年代ごと段階的に変化していくことを明らかにしました。

この「独特の物の捉え方や考え方」という言葉は、発達障害を表す時にもよく使われます。ADHD、ASD、LDなどの発達障害のある人にもそれぞれ独特な物の捉え方や考え方があり、こうした障害を持つ人と関わるときは、そうした特性の理解が大切であることを、私達は知っています。

他方、ピアジェによれば「子ども」という生き物自体にも、それぞれの年齢ごとに独特の特性があり、大人と同じようにできなかったり、その年代の子どもならではの考え方で物事を進めようとするのです。

従って、「発達障害」のある「子ども」を療育するのなら、「各障害ごとの特性」を理解するだけでは不充分で、「各年代ごとの子どもの発達特性」をも理解する必要があります。

療育の横軸を「障害特性」とするなら、縦軸にあたるのが「認知発達段階」。この両方のかけあわせがないと、本当の意味でお子さんに合わせた療育はできません。

認知発達の四段階

ピアジェは各年代の子どもを対象とした実験の結果をもとに、子どもが大人へと発達していく過程を、以下の4段階に分けました。

1 感覚-運動期 0~2歳
2 前操作期 2~7歳
3 具体的操作期 7~12歳
4 形式的操作期 12歳以上

この4段階全てでキーになっているのが、以前にも解説した「シンボル機能」です。

シンボルとは、ある具体的な事象を、別のもので代表したもので、シンボル機能はシンボルを使いこなす機能のことを指します。シンボルの代表例が、「名前」です。

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実写とイラストで質感や色味が全然違う二つの画像が、同じ「トラ」を表しているとわかるのは、私達がそれらを「トラ」という名前で呼ぶことで、同一であると認識しているからです。

名前の他に、数や量、あるいはゲームのルール、「道徳」や「社会」などといった抽象的な概念までもがシンボルに含まれます。

そして、子どもが大人になるまでの過程で、様々なシンボルの存在を理解し、それらを自由に使いこなせるようになっていくことを、ピアジェは明らかにしたのです。

以下、それぞれの発達段階について解説していきましょう。

「感覚-運動期」の子ども

健常児の0~2歳にあたる「感覚-運動期」は、シンボル機能がまだ形成されていない段階です。

この時期の子どもは、いわば「目に見えるものだけ・耳に聞こえるものだけ・手に触れるものだけが全て」という世界に生きています。

興味のある遊びも、動きや音、触感などの感覚に訴える単純なものになります。

シンボル機能がまだないため、シンボルの一種である「ルール」が存在するゲームは、まだ遊ぶことができません。

「前操作期」の子ども

「前操作期」というのは、「シンボル機能を自由に操作できる手前の段階」という意味です。

2歳以降になると、物に名前があることが理解でき、それ伴って言葉を発するようになります。やや複雑なシンボルである「ルール」も徐々に理解できるようになり、それを他の子と共有することで集団で遊べるようになります。

しかし、シンボル機能を自由に操り、「A案とB案を比較してより望ましい方を選択する」とか、「報酬と危険を天秤にかけてより高い成果が得られそうな方を選択する」といったように合理的・戦略的な思考をすることは、まだできません。

実例からみる認知発達段階

これまでご紹介してきた例の中では、ルールを理解して遊ぶことはまだ難しいけれども、カード遊びで異同の弁別ができたAさんは、「感覚-運動期」から「前操作期」への移行期、言い換えればシンボル機能の芽生えの時期にあると言えます。

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また、ゲームのルールを理解して楽しむことができるもの、数や量といったシンボルを自由に使いこなすことはまだ難しかったBくんは、「前操作期」のただ中にいると考えられます。

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「具体的操作期」

認知発達の第3段階である「具体的操作期」に入ると、複数のシンボルを組み合わせるなどの自由な操作ができるようになり、さらには状況を客観的に把握し、合理的・戦略的な思考ができるようになってきます。

下の写真は、「具体的操作期」に差し掛かろうとする子どもたちのゲームの様子です。

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ルールという「目に見えないシンボル」を共有し、そのルールの中で自分がどう振る前ばよいか合理的に考えている。そんな様子が、写真からもなんとなく伝わってくるのではないでしょうか。

次回はこの写真の場面を解説しながら、「具体的操作期」のある子どもたちの合理的思考を促す療育を解説していきましょう。

認知発達に基づいた療育②集団参加の準備

「集団参加」に繋がる療育

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前回は、Aさんという女の子の例を参考にルール理解やコミュニケーションの前提となる「シンボル機能」の形成を目指した療育をご紹介しました。

今回の主役は、写真の奥側でゲームの説明を興味深そうに聞いている、小学2年生のB君です。

Bくんはこれまで、何度か私の療育を受けています。シンボル機能は形成されており、ゲームのルールを理解できます。ゲームに対する取り組みはとても意欲的で、私が訪れるたび、「あっ、アナログ先生だ!今日はどんなゲームやるの!?」と元気よく聞いてくれます。

他方で、B君は、衝動的なところがあり、しばしばゲームに勝とうとしてルールを破ってしまったり、早くプレイしたいあまり他の子の順番を飛ばしてしまいがちなことが課題です。

実際に、写真の「スティッキー」をプレイさせてみたところ、1本ずつ棒を抜くべきところ2本抜いてしまったり、気持ちが先走りすぎて順番をとばす場面が頻繁に見られました。

この状態で、同年代の友達と遊ぼうとすると、トラブルが頻発することが予想されます。そこで、まずは1対1で「ルールを従って遊ぶ」ことを目標に、集団参加に繋げる療育を行うことにしました。

ルールを守って遊ぶ

B君に遊んでもらったのは「ドラゴン・ディエゴ」です。玉を弾き、予めカードで指定されたゴールに入ると得点になります。本来は複数人で遊ぶゲームですが、今回はルールを簡略化し、B君一人で遊んでもらいました。

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B君は得点を取りたいあまり、ボールを所定の位置から、ゴールの近くまで持っていき、そこから入れようとします。これはルール違反なので、その都度「今のだと得点にならないよ。」といって、私がボールを元の位置に戻してやり直しさせます。

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赤いボールをつまんでゴール手前まで持って行ってしまうB君。その度にボールを定位置に戻してやり直してもらう。

何度か繰り返すうち、写真のように定位置からボールを弾けるようになりました。こうしたきめ細かい指導はマンツーマンだからこそ可能です。

「数の蓄積」概念は獲得できているか

ルールを守って遊べるようになったBくん。弾いたボールが入ると「やったー!!!見てみて!!」と他の指導員を巻き込んで喜びを表現し、失敗すると「うわぁーん、入らないー!」と机に突っ伏して悔しがります。

一つ一つのプレイに一喜一憂するBくんの様子を見て、私はふと疑問がわきました。「Bくんは『得点』という概念を理解しているのだろうか?」と。

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改めて、上の写真の赤い丸で囲った部分をみてください。箱のフチに刻まれためもりと、そこにくっついている黄色いドラゴンのコマがあります。狙ったゴールに玉が入るたび、ドラゴンが一めもり前に進みます。つまりこのドラゴンはこれまでに獲得した得点を表しています。

ルールの説明が前後してしまいましたが、プレイに先立ち私はB君に「玉が入るたびにドラゴンが一歩進みます。このドラゴンが箱の周りを一周したらゴールだよ」と伝えていました。

しかし、Bくんは、自分の弾いた玉が狙ったところに入ったかどうかだけを気にしており、成功するたびにドラゴンが一歩ずつ進み、ゴールに近づいていくことにはほとんど興味を示しません。私が「ドラゴンが半分まで来たよ!」とか「もうすぐでゴールだよ!」と話してもキョトンとして、それから「いいから早くやろうよ!」と次のプレイを急かします。

このことから、B君は、その場の一つ一つのプレイの成功/失敗は理解できても、「成功するごとに得点が蓄積されていき、やがてゴールを迎える」というルールは理解できていない可能性が高いことが伺われました。このことは、より一般的には「数の蓄積」という概念がまだ充分形成されていないことを示唆していると考えられました。

 

順番の理解に数概念の形成が関わっている?

B君に「数の蓄積」の概念が充分形成されていないことは、彼がしばしば順番を飛ばしてしまうことにも関連すると思われました。

というのも、「得点が蓄積していきやがてゴールを迎える」という事の理解と、「他のプレイヤーが全員プレイした後に自分の番が回ってくる」ということの順番の理解は、どちらも「数の蓄積」の理解を要すると考えられたからです。

例えば、4人でゲームをすることを考えてみましょう。今B君がプレイしたとして、次に順番がまわってくるのは、残り3人がプレイした後です。しかし、Bくんが数の蓄積を理解できていないとしたら、彼はあとどれくらい待てば自分の順番が回ってくるか見通しがたてられません。

順番を飛ばしてしまうことは、一つにはBくんの衝動性もあるでしょうが、「数の蓄積」概念の形成が充分でないことも、理由の一つとなっていると思われました。

今回の療育で、B君の認知発達段階を一歩深く理解することができました。次回の療育では、数をかぞえたり、大小を比較するようなゲームを通じて、Bくんの「数の蓄積」概念の形成を促すことが目標になるでしょう。

Bくんに「数の蓄積」概念がしっかり形成されれば、集団遊びにおいてもあとどれくらいで自分の順番になるか見通しが立つようになり、順番を飛ばすことは減ってくると予想されます。

認知発達に着目することで新しいアプローチが見えてくる

Bくんがみせる「ルールを破ってしまう」「順番を守れない」といった行動は、学校などではADHDの症状の一つである衝動性のあらわれとして解釈されることが多いと思います。

そこ導き出される手立てとしては、ルールや順番が守れたら褒めるといったABA的方法や、焦る気持ちを自覚させコントロールする練習などが考えられます。それでも改善が見られないなら、投薬も選択肢に入ってくるでしょう。

しかし、今回療育にアナログゲームを導入したことで、B君の障害特性だけでなく、認知能力にもスポットがあたり、その結果、「順番を理解させるために数概念の形成を促す」という、新しいアプローチを見出すことができました。

このことからもわかるように、アナログゲームには、お子さんの認知能力上の課題を療育者に気づかせてくれるアセスメントツールとしての機能も持っているのです。

認知発達に基づいた療育①シンボル機能の芽生えの段階

認知発達段階を踏まえた療育とは

前回の記事では、認知発達のキー概念である「シンボル機能」について説明しました。

改めて説明すると、シンボルとは、ある具体的な事象を、別の事象で代表したもので、たとえば「トラ」「りんご」などといった名前や、「動物」「果物」などといった種類、あるいはゲームのルールなどもシンボルに含まれます。

これらのシンボルは、直接眼に見えないけれども物事を分類したり理解するのに必要で、私達はこうしたシンボルの自在に操ることで、複雑な物事を考えることが出来るようになります。

シンボル機能の芽生えは、健常児では2歳前後となりますが、発達障害や知的障害のあるお子さんの場合は、それよりも遅れることがあります。

従って、これらの障害を持つお子さんを療育するときは、シンボル機能を持っているかどうかなど、認知発達段階を正しく見極める必要があります。

認知能力が療育とどのように関係してくるか、私が週1で指導を行っている放課後等デイサービス「オルオルハウス」での実践を通じて解説していきましょう。

今回は、まだシンボル機能をきちんと獲得していない、発達段階の初期にあたるお子さんの事例を紹介します。

(なお、下記で紹介する写真は全て、事業所様の了解を得た上で掲載しています。)

説明を聞かずに絵本を読んでしまうAさん

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上の写真は、小学校低学年の二人に、スティッキーの説明をしているところです。奥側の男の子は私の説明を興味深そうに聞いていますが、手前の女の子は絵本に集中して私の話を聞いていません。

この絵本を読んでいる女の子が今回の主役です。仮にAさんとしましょう。彼女とは、この日が初対面でした。Aさんには知的な遅れを伴うダウン症があり、普段は特別支援学校に通っています。

絵本に集中しているAさんですが、私は彼女に自分の話をきくよう注意しませんでした。なぜなら、彼女はゲームという言葉の意味やルールを理解するのに必要なシンボル機能が形成されていない可能性が高かったからです。

なぜそう考えたか。これより少し前に、私が「これからゲームを始めるよ!集まってください」と声をかけたとき、Aさんが絵本を持ってきて私に差し出す、という出来事があったからです。

私がゲームを始めると言ったのに、Aさんは絵本を持ってきた。この事から、私は「彼女はゲームという言葉の意味を理解していない。ということは、シンボル機能をまだ獲得していないのではないか」と推測しました。

そこで普段から彼女と接しているスタッフさんに「彼女は普段どんな言葉を発しますか?」と確認すると、「かろうじて、自分の好きな桃の絵を指して『もも』と言うくらいです」との答えでした。

このことから私はAさんがまだ、物に名前があることを理解し始めたばかりであること、言い換えればシンボル機能が芽生え始めたばかりの段階であることを理解しました。

それならば「ゲーム」という抽象的な単語の意味がわからなかったのも理解できますし、ましてやゲームのルール説明が難しく、興味を示さなかったのは当然です。

このあと、試しに一度だけスティッキーをプレイしてもらいましたが、予想したとおりAさんは興味がなく、プレイに参加しようとしませんでした。

マンツーマンで認知能力の形成を促す

こうしたAさんの様子を見て、私はマンツーマンの指導に切り替えることにしました。そして、シンボル機能の基礎を固めるために「物と名前の関連付け」や「同じものと異なるものの区別」が確実にできるようになることを療育の目標としました。

先ほど、Aさんが私に絵本を持ってきたことがヒントになりました。彼女の場合、言葉よりも、色や形といったビジュアル的な要素に興味を感じやすいのではと考えたのです。

そこで、私は可愛らしいクマの絵が描かれた「テディ・メモリー」を彼女に提示してみました。

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このゲームには可愛らしいクマの絵が2枚1組で描かれており、普通は神経衰弱と同じルールで遊びます。しかし、ルールの理解が難しいと思われるAさんには、神経衰弱ではなく、箱に入ったカードのなかから、同じ絵同士を探しだしてもらう形で取り組んでもらいました。

先ほどの興味のなさそうな様子とはうってかわって、キラキラした目でクマのカードを手に取るAさん。私が「同じカードはどれかな?」と言葉をかけると、カード同士を並べ、また関係ないカードは放り投げるなど、弁別する作業を楽しそうに進めていきました。

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同じカードを揃え、関係ないカードは勢い良く放りなげていくAさん。遊びとも勉強とも区別のつかない、療育の最初期の段階だ。

Aさんのような認知発達段階にあるお子さんは、「物に名前のあることが理解できる」、「同じものと違うもの区別できる」などといったシンボル機能が少しずつ形成されているところです。

そこで、私はAさんがカードを分類していく過程で、「このクマは二つともはちみつを持っているね」とか「こっちのクマは靴を履いているけど、こっちのは靴を履いてないね」と入った風に、それぞれのクマの特徴を言葉に表して、物と名前の関係や、同じものと異なるものの区別が、彼女に理解されるように促していきました。

このような療育を繰り返すことで、シンボル機能がお子さんの中でしっかり確立していきます。この次のステップは、「大小の比較」や、「物と使い途の関係」などになります。それができるようになると、今度はゲームのルールのような、より複雑な概念も理解できるようになってくるのです。

認知発達段階の理解は療育の必須条件

発達障害・知的障害のあるお子さんを療育する上で、その子の認知発達段階を正しく理解することは、障害特性の理解と同じかそれ以上に重要だと、私は考えています。

その理由の一つは、認知発達段階を理解しないと、お子さんが見せる行動の理由が解釈できないからです。

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認知発達段階を知らないと、たとえば、上の写真で私が説明している最中に本を読んでいるAさんの態度をみて「先生が説明しているのに、ちゃんと話を聞いていない。やる気が無いんじゃないか」などと誤解してしまいがちです。

しかし、後に提示した「テディ・メモリー」に意欲的に取り組んだことからわかるように、Aさんは積極的に学ぶ意志(この段階では遊びに対する興味とほとんど同じ)を持っているのです。

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発達段階にあわせた課題があれば、子どもは楽しんで療育に取り組んでくれる。

Aさんのケースで明らかなように、その子の認知発達段階に合った課題を用意すれば、お子さんは楽しんで療育に取り組んでくれます。

仮にその子の認知発達段階を超えるような課題を提示したら、お子さんは取り組みを拒否したり、離席したり、暴言を言うなどの問題行動が頻繁に起き、療育は成立しないでしょう。理解できない課題を無理やりやらされているのだから当然です。

このことからもわかるように、お子さんの認知能力を見極められることと、そこに合わせた課題を用意できることは、療育が成立するための必須条件なのです

認知発達のキー概念「シンボル機能」とは

認知能力とは

認知能力とは、人間がどのように物事をどのように受け取り、理解するかを示す能力のことです。

認知能力は子どもから大人になる過程で段階的に発達していきます。ところが、知的障害や発達障害のあるお子さんは、この認知能力の発達が遅れていることがあり、そのことは、コミュニケーションや身辺自立、学習など、生活全般に影響を与えます。

アナログゲーム療育の大きな目的の一つは、お子さんの認知能力の発達を促すことにあります。認知発達段階の引き上げが、アナログゲーム療育の究極の目標であるコミュニケーション能力の向上を目指す上で重要になるからです。

これから数回にわたって、アナログゲームを使って認知能力をどう発達させていくか、説明していきます。

今回はその前段階として、認知発達のキー概念である「シンボル機能」について説明します。

認知発達のキー概念「シンボル機能」

シンボルとは、ある具体的な事象を、別のもので代表したもので、シンボル機能はシンボルを使いこなす機能のことを指します。シンボルの代表例が、「名前」です。

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この二つの画像をみてください。どちらも「トラ」であることはすぐにわかるでしょう。しかし、左側のトラは、四本足で歩いています。右側のトラは二本足で立っており、手に葉っぱを持っています。そもそも、実写とイラストですから、質感や色味が全然違います。

こうもかけ離れた特徴を持つ二つの映像をみて、なぜ私たちは同じ「トラ」であると認識できるのでしょうか。よくよく考えてみると不思議ではありませんか。

実は、私達人間は、こうした異なるものを「トラ」という名前で呼ぶことで、同一であると認識しています。この「トラ」という名前が、シンボルにあたります。

子どもがシンボル機能を獲得し、物に名前があることを認識するのは、2歳前後であり、これは言葉を発し始める時期と重なっています。

ここからもう少し成長すると、例えば、色や物理的形状が全く異なるトラとカモメが、どちらも「動物」というカテゴリに属することも、理解されるようになってきます。

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「動物」もまたシンボルの一種です。「動物」という名前の生き物はこの世に存在しません。しかし、私たちはトラやカモメやその他の生き物を「動物」という”架空の入れ物(シンボル)”に入れて整理しています。

それによって、あるシンボルと別のシンボルを組み合わせて、例えば「動物と植物の違いはなにか」といったふうな、高次の思考を展開できるようになるのです。

ゲームの「ルール」もシンボルの一種

ゲームについてはどうでしょうか。ゲームを構成する要素である「ルール」もまた、シンボルの一種です。プレイヤーたちは目にみえないシンボルである「ルール」を共有しあうことで、ゲームを楽しむことができます

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たとえば、以前ご紹介した「スティッキー」は、シンボル機能が芽生えていない2歳以下のお子さんにとっては、「三色の棒をリングで束ねただけの物体」にすぎません。

ゲームの参加者たちが、この物体に「一本ずつ順番に棒を抜いていく。タワーが倒れたら負け」というルールが当てはめることで、初めてゲームとして成立するのです。

このことからもわかるように、ゲームをルールを理解するにはお子さんにシンボル機能が形成されていることが最低条件になります。加えて、シンボル機能はコミュニケーションの重要な条件でもあります。

次回以降、このシンボル機能がアナログゲーム療育の中でどう関係してくるのか、各発達段階ごとに説明していきます。