色や名前の世界を拡げる「楽しい色並べ」

今回ご紹介する「楽しい色並べ」は、お子さんの色や名前の世界を拡げていくのに役立ちます。

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販売サイト:楽しい色並べ(百町森サイトより)

二種類のカードを並べていく

楽しい色並べには、全8色からなる「絵の具」カードと、それぞれの色を代表する動物や食べ物、身の回りの品が描かれたカードが入っています。

まだ色と名前の関連がきちんとついていない子の場合、いきなりゲーム形式ではなく、絵カード同士の合致させる課題として提示してみましょう。

  •  最初に、色合せの基準となる「絵の具」カードを机に並べます。8色ありますが、初めは半分の4色くらいから始めるのが良いでしょう。
  • 次に、指導者イラストが描かれたカードを一枚めくってお子さんに渡し、同じ色の絵の具カードの上においてもらいます。
  • この際、指導者は「これは何かな?」「これは何色かな?」と問いかけ、お子さんにカードに描かれた物の名前と色と答えてもらいます。
  • お子さんがカードを正しい場所に置き、正しく名前と色を答えられたら拍手やハイタッチで褒めてあげましょう。

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絵の具カードの上に、その色と同じ色を持つカードを並べていく。初めは4色から。


名前と色を答えてもらうのがポイント

正しい色同士をマッチングできただけで良しとせず、お子さんに物の名前と色を正しく答えてもらうことが大切です。

なぜなら、サクランボを赤い絵の具の上に正しくおけたとしても、「これは何色?」と問うと、「青」と答えてしまうなど、色と名前の関係が確立していないお子さんもいるからです。

それができるようになったら今度は8色の絵の具カードを全てを並べてみましょう。お子さんによっては、オレンジ色と黄色の違いが区別できなかったり、白と黒の無彩色が理解が難しい場合があります。

そんなときは、絵の具カードとイラストのカードを見比べさせ「こちらはオレンジ色、こっちは黄色」といった風に違いを説明した上で、「黄色はどこかな?」と改めて問いかけ、正しい場所に置かせます。

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お子さんが慣れてきたら、8色全てを使う。黄色とオレンジ色の判別が難しかったり、白・黒の無彩色の理解が難しい子がいる。


ゲーム形式でシンボルの世界を拡げる

 指導者が提示するカードをお子さんがスムーズに並べられるようになったら、いよいよゲーム形式での指導に入ります。

  •  全てのカードを良く切り、一人6枚ずつ配ります。
  • トランプの7並べのように、順番に1枚ずつカードを場に出していきます。
    • 絵の具カードはいつでも出せます。
    • 場に出ている絵の具カードと同じ色のカードを出すこともできます。
  • 最初に全ての手札を場に出せた人が勝ちです。

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どのカードなら出せるかな?正解はオレンジ色のキツネ。手持ちの札の中から出せるカードを選び出す必要があるので、幼児のお子さんにとっては難易度が高い。

このルールでは、場にある絵の具カードと合致する色のカードしか出すことができません。お子さんは、「手元の中から合致するものを選ぶ」といったやや複雑な手続きを行う必要があり、その過程で物と色の関係をより柔軟に理解することができます。

色や名前の世界を拡げていくステージ2

今回ご紹介した「楽しい色並べ」は、3~4歳向けで、ステージ2の前半を代表するゲームと言えるでしょう。

ステージ2の療育課題は、シンボル同士の関係を確立し、シンボルの世界を拡げることです。シンボルとは、色や名前、あるいは数などの記号を指します。

「楽しい色並べ」のようなゲームを使って、色や名前といったシンボルの合致をくりかえすことによって、お子さんの思考の世界を拡げ、コミュニケーションを豊かにしていくことができます。

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販売サイト:楽しい色並べ(百町森サイトより)

 

ステージ2 シンボルのスムーズな操作を促す

ステージ2「前操作期」

今回は、アナログゲーム療育のステージ2を解説します。健常児のお子さんで、3~7歳に当たります。

この時期のお子さんはシンボル機能が確立することで、言葉が話せるようになるのを始め、数、そしてゲームに欠かせないルールの理解ができるようになっています。

この時期のことをピアジェは「前操作期」と呼んでいます。ここでいう操作、とはシンボル機能の操作を指します。「前操作期」とは、シンボルは形成されているものの、それらを自由に操れる手前の段階にある、という意味です。

「ごっこ遊び」が出てくる

ステージ2のお子さんは、シンボル機能が形成されることで、他のお子さんとシンボルを共有しあって集団で遊べるようになります。

おままごとであれば、「私はお母さん、あなたは赤ちゃん」といった風にお互いの役割を演じることができるようになります。このとき「お母さん」というシンボル、「赤ちゃん」というシンボルをお互いの間で共有できているからこそ、おままごとが成立するのです。

ゲームについても、ステージ2のお子さんは「ルール」というシンボルを共有することができるので、子ども同士で遊べるようになります。

シンボルのスムースな操作を促す

シンボル機能が形成されたことで遊びの幅が大きく拡がるステージ2のお子さんですが、限界もあります。

たとえば数の扱いです。おはじきを提示して「これはいくつ?」と聞いてみると、1つや2つなら答えられますが、5つや6つになると正しく答えられなくなってしまうことがあります。また、足し算、引き算はまだ難しいことが多いです。

そのためステージ2の目標は、シンボルをスムースに操作できるようになることです。

アナログゲームは「名前」「数」「色」「形」などたくさんのシンボルの集まりであり、それらをルールに従ってプレイすることが、シンボル操作の練習になります。

 

シンボル操作を練習するアナログゲーム

たとえば、以前ご紹介した「雲の上のユニコーン」は、お子さんの数概念の獲得を促すのに最適です。

数概念を身につける「雲の上のユニコーン」

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またステージ2のお子さんについて、数概念と並んでチェックしておきたいのが空間認知能力です。

空間認知能力は、物の大きさや向き、あるいは奥行きなどといったものを正確に把握できているかどうか、ということです。

この能力が特異的に遅れている場合、書字や図画・工作が極端な苦手さを示すことが多いです。また片付けが出来なかったり物をなくしてしまうといった生活上の課題にも影響を与えます。

 お子さんの空間認知能力を測るのに最適なのが、「メイクンブレイク」です。

作業ができたら報告する「メイクンブレイク」

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指導者はオーバーリアクションで

ステージ2に入ったばかりのお子さんは、ゲームをプレイする中で何が自分にとって望ましい行動なのか、何が残念な行動なのか、十分理解できていないことが多いです。

従って、指導者はお子さんのプレイが望ましい結果を生みだしたら「やったね!上手にできたね」と積極的に声掛けしてするとともに、拍手やお子さんとハイタッチをしてあげるなど、ややオーバーリアクション気味に接してあげましょう。そうすることで、お子さんは「これは望ましい行動なんだ」ということが分かります。

ステージ1 シンボル機能の芽生え 

療育で用いるアナログゲームを発達段階別に整理

アナログゲーム療育を実践されている方から「発達段階別に療育で使えるゲームのリストがほしい」というご要望をいただくことが多くなりました。

そこで、ピアジェの認知発達段階をベースに、アナログゲーム療育の対象となる2歳から12歳以降までの発達段階をステージ1~4までに分け、各ステージにおいて用いるゲームと主な療育課題を設定することにしました。具体的には以下のような形です。

  • ステージ1 2~3歳  シンボル機能の形成
  • ステージ2 3~7歳  シンボル同士の関係概念の形成
  • ステージ3 7~12歳  脱中心化と客観的思考の形成/状況に合わせたコミュニケーションスキルの獲得
  • ステージ4 12歳以降 相手や場に合わせた臨機応変な対応

本サイトでご紹介したゲームについては、全てステージ分けを行いました。右側メニューのステージごとの分類から、それぞれの段階にあわせたゲームを選んでいただけます。

今回はその最初の段階となるステージ1を解説しましょう。

ステージ1 シンボル機能の形成を促す

シンボルとは、ある具体的な事象を、別の事象で代表したものです。たとえば名前や数、あるいはゲームのルールなどがそれにあたります。

シンボル機能がお子さんの中に形成されてくるのが2歳前後。言葉の発生する時期と重なっています。シンボルの意味についてはこちらの記事でまとめてありますので御覧ください。

シンボルを理解し使いこなせるようになることは、後に続く概念的思考やコミュニケーションの前提となります。

知的障害・発達障害のあるお子さんの場合、このプロセスが遅れることがあり、療育を通じてシンボル機能の形成を促すことが課題となります。

動きや音などの刺激で興味を惹く

ステージ1のお子さんの場合まだシンボル機能が充分形成されていません。具体的には、言葉は出ているか出ていないかといったところ。ものに名前があることが理解できているかもどうかわからない段階。ましてや数やルールの理解はまだまだ先、といったところです。

この発達段階のお子さんの興味の中心は、色や音、動きといった感覚的な刺激です。

そのため、この時期のお子さんが興味があるのは、ラトルやクーゲルバーンのような、色・音・動きに訴えるおもちゃです。

 

 

最初に触れて欲しいゲーム 「はじめてのゲーム・フィッシング」

こうした子どもたちにちょっと背伸びしてもらって、感覚の世界からシンボルの世界に入ってきてほしい。そのためには、お子さんの感覚に訴え、シンボルの世界に引き込むようなゲームが望ましいのです。その代表が、ドイツHABA社の「はじめてのゲーム・フィッシング」です。

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  1. サイコロを振り、出た目の色と同じ色の魚を、磁石のついた棒で釣る
  2. 釣った魚と同じ色の道具を選び、手持ちのパネルにはめ込む
  3. 一番早く全ての道具を揃えた人が勝ち

木でできた大ぶりの魚に、磁石がパチン!とつく感覚が、子どもたちの興味を誘います。

感覚で興味を惹き、シンボルの世界に誘う

ステージ1のお子さんにはこの「フィッシング」のような、おもちゃとゲームの中間のようなタイプが適しています。

魚に磁石がつく感覚を楽しんでもらうために、まずはルールにこだわらず、おもちゃとしてお子さんに自由に遊んでもらいましょう。

お子さんが磁石のついた釣り竿を使って魚を釣り上げることを楽しめるようなら、その次のステップとして、サイコロと同じ色の魚を釣ることを目指します。具体的には、サイコロと同じ魚の色を交互に指さしながら、教えていきます。

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放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」での実践より。サイコロの色と同じ色の魚を釣る。この経験が「色」というシンボルの獲得に繋がる。

 

また「はじめてのゲーム・フィッシング」は魚を釣るだけのゲームだけではありません。

子どもたちの手元には穴の空いたパネルが配られ、釣った魚と同じ色がついたバケツやスコップ、じょうろなどの道具をもらい、そのパネルにはめることができます。

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お子さんの視界にはいるように魚と道具両方を見せ、魚と同じ色のしている道具を探してもらう。

「魚を釣る」「道具をもらう」という二つのステップで、色のシンボルを学べるのが「はじめてのゲーム・フィッシング」の素晴らしいところです。2歳~のお子さんに初めて取り組んでいただくゲームとして最もオススメです。

(株)LITALICOのLeafで実践&名前をつける「ナンジャモンジャ」

Leafプログレスにてアナログゲーム療育を実践!

さる3月21日Leafプログレス所沢教室にて、アナログゲーム療育を実践させていただきました。

Leafプログレスは先日マザーズに上場した(株)LITALICOが運営する発達障害のあるお子さん向けの学習塾です。障害特性に応じた学習支援に加え、コミュニケーションや行動面のサポートにも力を入れておられます。

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お子さんに実践する前に、スタッフさん向けのプチ研修を実施。

Leafさんの特徴の一つとして、教室内にカメラが設置されており、このカメラを通じて、保護者さんがモニタでレッスン中のお子さんの様子を見られるようになっています。

保護者さんにとっては大変有り難い仕組みだと思いますが、指導する側にとっては中々に緊張感があります(汗)。

 

障害特性以上に見えてきたものは・・・

今回はLeafに通う発達障害のある小学4年生から中学1年生までの7人のお子さんが参加され、2時間で5種類のゲームを遊びました。

セッションを通じて特に印象に残ったのは、お子さんの障害特性や認知特性よりも、「集団に参加することへの不安感」でした。

たとえば、促してもゲームに参加しようとしなかったり、わざと他の子の失敗を馬鹿にするような発言をして自分を強く見せようとする子がいました。

過去に学校などで集団参加に失敗した体験があると、未知の集団に参加するときお子さんの中に「失敗して恥ずかしい思いをするんじゃないか」「他の子に馬鹿にされるんじゃないか」という不安が生まれ、その結果、失敗したくないから集団に参加しない、馬鹿にされたくないから他の子を馬鹿にするといった、自己防衛の動きが出ます。

こんなときは、子どもたちの中に「自分はこの場に受け入れられているんだ」「失敗してもいいんだ」という安心感を作ってあげることが大切です。

そうした安心感ができて防衛が解けると、子どもたちはそれまでとはうってかわって、積極的に課題に取り組んだり、コミュニケーションを活発に試みたりするのです。

 

謎生物に名前をつける「ナンジャモンジャ」

子どもたちが集団の中で安心して遊べる。今回、そんな場作りに一役買ってくれたのが、「ナンジャモンジャ」というゲームでした。

ナンジャモンジャのカードには、なんとも説明のしがたい奇妙な生物のイラストが描かれています。このカードを一枚ずつめくり、ひとりずつ順番にその生物に自由に名前をつけていきます。

めくっていくうち、先ほど名前をつけた生物のカードが再び出てくる事があります。そのときに先ほどつけた名前を一番早く言えたプレイヤーが、それまでめくったカードを取ることができます。

全てのカードをめくり終えたとき一番たくさんのカードを取った人が勝ちです。

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なんとも奇妙な「ナンジャモンジャ」の生物たち。

上の写真で、子どもたちがつけた名前は、左から「みどりん」「みどりモジャモジャ生物」「サンフランシスコ」「おばさん」。 

カードをめくったとき、名前のついたカードだったら「みどりん!」「サンフランシスコ!」といった具合に、素早く名前を言うのです。

特に「みどりん」と「みどりモジャモジャ生物」がまぎらわしく、言い間違いが続出して、みんな大笑いでした。

こうやって、失敗をしたことも含めてみんなで笑い合いながら遊ぶことができると、当初参加しなかった子も自然に輪の中に入ってきました。馬鹿にするようなことを言っていた子も、そうした発言がなくなって代わりに笑顔がでてきました。

このナンジャモンジャがきっかけになって、それ以降のゲームが大きく盛り上がり、子どもたちの熱気でこの季節なのに教室に冷房を入れなくてはならないくらいでした。

 

一番難しかったゲームは・・・

さて、ゲームが終了した後、子どもたちに「今日何のゲームが一番難しかった?」と聞くと、一番もりあがったはずの「ナンジャモンジャ」でした。

「ナンジャモンジャ」はとてもシンプルなゲームですが、実は「自由に名前をつける」という創作的な要素を含むコミュニケーションは、発達障害の中でも特にASDのあるお子さんには難しいことがあるのです。

笑顔で盛り上がっていた子どもたちでしたが、一人ひとりは必死で名前を考えていたんですね。でも、そうやって一生懸命考えた名前で、みんな楽しく盛り上がれたわけですから、きっと集団で過ごす自信もついたのではないかと思います。

 

親御さんたちの反応は・・・

後に教室長さんに伺ったことですが、こうした子どもたちの様子を、親御さんたちはカメラを通じて、笑顔で見ておられたとのこと。

終了後の私から親御さんへのフィードバックの時間では、「自宅でもやらせたいけれど、これらのゲームはどこで売っているのでしょうか」「普段の遊びではかんしゃくを起してしまって困っているんですが・・・」など、活発な質問をいただき、非常に高い関心を持っていただけたようです。

今回のLeafさんでの実践を通じて、発達障害のあるお子さんの場合、コミュニケーション能力の育成もさることながら、それ以前に「安心して他の子と楽しく遊べた」という経験が繰り返し出来る場を用意してあげることが大切であることを、改めて実感しました。

こうした場が増えるよう、今後ますます活動のフィールドを拡げていきたいと思っています。

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

客観的思考が可能になる「具体的操作期」の子どもたち

こんにちは。アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一です。

今回は、ピアジェの認知発達段階論の第3段階にあたる「具体的操作期」(7歳~12歳)に差し掛かった子どもたちへのアナログゲーム療育をご紹介します。

この時期のお子さんの特徴を説明する前に、まずその一つ前の段階である前操作期(2~6歳)のお子さんの特徴を復習しましょう。

以前の記事で、前操作期の子どもは、「見た目に惑わされやすい」という話をしました。

たとえば、下の写真のように「間隔を拡げて置いた5つの宝石」と「間隔を詰めて置いた6つの宝石」を並べ、「上と下、どっちが多い?」と聞くと、6歳以前の前操作期のお子さんはたいてい「上」と誤って答えてしまいます。実際の個数よりも、見た目の大きさ(長さ)に惑わされてしまうのです。

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7歳以降、具体的操作期に入ると、そのような間違いはなくなり、きちんと数を数えて多い方を指すことができるようになります。このときお子さんは、「上が5で下が6」「5と6では6のほうが多い」といったふうに、数という「目に見えないシンボル」を頭の中で操作・比較して正しい結論が出せるようになっています。

このように自身の主観(見た目)に惑わされず、数のように客観的な基準に基いて思考できるようになるのが具体的操作期の特徴です。

客観的思考ができるようになることで、お子さんの行動の幅は大きく拡がります。

たとえば、それまで大人言われたことに従って行動していただけだったのが、集団の目的を理解して周囲のために自分が何をすればよいのか考え、自発的に動けるようになってきます。

コミュニケーション面では、他者の視点に立てるようになることが大きな進歩です。それまでは自分の気持ちのままにうごいていたのが、相手の気持ちや立場を推し量ることができるようになり、たとえばケンカをして一時感情的になっても、落ち着いてから事実に基づいて話し合うことで仲直りできるようになります。

具体的操作期への移行は、7歳から12歳にかけて徐々になされていきますが、これまでお子さんと関わってきた経験では、知的障害、そして発達障害のあるお子さんには、しばしば移行の遅れが見られます。またこうした認知能力の遅れが理由で、学業や集団遊びで他の子についていけず自己肯定感の低下や問題行動に繋がっているケースも少なくないように思います。

療育を通じて、認知能力をしっかり底上げしてあげたいところです。

 

客観的思考の芽生えを促す「パカパカお馬」

今回ご紹介する「パカパカお馬」は、具体的操作期に差し掛かろうとするお子さんに、この時期の重要な発達課題である、「客観的思考」を身につけてもらうために用いているゲームです。

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ドイツHABA社らしい、カラフルで優しいデザイン。子どもたちの興味を惹きつける。

・プレイヤーにはひづめ・袋・バケツ・にんじんの4種の道具をはめ込むためのボードが渡されます

・プレイヤーは1~3までの数字がかかれたサイコロと、4種(ひづめ・袋・バケツ・にんじん)の道具がそろったサイコロを同時にふります。

・2つのサイコロの出た目をみて、馬を進めるか、道具をもらうかをプレイヤーが選択します。

・馬が厩舎にゴールし、なおかつ道具を全て揃えた人が優勝です。

ゴールするためには「馬を厩舎まで進ませる」「道具を全て揃える」という二つのゴールをどちらも達成する必要があります。これが「パカパカお馬」のポイントです。

プレイヤーは二つのサイコロの出目を見比べて、馬を進めるか、道具をもらうかを選択するのです。この「選択する」という行為が、お子さんが客観的思考を身につける最初のきっかけとなります。

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馬を進めるか、道具をもらうか、同時に振った二つのサイコロの出目をみて決める。選択するという行為が、客観的思考を身に付けるきっかけとなる。

 

療育現場での実践

今回も、東京青梅市の放課後等デイサービス「オルオルハウスかすみ」での実践をもとに指導の解説をします。登場するのは、7~8歳の男の子3人。通常学級在籍のお子さんが1人と、固定級にかよっているお子さんが2人です。

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写真からも雰囲気が伝わって来ると思いますが、この発達段階のになると「順番にサイコロを振り、出た目の数だけコマを進める」といったルールは守ることにはさほど困難はなく、大人の助けがなくともゲームを進められるようになってきます(ただし、発達特性によっては個別のケアが必要になる子もいます)。

この段階から、いよいよ、お子さんの思考と判断の領域へと働きかけていきます。

偏った戦略を採る子どもたち

ゲームを進めていくうち、子どもたちの判断にある偏りが出てきました。「馬を進める」か、「道具をもらう」かを選ぶとき、子どもたちはみな「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

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子どもたちは道具を集めるのに必死で、ボード上の馬を進めるのは後回し。

ゲームに勝つことを考えたとき、これは効率の良いやり方ではありません。馬を進めるサイコロに1~3の目が振られています。それに対し、道具のサイコロはどの目がでても道具は1つしかもらえません。従って、最適な戦略は馬を進めるサイコロの出目について「3だったら効率が良いので馬を進める、1だったら効率が悪いので道具を選ぶ。2は状況次第」というのが最も効率よくゴールに近づけます。

しかし、子どもたちは道具ばかり選んでしまう。ただし、すでに手に入れた道具の目がでたときは代わりに馬を進められるので、ルールを理解していないわけではありません。あくまで自身の意志で道具ばかり選んでいるのです。

道具ばかりを取る・・・なぜ?

実はこの現象、今回に限ったことではありません。この発達段階のお子さんに「パカパカお馬」をプレイさせた場合、ほとんどの子どもが「道具をもらう」方ばかりを選ぶのです。

お子さんが馬を進めず道具ばかり選ぶ理由は、客観的思考が未成熟なため、効率のよい戦略を考えることができていないことにあります。

そのため、道具のコマがもらえたり、それをボードにはめる行為の視覚的・触覚的な刺激といった主観的な興味が優先しているのです。これは「見かけに惑わされる」という前操作期のお子さんの特徴が抜けきっていないことを表しています。

こうした偏った選択のため、一度目のプレイでは、どの子どもたちも道具を全て揃えてから次に馬を進めるという、効率の悪い形になってしまいました。そこで、二度目のプレイに先立ち、私は子どもたちに「さっきは道具ばかり集めてけど、お馬さんも進めたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしてみました。すると今度は、馬ばかり進めて道具を集めようとしないのです。

一人のお子さんに「気付き」が・・・

感覚的な興味にとらわれて道具ばかり集めるのも、私のアドバイスに引っ張られて馬ばかり進めることも、子どもたちの中に客観的思考がまだ形成されていないことを意味します。「どうやったら一番速くゴールに達することができるか?」ということをルールと照らしあわせて考えることがまだできていないのです。

しかし、2回めのゲーム中盤、変化が起きました。馬ばかり進めていた子どもたちの中の一人が、ついに道具を得ることを選択したのです。

私はすかさず「今どうして道具を選んだの?」と聞きました。その子は「だって、1しか進めないのは遅いから」と答えました。

実は、このときお子さんの頭の中に客観的思考が芽生えています。それまでは見た目や触感の刺激などの主観的な印象に基いて判断したり、大人の言うことに従うだけだったお子さんが、「馬を進めるのと道具をもらうのとどちらがいいか」と自分の頭で考え、結論をだしたのです。

このとき、お子さんの頭の中では「馬を進める」という選択と「道具を集める」という選択という二つの「シンボル(概念)」を比較し、より価値の高い選択肢を実行するという「操作」を行っています。

こうした抽象的な概念同士の「操作」が可能になるということが、「具体的操作期」への移行、ひいては客観的思考の芽生えを意味しているのです。

 

「具体的操作期」の療育は「集団」と「問いかけ」が鍵

この出来事のあとは、最初の気付きを得たお子さんだけでなく、他の子たちも、馬の進み具合と道具の集まり具合が一方に偏らないバランスの取れた判断を下せるようになりました。

他の子たちは、最初のお子さんの判断と私の問いかけから、より望ましい戦略を学んだのです。

このように「具体的操作期」の療育は、それまでの指導者がマンツーマンでついてわかりやすくお子さんに指示してあげるような形から、集団で子どもたちがお互いの様子を観察しながら学び合う形へと、変化していきます。

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具体的操作期のお子さんの療育では「集団」が大きな意味を持ってくる。

指導者の役割も、お子さんにいちいち指示をだすのではなく、一歩引いたスタンスで、何か気付きを得た子に「なぜそうしたの?」と問いかけてあげることで、本人の気付きを確かなものとするともに、他の子がその気付きを共有するのを助けることに変わってきます。

お子さんが判断に迷っていると、つい教えてあげたくなってしまいますが、そこで正しいやり方を教え、お子さんがその通り動いたとしても、それは単に大人の言うことに従っただけに過ぎず、「自分で考える」という習慣を身につけた事にはなりません。あくまで本人の気付きを促す関わりが大切です。

一気に拡がるアナログゲーム療育の世界

「パカパカお馬」という一つのゲームで上手な判断できたからといって、それがすぐに「客観的思考」の獲得に繋がるわけではありません。

状況にあわせた的確な判断が求められるよゲームを他にいくつもプレイしてもらうことで、様々な状況で「客観的思考」を使えるようになることが次の目標です。

次回は、「具体的操作期」に入ったお子さんの療育のさらなる展開をご紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数概念を身につける「雲の上のユニコーン」

数概念に遅れが見られるBくんのケース

前回の療育で、数概念の形成に課題があると思われた小学2年生Bくん。

今回は「雲の上のユニコーン」というゲームを使って、数概念の形成を促しました。

雲の上のユニコーン

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「雲の上のユニコーン」は、キラキラした宝石が子どもたちの興味を惹きつける人気のゲームで、この宝石をなるたけたくさん集めるのがプレイヤーたちの目的です。宝石を数える過程で楽しみながら数概念の獲得を促すことができます。

宝石をたくさん集めた人が勝ち

「雲の上のユニコーン」のルールを解説します。

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  • それぞれ1~3までのサイの目が刻まれた二つのサイコロがあります。
  • プレイヤーはまず水色のサイコロを振って出た目の数だけユニコーンを進めます。
  • 止まったコマがピンク色であれば、ピンクのサイコロを振り、出た目の数だけ宝石をもらえます。
  • 一番最初にゴールした人は宝石を4つもらうことができます。
  • 誰かがゴールしたらゲームは終了。宝石を一番多く集めた人が勝ちです。

Bくんの理解度をチェック

最初に、Bくんがどれくらい数の概念を理解しているかを調べるために、いくつか宝石を並べて数えさせてみました。

その結果、彼は2つまでであれば指で数えて正しく答えることができますが、3つ以上になると、数を数える指が飛んでしまい、正しくカウントすることが難しいことがわかりました。

そこで、私と、指導員の先生、Bくんの3人で「雲の上のユニコーン」を遊びながら、まずは1 ~3までの数の概念をしっかりと身につけてもらうことにしました。

Bくんがピンクのコマに止まったときは、箱に入った宝石を見せながら「いくつ取ったら良いかな?」と問いかけました。

最初は手当たり次第に宝石を取っていたBくんですが、私が「今でたサイコロの目はいくつ?」と問いかけ、Bくんが「2つ」答えるなど、その都度確認をしながらサイコロを取らせていくうち、やがて私の指示がなくとも、サイコロの目と同じ数だけの宝石を取れるようになりました。

「量の保存」の概念は形成されているか

このゲームを通じて、もう一つチェックしておきたかったのはBくんが「量の概念」をどれくらい身につけているか、ということです。

ゲームの中盤、宝石の獲得数が私が5つ、指導員さんが5つ、Bくんが7つとなったときに、「今一番たくさん宝石を持っているの誰?」と聞きました。Bくんは指導員さんを指差しました。

なぜBくんは間違ってしまったのでしょうか?

そのことを確かめるため、いったんゲームを中断して、子どもの認知能力を研究した心理学者ピアジェが行った、ある有名な検査を行いました。

雲の上のユニコーン

 

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Bくんに、上の写真のように「広い間隔で並べた5つの宝石」「狭い間隔で並べた6つの宝石」を2列に並べて提示し、「どちらの宝石が多い?」と聞きました。するとBくんは上段の5つの宝石の列を差しました。

実は、Bくんのように量の概念が充分発達していないお子さんの場合、みな同じ間違いをすることがピアジェの研究によって明らかになっています。

量の概念が充分発達していないお子さんの特徴として、「実際の数よりも見た目が優先する」ということがあります。上の実験では、子どもは宝石の数ではなく、並んでいるの列の長短を見て、長い方が多いと判断してしまうのです。

先のゲーム中、指導員さんの宝石が5つ、Bくんの宝石が7つであるにも関わらず、彼が指導員さんの宝石が一番多いと指差したのも、その直前に「指導員さんが3つの宝石を獲得した」という映像的なイメージが、実際の宝石の数よりも優先された可能性が高いと考えられます。

量の概念の形成を促す

ピアジェによれば、子どもが見た目に惑わされず、実数で正確に判断できるようになるのは7歳以降であるとされています。

Bくんはちょうど7歳ですから、上の実験で間違えてもそれほど心配する必要はないのですが、やがては正確に量を把握できるよう、療育を進めていきたいところです。

この点、「雲の上のユニコーン」は量の概念を身につけてもらう上で優れた教材です。ゲームが終わったあとで盤面をひっくり返すと、各プレイヤーごとに得た宝石を並べて順位を比較できるようになっているからです。

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このようにグラフ形式で提示すると、Bくんも誰が一番だったのかを理解することができます。こうして自分の順位を分かりやすく見せることで、少しずつ量概念の形成を促していくことができるのです。

「ありがとう」「どういたしまして」の練習もできる

「雲の上のユニコーン」はもう一つ特徴があります。「他の人にものをあげる」「受け取ったらお礼を言う」という練習ができるのです。

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写真のプレゼントマークのコマに止まったとき、サイコロを振った数だけ、他の人に宝石をあげげます。

このルールがあることでゲーム中で誰かに宝石をあげたり、受け取ったりする機会を作り出すことができるため、「宝石をもらった時は『ありがとう』と言う」または「『ありがとう』といわれたら『どういたしまして』と言う」といった、物のやりとりに関わる初歩的なソーシャルスキルトレーニングが行うことができます。

認知能力を踏まえたコミュニケーション療育を

Bくんの場合、「ありがとう」「どういたしまして」というコミュニケーションはとても上手にできました。そればかりか、「さっきこっちの人に宝石をあげたから、今度はこっちの人にあげる」といった具合に他者への平等さをも意識して振る舞うことができました。

このようにコミュニケーション面ではとても高い能力を見せるBくんですが、そんな彼にも前回の記事で示したように「順番が守れない」というコミュニケーション上の課題があります。その背景には数概念の形成の遅れがあり、いつ自分の順番が回ってくるのか把握するのが難しいという理由があります。

このように認知能力とコミュニケーション能力には密接な関わりがあります。従って、コミュニケーション上の課題を解決するためには、その背景にある認知能力をも意識して療育することが極めて重要なのです。

「目線や手振りに注目する」 ドラゴン・ディエゴ

非言語情報の読み取りを練習する

  • 今回ご紹介する「ドラゴン・ディエゴ」は、他者の目や手の動きといった非言語情報から相手の意図を読み取る練習ができるゲームです。

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「ドラゴン・ディエゴ」では、ゲームの箱自体が舞台となります。

順番の回ってきたプレイヤーは、6つのあるゴールの内ランダムに指定された1つに向けて、指で3つのボールを弾きます。指定されたゴールに入ると得点となります。

この時他のプレイヤーは、その人がどのゴールに向けて弾いたのかを予想します。予想があたれば、その人にも得点が入ります。

 

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弾く人に割り当てられたのはコイン印のゴール。3つのボールを弾いた結果、コイン印に1つ入ったので1点となる。他の人は、弾いた人がどこを狙っていたのかを推測し、カードで投票する。この場合右端のプレイヤーが当てたのでこちらも1点となる。

ゴールの幅は狭く、中々狙ったところにボールが入りません。縁に弾かれてあらぬところに飛んでいってしまうことのほうが多いです。そのため、ボールが入った場所だけをみても、どこを狙ってのか弾いたのか推測するのは難しいです。

ボールを弾いた人がどのゴールを狙ったのかを見抜くためには、ボールを弾く人の目や手の動きを観察することが重要になります。

 

発達障害のある人に多い非言語情報の読み取り困難

発達障害の中でも特にASDの傾向のある人は、表情や身振り手振りといった、非言語情報の読み取りに困難を持つことが多いと言われてます。

そのため、療育では、たとえばこのような表情と感情を対応させたプリントを用い、非言語情報の読み取り方を教えることもあります。

しかし、こうした知識以前に「目線や身振り手振りといった非言語情報から相手の意図や気持ちを読み取ることができる」ということを、本人にまず実感してもらうのが重要です。そのきっかけとなるのが「ドラゴン・ディエゴ」です。

このゲームを初めてプレイする子どもたちは、最初、弾かれたボールが入った場所だけ見て、狙った場所を判断しようとすることが多いです。

そこで指導員が、「入ったボールの場所だけじゃなく、目や手の動きも見てみよう」と言葉がけをします。あるいは、すでに目線や手の動きに着目している子がいるなら「◯◯ちゃんは、弾く人の目や手の動きを見ているよ」と、指摘してあげることで、他の子の注目を促すことができます。

こうした言葉がけがあると、子どもたちは弾く人の目線や手の動きに着目し、予測の精度があがり、得点が多く入るようになってきます。

時には、そのことを逆手にとって、自分が弾く順番のとき、わざと狙っているゴールと別の場所に目線を送り、他のプレイヤーの予測を混乱させようとする子も出てきます。しかし、ゴールを狙わないと得点にならないので、弾く直前にはチラッと本当のゴールを見なければなりません。弾く人にとっては悩ましいジレンマ、それを観察する他のプレイヤーにとっては見逃せない瞬間です。

こうして「ドラゴン・ディエゴ」では、他者の動きを観察してその意図を推測する練習を、楽しみながら繰り返すことができます。

この経験が、コミュニケーションにおいて時に言葉以上に重要になる、表情や身振り・手振りといった非言語情報の大切さに気づく、最初のきっかけとなるのです。

 

 

集団参加への勇気を取り戻す 「キャプテン・リノ」

 ゲームは楽しいばかりでなく、不安なもの

私がアナログゲームを使って発達障害の子どもたちの療育をしていると言うと、「ゲームの世界なら失敗しても怖くないから、お子さんも安心して取り組めますね」という感想をいただくことがあります。

私も最初はそう思っていたのですが、実際には違いました。

発達障害のあるお子さんたちを対象にアナログゲームを行う場合、まず最初に感じるのは彼らの強い不安感、緊張感です。この記事で取り上げたように、自分の不安感を隠して強さを誇示するため、わざと暴力的になる子もいます。

子どもたちのこうした不安・緊張の背景には、過去の失敗体験が大きく影響していると私は考えています。発達障害のあるお子さんは、注意や衝動の調整困難、あるいは認知の偏りといった障害特性により、同年代のお子さんとの遊びの中で失敗を繰り返し、笑われたり、集団から排除された結果「みんなで輪になって遊ぶ」ということに対して強い不安感を持っていることが多いのです。

集団遊びに不安感を感じるお子さんにとって、ゲームは楽しそうに見える反面、不安で恐ろしいものに見えています。ゲームは、自分の行動が成功したり失敗したりする様子が、他者の目にハッキリ映るからです。

ゲームに参加したがらない子どもたち

不安が強すぎて、そもそもゲームに参加しようとしないお子さんも一定割合います。理由を聞くと、「難しそう」「こういうの苦手だから」と答える子が多く、もっと率直に「負けるのが嫌だから」と言う子もいます。

こうした子たちは、いわば「集団参加への勇気が挫かれている状態」にあります。しかし、もし勇気を振り絞ってゲームに参加し「最初は不安だったけど、やってみたら楽しかった」という思いを持てたなら、その経験は別の場面、たとえば学校や地域で集団参加するときの勇気を取り戻すことに繋がるはずです。

見た目のインパクトNO.1 「キャプテン・リノ」

では、不安が強くゲームの輪に入ろうとしないお子さんに、どうしたら参加してもらえるのでしょうか。お子さん自身の過去の経験に根ざした困難ですから、小手先のテクニックではどうにもなりません。

こういうときは、お子さんの「怖い、やりたくない」という気持ちよりも、「面白そう、やってみたい」という気持ちが上回るようにするしかありません。一種の力勝負です。

ここでアナログゲームの本領が発揮されます。アナログゲームは本来は誰かに「面白い」と思ってもらえるため作られたものなのですから。

今回ご紹介するキャプテン・リノは、初対面の子どもたちが集まるゲームイベントなどで、ゲームに不安を感じているお子さんに興味をもってもらうためによく用いるゲームです。

プレイヤーごとに配られたカードを使って、高いタワーを組み立てて行きます。タワーを崩してしまった人が負けです。前の人が置いたカードにキャプテン・リノの描かれたマークがあると、キャプテン・リノ人形をそのカードの上におかなければならないため、難易度がグッと上がります。

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キャプテンリノのマークの入ったカードが置かれると、次の人はキャプテンリノ人形をカードの上に載せなければならない。ドキドキ。

上手く積み上げるとタワーの高さは1m以上になりすごい迫力があります。「いつ崩れるか・・・」と子どもたちが感じるスリルも最高潮になります。

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崩さずに積み上げると相当な高さに。見た目のインパクトはNO.1。


参加しない子は、まずは見学してもらう

ゲームが不安で参加を渋る子がいた場合、無理に参加させようとはせず、まずはほかの子がプレイしている様子を見学してもらいます。

積み上がるタワーのビジュアル的なインパクトや、そこに一喜一憂する子どもたちの歓声は、見学中のお子さんにとって、ゲームに興味を感じるきっかけとなります。

そして一度ゲームを見学することで、どうすれば成功でどうすると失敗なのかプレイイングに対する見通しがつけることができます。このことはお子さんの安心感に繋がります。

このように見学を通じてお子さんの興味と安心感を高めておければ、二回目のプレイの際、改めて促すことでゲームに参加してくれる可能性が高くなります。

高層マンションを組み立てていく「キャプテン・リノ」こちらも幅広い年齢層が遊べるゲームとしてゲーム会では定番です。

NPO法人EDGEで開催したアナログゲーム療育体験イベントの一幕。初対面同士、最初は緊張・不安の面持ちだった子どもたちが、キャプテン・リノでワッと盛り上がった。


最初不安だった子ほど意欲的に取組む

興味深いのは、最初不安感が強くゲームへの参加を渋っていた子ほど、一旦ゲームに参加すると誰よりもプレイを楽しみ、ゲーム会が終わる頃には「またやりたい!今度はいつ来てくれるの?」と言ってくれることです。

こういう時、その子は単にゲームが楽しかっただけでなく、不安を乗り越え集団に参加できたことへの喜びを感じているのです。この喜びが、人と関わる勇気を回復させることに繋がります。

このようにアナログゲームには、集団参加に対する不安を感じている子を、その不安を上回る興味で惹きつけて参加を促し、結果として人と関わる勇気を回復させる力があります。

この「勇気を回復させる」ことは、コミュニケーションスキルの獲得と並んで、アナログゲーム療育の重要な目的の一つだと考えています。

 

他者の動きに注意を払う「ウィーウィルロックユー」

他者の動きに注意を払う

発達障害のあるお子さんが共通して難しいのが、刻々と変わる周囲の状況を見て、臨機応変な対応をすることです。

AD/HDのあるお子さんは、集中の困難さゆえ、他のことに気をとられ、重要なことを聞き逃したり、大事なことを見逃してしまうことがしばしばあります。ASDのあるお子さんの場合、自身の興味に集中してそれ以外のことが見えにくいことが多くあります。

今回ご紹介する「ウィーウィルロックユー」では、周囲に合わせて一定のリズムに載って決められたポーズを取る経験を通じて、「他者の動きに注意を払う」習慣を身につけてもらうことを狙っています。

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「ウィーウィルロックユー」のルールは以下のとおりです。

1. 様々なポーズが描かれた絵が一人一枚ずつ配られます。それがその人のポーズです。

2. 全員が「ドン・ドン・パン」と、ロックンロールの名曲”We will rock you”のリズムにのって、膝と手をたたきます。

3. 自分の番の人は、リズムにあわせてまず自分のポーズをとり、次に他の誰かのポーズをとります。

4. 直前にポーズをとられた人に順番がうつります。同じく1回目で自分のポーズ、2回目で他の人のポーズをとり次の人に回していきます。

5. うっかりポーズをとることを忘れたり、自分のポーズを間違えたり、リズムを崩してしまったらその人が負けです。10回プレイし、一番失敗した回数が少ない人が勝ちです。

ゲームをプレイ中の動画がこちらのページに上がっていますので御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=O1hPZm83X6k#t=13

失敗したことがすぐ気づけるのが良い

似通ったポーズもあり、間違えないよう注意する必要がある。

似通ったポーズもあり、間違えないよう注意する必要がある。

「ウィーウィルロックユー」プレイヤーはリズムにあわせて膝や手をたたきつつ、今誰がポーズをとっているのか、いつ自分のポーズが出るか、目をそらさず注意し続ける必要があります。

 他のことに気をとられたり、ボーっとしていると、すぐに「誰の番だっけ・・?あっ自分だ!」となって失敗してしまいます。

日常生活ではなかなかこうはいきません。
たとえば、先生に「宿題です。明日までにこのプリントをやってくるように」と言われたのを聞き逃してしまったとします。お子さんがそのことに気づくのは、翌日宿題を提出するときです。

そのときに「昨日、プリントやってくるようにいったでしょ!ちゃんと話を聞きなさい!」と叱られても、すでに過ぎたことをもう一度思い起こして気をつけることは大変困難なのです。

 「ウィーウィルロックユー」が注意力の訓練ツールとして優れているのは、相手が自分のポーズをとったのを見逃すと、次の瞬間には失敗が明らかになることです。

注意を怠った瞬間に失敗するため、お子さんは「今他の事に気をとられていたな」「さっき自分はボーっとしていたな」と自覚しやすく、また指導員も「今よそみをしていたね。残念!」「ちょっと今ボーっとしてたんじゃない?」と言葉がけがしやすいのです。

このゲームを通じて、お子さんに「他の人の動きを注目していないと負ける」という体験、続いて「しっかり注目したら勝てた」という体験を短時間のうちに繰り返してもらうことで、必要な場面では周囲を注目する習慣をつけてもらうことができます。

作業ができたら報告する「メイクンブレイク」

積み木課題をゲーム化

メイクンブレイクは、提示された見本どおりに積み木を積み上げ、時間内により多くの課題を完成させた人が勝ちとなるゲームです。

見本通りに積み木を積み上げることは、眼と手の協調性を高める目的で、発達障害のあるお子さんに最もよく用いられる療育課題の一つです。

メイクンブレイクは、その積み木課題にゲーム要素を取り入れ、よりお子さんが楽しめるように工夫されています。

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自分でタイマーをセットする

メイクンブレイクは、最初にお子さんがサイコロをふり、出た数字にあわせたタイマーを自分でセットします。

そしてスタートボタンを押し、積み木を組み立て始めます。見本通り完成したら「できました」と報告します。

指導者は、完成した積み木が見本通りであれば、次の課題を提示します。タイマーが切れるまで全部でいくつの課題ができたのかを競います。

実際のプレイの様子はすごろくやさん製作の動画を御覧ください。

 

お子さんの自主性を育む

メイクンブレイクを用いたトレーニングでは、指導者はできるだけお子さんにアドバイスしないようにすることが大切です。

「サイコロを振り、出た数字に合わせてタイマーをセットする。心の準備ができたらスタートボタンを押し、出された課題通りに積み木を組む。完成したら『できました』と報告する」

という一連の流れを、指示がなくとも自律してスピーディにできるようになることがこの課題の目標だからです。

自閉症のあるお子さんの中には、視覚認知に優れ、目で見たものを正確に描いたり、細かいパズルを素早く作れる子がいますが、そうした子の場合、メイクンブレイクで大人も驚くようなスピードで積み木を組み立てることができます。

ところが完成を報告する段階で、つまづいてしまうことが多々あります。

ほぼ見本通りにできているのに、積み木の位置や向きの些細なズレを修正することにこだわりすぎ、いつまで経っても「できました」と報告せず、そのまま時間切れになってしまうことが多いのです。

 

職場で現れるこだわりの強さ

この「ささいなことにこだわりすぎて作業が進まない」という問題は、自閉症のある大人の人が職場で働くときにしばしば見受けられることです。

以前、企業の人事担当者の方から、

「自閉症のある青年を雇って工場のラインで作業させているのだが、ほんのちょっとでも異常があるとすぐに緊急停止ボタンを押してしまう。そのため一日に何度も生産が止まってしまい、効率が悪くなって困っている」

というお話を聞いたことがあります。

異常があったらすぐにラインを停めないといけないのは確かなのですが、その自閉症のある青年の判断基準が厳密すぎるため、、結果的に生産効率が犠牲になってしまっているのです。

ちょうどメイクンブレイクで正しい積み方に厳密になりすぎ、得点の機会を逃してしまうのと同じ形です。

 

状況に応じた適切な判定を、「メイクンブレイク」で学ぶ

大切なことは、自分の基準で判定してしまうのではなく、その場で求められている基準を見て、そこにあわせて判定できるようになることです。

「メイクンブレイク」でその部分を指導することができます。

具体的には、ゲームを進めて行く上で、チェックが厳密すぎるお子さんがいた場合、その子順番を最後に回します。

その上で、他の子が課題を完成させるのを見せ、指導員が「これはちょっとズレすぎてるよ。やりなおし。」あるいは「うーんちょっとズレてるけどこれぐらいならOK」などと判定している場面に注目させます。

その際「さっきのはダメだけど、今くらいのズレならOKみたいだよ。」とアドバイスし、どのくらいの厳密さで組み立てれば良いのか、具体的にイメージを掴ませてあげます

こうした指導により、チェックが厳しすぎたお子さんはその基準を緩め、ほどほどのところで「できました」と報告できるようになります。その結果得点が増え、順位も上がってきます。

こうした経験をくりかえすことで自分独自の基準にこだわるお子さんに、その場その場で求められる基準があり、そこに合わせることで高いパフォーマンスが上げられるという意識をつけてもらうことができます。

その意識は、その子が将来働くときに必要になります。